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和歌とジャズ 山田詩乃武No. 340

S-010 在原業平と「Can’t help falling in love」

text: Shinobu Yamada 山田詩乃武

思ふには忍ぶることぞ負けにける

        逢ふにしかへばさもあらばあれ

― 貴女を慕う気持ちに耐え偲ぶことが負けてしまったのです。逢うことさえできるのなら、もうどうなろうと私はかまいません。—

帝の寵愛を受ける女との「危険な関係」を描いた『伊勢物語』第65段で詠われた。『新古今和歌集』1151番。この和歌の作者は稀代の「色好み」、平安時代初期の貴公子  在原業平(ありはらのなりひら)。美男で和歌に秀で、天皇の孫という高尊の生まれでありながら、自由な心の持ち主であったと伝わり、光源氏のモデルともされた。『伊勢物語』は、この在原業平をモデルにして描かれた日本最古の歌物語で、作者は不詳。全125段から構成されており、多くの段が「昔、男ありけり」という冒頭句で始まり、男(業平)が高貴な女性たちとの「禁忌の恋」が多く語られているが、親子愛、主従愛、友情、社交生活など多岐にわたる普遍的な人間関係の諸相も描き出している。

「Can’t help falling in love」邦訳は「好きにならずにいられない」。
1961年に公開されたエルヴィス・プレスリー主演の映画『ブルー・ハワイ』でプレスリーが歌った挿入歌。現在もジャンルを問わず多くのアーティストによって歌われ演奏されている不朽のラブ・バラード。そもそも、オリジナルは女性の立場で歌われていたが、プレスリーが歌ったことで男性の立場でも違和感を感じさせない。

Take my hand
Take my whole life, too
For, I can’t help falling in love with you

わたしの手を取って
私の人生も一緒に
だって、あなたのことが好きでたまらないんだもの

女性の立場で訳するとしっくりくるような気がする。

マイケル・ブーブレのジャジーで語りかけるような色気たっぷりの歌声もいいが、2011年にリリースされたクリス・アイザック(Chris Isaak)のアルバム『BEYOND THE SUN 』の5曲目に入っているトラックが今のところ最も好きなヴァージョン。余談だが、ここでの邦訳は何故か直訳に近い「恋に落ちずにはいられない」となっている。

在原業平は「禁忌な恋」「叶わぬ恋」ゆえに烈しく情熱を燃やし、「陥穽に落ちてしまう(Falling in love)こと」も厭わない、恋に生き、歌に生きた正真正銘の「色好み(Playboy)」だった。

山田詩乃武

山田詩乃武 やまだしのぶ 歌人・文筆家・佐渡郷土史研究家。 新潟県佐渡島真野新町生れ。新潟県立佐渡高校、青山学院大学経営学部第Ⅰ部 出身。農林水産省補助事業 6 次産業化中央サポートセンター プランナー他、公私の委員、理事、顧問を歴任。著書に『順徳天皇 ― 御製で辿る、その凛烈たる生涯 ―』(PHP 2021)。2025年、小説『憂き世をば ―順徳天皇物語―』上梓予定。趣味:ジャズ&オーディオ。

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