吉田隆一『Jan Garbarek & Bobo Stenson Quartet / Witchi-Tai-To』
『ヤン・ガルバレク=ボボ・ステンソン・カルテット/ウィッチ・タイ・ト』

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私の「ファーストECM」は、ヤン・ガルバレク=ボボ・ステンソン・カルテット『Witchi-Tai-To』でした。ただし「ECM: 私の1枚」に本作を選んだ理由はそれだけではありません。本作はジャズ史に於いても重要な作品です。演奏内容の素晴らしさは言うに及ばず、私が考える「ジャズの第三世界」と呼ぶべき人々の意思がこだましているからです。

それは選曲から端的に見て取れます。一曲目「A.I.R」はカーラ・ブレイの大作『Escalator Over the Hill』作中でドン・チェリーがフィーチャリングされる楽曲です。カルロス・プエブラがチェ・ゲバラに捧げた楽曲『Hasta Siempre』は、チャーリー・ヘイデン・リベレーション・ミュージック・オーケストラの一作目収録「Song for Che」でのコラージュが印象的です。

タイトル曲「Witchi-Tai-To」はネイティヴ・アメリカンの血をひくサックス奏者ジム・ペッパーの楽曲です。米国ジャズにはネイティヴ・アメリカンの血脈もありますが、ジム・ペッパーが自身のルーツを前面に押し出したこの楽曲は、ジャズに留まらない20世紀音楽史上の重要作です。

……余談ですが、テナーサックス奏者であるヤン・ガルバレクの音色にはどこか(『Escalator Over the Hill』、『Liberation Music Orchestra』に参加した)ガトー・バルビエリに通じるところがあります。単に「楽器のセッティングが共通しているから」というだけでは説明できないない音色と歌い口にそれを感じます。

ジム・ペッパーはリベレーション・ミュージック・オーケストラにも参加していますが、一作目収録楽曲の演奏時に、ガトー・バルビエリが担当していたパートを演奏しています……無論、それ自体は偶然でしょうが「ブラック・ミュージックとしてのジャズ」という文脈から外れたサックス奏者、という共通点を踏まえると、チャーリー・ヘイデンと編曲者カーラ・ブレイによる人選自体に意味を感じます。

本作ラスト「Desireless」は、ドン・チェリー作曲であり、カーラ・ブレイらが組織したThe Jazz Composer’s Orchestraとの演奏で知られる楽曲です。

つまり本作の背景には、ドン・チェリー、カーラ・ブレイ、ジム・ペッパーのほか、チャーリー・ヘイデン、そして間接的にですがガトー・バルビエリの存在(ガトーとドン・チェリーの関係も重要です)が見えるのです。彼らは米国で活動しながら、それまでとは異なる新たなジャズの流れを作り出した人々です。私が彼らを「ジャズの第三世界」と呼ぶのにはそうした意味合いがあります。そしてその流れの先にある音楽=本作が欧州のレーベルから発表された点を私は重視します。

本作は、ヤン・ガルバレクとボボ・ステンソン、マンフレート・アイヒャーによる、いわば「宣言」のような音楽と解釈できるのです。米国発祥の「ジャズ」という音楽を、米国の音楽家とは違う視点で見つめ、新たな角度から送り出すという。

そして本作は、唯一無二の音楽を奏でるようになっていくヤン・ガルバレクの分水嶺であったと、私は考えているのです。


ECM 1041

Bobo Stenson Quartet
Jan Garbarek (Soprano Saxophone, Tenor Saxophone)
Bobo Stenson (Piano)
Palle Danielsson (Double-Bass)
Jon Christensen (Drums)

1 A.I.R. (Carla Bley) 08:15
2 Kukka (Palle Danielsson) 04:32
3 Hasta Siempre (Carlos Puebla) 08:10
4 Witchi-Tai-To (James Pepper) 04:24
5 Desireless (Don Cherry) 20:25

Recorded November 1973 at Arne Bendiksen Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Produced by Manfred Eicher



吉田隆一よしだりゅういち
バリトンサックス&フルート奏者、作編曲家。SF+フリージャズトリオ『blacksheep』(吉田隆一bs,スガダイローp,石川広行tp)を中心に、ジャンルを横断する音楽活動を行なっている。バリトンサックス無伴奏ソロをライフワークとして継続。”SF音楽家” を名乗り、SFやアニメに関するコラム/解説の執筆を手掛ける他、SFトークイベントの主宰や出演、SFと音楽のコラボ企画を継続して行なっている。一般社団法人 日本SF作家クラブ会員/第4期理事。

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