S-006 「身もこがれつつ」「恋をせめくる」と〈You’d be so nice to come home to〉
text by Shinobu Yamada 山田詩乃武
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに
焼くや藻塩の身もこがれつつ
数多ある恋歌の中でも白眉とされるこの和歌は、「美の鬼」とも「美の使徒」とも称された歌聖・藤原定家によるもので鎌倉時代建保四(1216)年、順徳天皇主催の「内裏歌合」に出詠された。
歌意は、(松帆の浦の夕凪時、浜で焼いている藻塩のように、来てはくれない人を思って、恋焦がれているわが身なのです)。
You’d be so nice to come home to
You’d be so nice by the fire
(あなたのもとに帰れたら素敵なのに
あなたが暖炉のそばに居てくれたらいいのに)
1955年ヘレン・メリル(ヴォーカル)とクリフォード・ブラウン(トランペット)が共演し、新進気鋭のクインシー・ジョーンズがアレンジしたアルバム『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』の中の〈You’d be so nice to come home to〉は大ヒットし、もとは映画の挿入歌であったが、これ以降ジャズのスタンダードとして定着した。
恋する人への「熱い」思いは、洋の東西を問わず、時代を越えても変わらない。
定家の和歌に関連した江戸・明治期の尼僧で陶芸家でもあった歌人の大田垣蓮月のこんな和歌もある。
来ぬ人をまつの梢に月は入り
恋をせめくる風のおとかな

