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特集『ECM: 私の1枚』

佐藤英輔『Jack DeJohnette / Special Edition』
『ジャック・ディジョネット/スペシャル・エディション』

素直に、ECM盤のなかでは一番回数を聞いただろうアルバムをあげる。ジャック・ディジョネットの、スペシャル・エディションの1作目だ。79年3月、ニューヨークでの録音。この後のスペシャル・エディションのアルバム・プロデューサーにはもちろんアイヒャーがクレジットされているが、これはディジョネット自身が務めた。それは、アイヒャーが録音に立ち会っていなかったからか。

まあ、ぼくもこのアルバムをECM発だから愛聴したのではない。理由は明快、このころデイヴィッド・マレイとアーサー・ブライスのことを大好きだったからだ。二人とも一時は重なるように、インディア・ナヴィゲイションからアルバムを出したりもしたな。当時、大学生のぼくは大のロック/ファンクの愛好者だった。そして、その流れでオーネット・コールマンのハーモロディック・ファンクに入れ込み、そこから一部のアヴァンギャルド系の奏者を追いかけるようになり、そうしたなかこの二人は大のお気に入りであった。
実はそのころ、ディジョネットのことはそれほど知らなかった。ははは。でも、この二人がフロントに立っているならばと、このアルバムを聞きまくった。当時はあまりジョン・コルトレーンも聞いていなかったが、ここで2つも彼の曲をやっており、コルトレーンもちゃんと聞かなきゃナと思った記憶がある。
というのはともかく、鋭敏にして個性的な決定的ホーン奏者を起用したこの作品(後のスペシャル・エディション作は管奏者を替えて録音された)は正義のジャズ、そのもの。ワケが分からないことを含めて最高、これこそはぼくが大好きなロックやブラック・ミュージックの先にある表現なのだと心でヒャッホーしまくり、繰り返しターン・テーブルにのせた。
繰り返すが、アイヒャーが制作していないことも含め、このイケてるアフリカン・アメリカンたちによる本作をECM発と意識して聞いたことはない。だが、当時のアメリカの先端にあったジャズをカタログのなかに収めてしまう度量の広さ、不可解なスケール感に対する同社へのぼくの畏怖は、このアルバムによって植え付けられたように思う。とともに、ECMのブラック・ジャズ・アルバムという物差しを使うことで同レーベルのブラック・ホール的なジャズ観の妙が浮かび上がってはこないだろうか。とも、ぼくは思う。その第一作は、当時ミュンヘンにいたとはいえマル・ウォルドロンの、キング牧師の有名フレイズをアルバム表題に冠したアルバムであるし。
ところで、一つ蛇足を。キップ・ハンラハンのコンジュアのブルーノート東京公演に、デイヴィッド・マレイはメンバーとして同行したことがあった。2003年8月3日、その最終日のセカンド・セットを見たのだが、終演後にマレイが客席側にふらりと出てきた。お。これは、かつて身を焦がした身としては声をかけたくなるではないか。名前を名乗り大ファンです(でした、とはさすがに言えない。90年代に入ると緩くなってしまい、ぼくのマレイに対する興味はびっくりするぐらいに下がってしまった)と伝えると、「キミはミュージシャンやっているの?」と、彼は聞いてくる。「いえ書くほう、ジャーナリストです」。「カード、もらえるかな?」。(名刺を見ながら)「うん、キミの名は知っている。スイング・ジャーナルで見ているよ」、「またあ。確かにスイング・ジャーナルでレヴューを書いているけど、読めないでしょ」。「いや、友人が訳してくれるんだ」と、生真面目にマレイはそう言う。気のいい(?)、ラヴリーなおやじであった。


ECM 1152

Special Edition :
Jack DeJohnette (Drums, Piano, Melodica)
David Murray (Tenor Saxophone, Bass Clarinet)
Arthur Blythe (Alto Saxophone)
Peter Warren (Bass)

Recorded March 1979, Generation Sound Studios, New York
Produced by Jack DeJohnette

佐藤英輔

Eisuke Sato 1958年生まれ。音楽評論家。編集者を経て、1986年からフリーランスで文章を書いている。ジャズ以外の音楽も大好きでよく聞くが、それでも今のジャズは興味深い。いや、不滅のジャズ回路や衝動とつながった音楽は面白いと感じている。それが、ジャズと呼ばれないものであったとしても。ライヴのことを中心に書くブログは、https://eisukesato.exblog.jp。昔のほうも生きていますが、4月から移転しました。月別ではnoteでも読めます。

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