ダラー・ブランド(アブドゥーラ・イブラヒム)追悼
text: Hiromi Inayoshi Prof. Prof. 稲吉紘実
また一人、私にとってかけがえのない巨人が旅立った。
大学時代、私は薄暗いJAZZ喫茶で、ダラー・ブランドの「African Piano」に出会い、強烈な衝撃を受けた。それまで聴いてきたJAZZとはまったく異なる世界が、そこにはあった。スウィングでもビバップでもない。そこにあったのは、人間の生命そのものがピアノとなって躍動するような、圧倒的な音楽だった。
ダラー・ブランド、後のアブドゥーラ・イブラヒムは、JAZZの中に独自の精神世界を築き上げた稀有な音楽家である。私が彼に惹かれ続けた理由は、その卓越した即興演奏だけではない。何よりも彼は、現代を代表する偉大なメロディメーカーの一人であった。「Mannenberg」「African Marketplace」「The Wedding」──。
彼の旋律は美しい。しかし、その美しさは単なる甘美さではない。祈りや郷愁、歓びや悲しみ、人々の営みそのものが、一つの旋律の中に息づいている。一度耳にしただけで心に残り、いつしか人生の風景と重なっていく。
優れた演奏家は数多い。しかし、人々の心に永く生き続ける旋律を書ける芸術家は極めて少ない。ダラー・ブランドは、その数少ない存在であった。そして彼の即興演奏は、技巧を誇示するためのものではなかった。わずかなモチーフを繰り返しながら、音楽は自然に姿を変え、深まり、聴く者を別の世界へと導いていく。そこにはJAZZというジャンルを超えた、音楽の原初的な力があった。
私は「African Piano」との出会い以来、半世紀以上にわたり彼の音楽を追い続けてきた。キース・ジャレットやジョン・コルトレーンとともに、私の精神形成に大きな影響を与えてくれた音楽家である。彼らに共通していたのは、音楽を単なる娯楽や表現の手段としてではなく、人間の魂と深く結びついた営みとして追求したことであった。
ダラー・ブランドの音楽は、人類を語り、人生を語り、そして何より、人間の魂そのものを語っていた。あの日、「African Piano」に受けた衝撃は、今も私の中で生き続けている。それは、ピアノによる人間の生命そのものの鼓動であった。
長い間、本当にありがとうございました。
心からの感謝と哀悼を込めて。
Professor Hiromi Inayoshi is an expert in various design fields and a distinguished multidisciplinary artist. In the realm of design, he is a leading figure in mark and logo design and a world authority on Corporate Identity (CI) design.
He won dual Gold Medals at the New York ADC Awards in the Advertising Poster category, earning recognition as the world’s best. He has received over 100 design awards both domestically and internationally, including the 2026 iF Design Award.
Professor Inayoshi has also expanded his creative practice as a music director, producing jazz and opera performances in New York.
He serves as the General Director of “Love Earth Love Children World Art & Music Aid,” where he integrates art, music, and social advocacy on a global scale.
