R.I.P. Giuseppi Logan
追悼 ジュゼッピ・ローガン

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text : Ring Okazaki  岡崎凛

ジャズ・シーンから姿を消して数十年後、突如ニューヨークの公園に現れ、音楽活動を再開して話題となったサックス奏者、ジュゼッピ・ローガン。先月、ついに彼の訃報を聞く日が来てしまった。YouTube 動画で何度となく見た白髪にメガネ姿の彼が、全て遺影になってしまったのは寂しい。
以下、II. が本稿のメインなのだが、I. 、III. を添えて彼への追悼文としたい。

I. 2人はともに享年84歳―ジュゼッピ・ローガンとヘンリー・グライムス
II. 代表作となったファースト・アルバム『The Giuseppi Logan Quartet』(ESP 1964)
III.セカンド作から45年後に出たサード・アルバム『The Giuseppi Logan Quintet』(Tompkins Square 2010)

I.
ジュゼッピ・ローガンがこの世を去ったのは、ベーシストのヘンリー・グライムス(Henry Grimes)が亡くなって2日後の2020年4月17日だった。2人は同い年の84歳で、ともに Covid-19 に感染していたとされている。日本のネットニュースも「フリージャズのレジェンド2人」が相次いで亡くなったと報じた。

ジュゼッピ・ローガンとヘンリー・グライムスは、ニューヨーク市での Covid-19 感染拡大による犠牲者となり、生まれた年も同じ1935年であるという以外に、その経歴に多くの共通点がある。2人はともに、フリージャズ幕開けの時代に重要作品を ESP-DISK に残し、60年代後半にジャズ界からいったん姿を消し、その後数十年のブランクを経てニューヨークのジャズ・シーンに戻ってきた。

米国のジャズ・ファンによるネット投稿によれば、2009年のヘンリー・グライムスのライヴにローガンがゲスト参加し、サックスを吹いていたという。グライムスは彼より数年早くジャズ界に復帰し、ベース、ヴァイオリンの演奏と詩の朗読を行うソロ・コンサートを開いていた。グライムスはこのスタイルのライヴを数年前まで行っていたようだ。

彼とローガンについて調べて行くと、フリージャズ・プレイヤーが音楽家として生きる厳しさ、音楽活動の再開を後押しするジャズ仲間の暖かい支援など、ヒューマン・ドラマを眺めるような逸話に次々と出会う。2人の共通の友人がウィリアム・パーカー(b) であるらしい。彼はグライムスに楽器を提供し、彼の音楽界への復帰を促した人物である。今後彼の口から、2人の思い出が語られるのかもれない。
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II.
『The Giuseppi Logan Quartet』(1964)
1.Tabla Suite 05:48  2.Dance Of Satan 06:17  3.Dialogue 08:23  4.Taneous 11:56 5.Bleeker Partita 15:34 (All compositions by Giuseppi Logan)

Personnel:
Giuseppi Logan(ジュゼッピ・ローガン): alto sax, tenor sax, pakistani oboe, bass clarinet, flute
Don Pullen(ドン・プーレン): piano
Eddie Gomez(エディ・ゴメス): bass
Milford Graves(ミルフォード・グレイヴス): drums, tabla
Recorded on October 5, 1964 at Bell Studios, NYC

訃報を聞いた翌日、ジュゼッピ・ローガンのファースト・アルバム『The Giuseppi Logan Quartet』をCD棚から取り出し、しばらく眺めていた。

11年前、奇妙なジャケット・デザインに引き寄せられるように、このCDを買った。ほとんど予備知識はなく、リーダーのジュゼッピ・ローガン (sax, bcl) も知らなかった。他の共演者の3人、とくにドン・プーレンを聴きたいというのが購入動機だった。それまで ESP というレーベルさえ知らなかった自分にとって、衝撃的なアルバムだった。

聴いた後しばらくは、ローガンのエスニック・テイストな曲〈Dance Of Satan〉が頭から離れず、ドン・プーレンのパーカッシヴなピアノの音が脳内で駆け巡っていた。もどかしげに吹き続けるジュゼッピ・ローガンのサックスに、個性豊かなダンサーの動きを連想した。いつも思うのだが、このアルバムは聴いているときよりも、記憶の中でさらに輝きを増すのだ。

