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特集『ECM: 私の1枚』

粂川麻里生『Keith Jarrett / My Song』
『キース・ジャレット/マイ・ソング』

1976年だから、私は中学2年だったようです(「厨二病」ということですか……)。FMラジオでDJの人たちが少し興奮した調子で、「キース・ジャレット・クァルテットの『カントリー』をお聴きください!」と、このアルバムの代表曲のひとつを流していたのを覚えています。あまりに美しく、リリカル(という言葉を、私はこの当時覚えました)な演奏は、「こんな音楽があり得るんだ!」という驚きが、FMリスナーのみならず、放送局の人たちの間にさえ広がっているのを感じたものです。私も、「なんと美しい……」とほとほと感心し、カセットテープにエアチェックして(なので、パレ・ダニエルソンのベース・ソロまで……)、毎日何回も聴いていました。「キース・ジャレット」という、これまた音楽的な名前もこの時知りました。

『マイソング』のLPを買ったのは、大学生になってからです。その頃、『マイ・ソング』が「美しすぎる」「これでもジャズなのか」という論争のタネになっていたことも知りました。「なるほど、“きれいすぎる”という批判がありうるのか」と当時はそれなりに納得し、「たしかに、こういうひたすらきれいな曲は、いつか飽きてしまうのかもしれないな」と思ったものです。

しかし、還暦を迎えた今に至るまで、この曲に退屈したことは一度もありません。どんなにくたびれた時も、どんなに悲しい時も、いつも、深く澄んだ水に浸るような経験をさせてくれ、私を少年の日憧れたアンドリュー・ワイエスが描く風の吹き抜ける草丘に連れて行ってくれました。もっとも美しい音楽は、もっとも深い音楽でもあり得ることを、ずいぶん長い時間をかけて私は知ったように思います。


ECM 1115

Keith Jarrett (Piano, Percussion)
Jan Garbarek (Tenor Saxophone, Soprano Saxophone)
Palle Danielsson (Double-Bass)
Jon Christensen (Drums)

1 Questar (Keith Jarrett) 09:11
2 My Song (Keith Jarrett) 06:10
3 Tabarka (Keith Jarrett) 09:12
4 Country (Keith Jarrett) 05:00
5 Mandala (Keith Jarrett) 08:18
6 The Journey Home (Keith Jarrett) 10:31

Recorded November 1977 at Talent Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshug



粂川麻里生 くめかわ まりお
慶應義塾大学アート・センター副所長、慶應義塾大学文学部教授。1962年、栃木県生まれ。慶應義塾大学卒。『ワールドボクシング』誌記者、上智大学専任講師を経て、現在慶應義塾大学文学部教授・同大学アート・センター(KUAC)副所長。「ゲーテ自然科学の集い」代表。専門領域は近現代ドイツ文学、言語哲学、スポーツ史、大衆文化論。

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