JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

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特集『ECM: 私の1枚』

小西啓一『Paul Bley / Open, To Love』
『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』

JazzTokyo がこの4月でなんと300号とのこと、誠におめでとうございます。厳しくも結構短気でもありながらジャズへの尽きない愛情を持ち続ける、硬骨漢にしてユーモリストの稲岡邦彌編集長はじめ、スタッフの方たちのご苦労に大いなる謝・謝を!

さて今回の300号記念は、“ミスターECM”とも呼ばれる JazzTokyo の主、稲岡編集長に因んで“ECM”特集の様で(註:誤解が認められますが、原文を尊重しママとさせていただきます:編集部)、その最も印象深い1枚を…と言うこと。この ウェブ・マガジンに関係するライターのほとんどの方は、熱心な“ECM”フォロアーの筈。対してぼくはこのレーベル・アルバムの、余り良い聴き手とは思っていないだけに、このお題にいささか躊躇してしまうのだが…。と言い訳をかましながらぼくが挙げたい “ECM” の1枚は、ジャズの世界を牽引し続けているこの卓越したレーベルの最初期の1枚にして、恐らく数多あるピアノ・ソロ・アルバムの中でも最上位に位置すると思われる、今は亡きポール・ブレイの『オープン、トゥ・ラブ』(ECM1023/72-9)である。
この静謐・内省的で例えようもなく深淵・耽美、緊迫感に満ち溢れた音世界は、まさにこのレーベルのコンセプト “沈黙の次に美しい音” を、ダイレクトに象徴するもの。このソロの前に、“ECM”ではキースとチックもソロ・アルバムを発表しているが、このアルバムを前にしては大分影も薄い。アルバム完成時にプロデューサーのマンフレート・アイヒャ―が、「傑作が誕生した…」と稲岡氏に伝えて来たとも聞いたことがあるが、あの冷静沈着な彼がそう興奮する程の圧巻の音世界がここにはある。
ぼくにとってもこのソロ・アルバムは、夭逝してしまった元スイング・ジャーナル誌の編集長で敬愛する大学クラブの後輩、村田文一君が若い頃起こした雑誌『Jazzland』(1年で潰れてしまった…)で、そのレビューを書かせてもらった”ジャズ物書き“としてのデビューにもなった、想い出深いアルバムでもある。そこでは余りにも想いを詰め込み過ぎ失敗したので…、ここではこれ以上何も書かない。
そしてもう1枚だけ、“ECM”で印象深いアルバムを上げさせてもらうとすると、ブレイのソロとは対照的なラージ・アンサンブル作品。現代ジャズ・シーンで最重要なサックス奏者の一人、クリス・ポッター率いるアンダーグラウンド・オーケストラの『イマジナリー・シティーズ』(ECM2387)。今世紀の新たな”ECM“伝説を象徴する秀作だとぼくは信じる。


ECM 1023

Paul Bley (piano)

1 Closer  (Carla Bley) 5:52
2 Ida Lupino (Carla Bley) 7:33
3 Started (Paul Bley) 5:14
4 Open, To Love (Annette Peacock) 7:10
5  Harlem (Paul Bley )3:20
6  Seven  (Carla Bley) 7:23
7  Nothing Ever Was, Anyway (Annette Peacock) 6:00

Recorded September 11, 1972, at Arne Bendiksen Studio, Oslo.
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Produced by Manfred Eicher

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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