久々にCDをかけ、4人が逸脱を楽しむかのように繰り広げるフリー・インプロヴィゼーションをじっくり聴いた。1曲目のチャルメラのような音は、クレジットにパキスタン・オーボエと記された楽器だろう。これは北インドではシェーナイ(シャナイ)と呼ばれる楽器と思われる。

ジュゼッピ・ローガンがふらつくように鳴らすサックスが何とも味わい深い。ドン・プーレンの切れ味鋭いピアノも、最年少ながらカルテットをしっかりと支えるエディ・ゴメスのベースも、躍動感に満ちている。ミルフォード・グレイヴスのドラムは野趣にあふれながらも、繊細なシンバルワークで機敏に反応している。

1964年当時若手だった4人(当時20~29歳)の演奏は荒削りだと言われることがあるが、これはおそらく、リーダーで最年長のローガンの演奏に納得がいかない人が、遠回しに彼を非難したかったためではないだろうか。ローガンに比べると、彼を支える3人には抜群の安定感がある。フリージャズ作品を語るのに安定感という言葉はそぐわないかもしれないが、ここではこの表現が分かりやすいと思う。

とにかく、ジュゼッピ・ローガンの場合、このふらふらした危うい感じが、本作を限りなく魅力あるものにしていると思う。そして他の3人も、それを理解した上で彼との共演を楽しんでいるように感じる。また、意図的にやっているかどうかは分からないが、このアルバムはプリミティヴなアート感覚にあふれている。

ざっくりと言えば、ワンホーンのふらふらした音と、それを支えるトリオの引き締まった演奏、というのがこのカルテットの基本形であると思うのだが、それでもリーダーの個性がこのカルテットの生命線であることは間違いない。時おりジュゼッピ・ローガンが、要所を見極めるようにビシっと切り込む瞬間がある。この意外性がまた心地よいのだ。

じつはこの追悼文を書くにあたっては迷いがあった。ジュゼッピ・ローガンの演奏について、ジャズ・レジェンド的プレイヤーを、「ヘタウマ」という観点で語るのは、誤解を招きそうだと悩んでいたのだが、根田恵多氏が本誌でテニスコーツのジャズ・カバー作品を評した際に(#1634 『テニスコーツ&立花泰彦 / Waltz for Dubby』)、ジュゼッピ・ローガンの名前を挙げているのを読んで、勇気を得た。「ヘタウマ」という言葉は使わないまでも、ニュアンスとしては同じようなことを書くことにした。

以下、根田恵多氏の記事の一部を引用するが、もちろん前後の文章も読んで頂きたいと思う。(引用については、根田恵多氏の許可を得ています)

特筆すべきは、植野(隆司)のサックスだ。植野は、たとえば優れたバップのミュージシャンがそうするように、楽器を思いっきり気持ちよく鳴らしてはいない。微妙に揺らぎながら、なんとも言えない、身体の奥から絞り出すような音色で吹き続ける。この植野のサックスには、胸に迫る謎の哀愁のようなものを感じずにはいられない。ジャズのサックスプレーヤーを評する際に、「パーカー派」とか「コルトレーン派」といった分類がなされることがあるが、植野はこうした分類には当てはまらないだろう。強いて言うならば、この植野のサックスの「味」に一番近いのは、ジュゼッピ・ローガンなのではないか。まさかの「ジュゼッピ・ローガン派」の誕生か?

#1634 『テニスコーツ&立花泰彦 / Waltz for Dubby』
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-44591/

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III.
ジャズ界復帰後のアルバム『The Giuseppi Logan Quintet』について:
2009年はローガンの人生が大きく変わった年である。長く行方不明と言われていた彼は、2008年、突如ニューヨークに現れる。イースト・ヴィレッジの公園でサックスを吹く姿が YouTube で公開され、音楽活動再開をめざす彼への支援が呼びかけられた。やがて彼はトランペット奏者マット・ラヴェル(Matt Lavelle)に誘われて一緒に演奏するようになり、45年ぶりのアルバム録音への道が開けていった。デイヴ・バレル(p)の好サポートを得た『The Giuseppi Logan Quintet 』(2010) はこうして生まれ、ローガンが公園でよく演奏していた〈Over The Rainbow〉も収録されている。

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岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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