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特集『ECM: 私の1枚』

原田和典『Rainer Bruninghaus / Freigeweht』
『ライナー・ブリューニングハウス/遊』

北海道・道北地方の雪と寒さの中で生まれ育ち、だからなのか子供の頃からサザン・ソウルやジャズ・ファンクやラテン音楽などの熱い響きに憧れてきた。が、上京し、雑誌「ジャズ批評」の記事作りをしているうちに、ECM盤を集めているライターS氏と知り合い、あれこれ雑談という名の実質的レクチャーを受け、ライナー・ブリューニングハウス、エバーハルト・ウェーバー、アート・ランディ、ラルフ・タウナー、アリルド・アンデルセン、ヨン・クリステンセン、ヨン・バルケ、アジマスらの作品に耳を傾けるうち、やけに心の落ち着く自分を発見してしまい、以来数十年間、なんだかとても親しみを覚えつつECM盤に接している。

「現役レーベルに関しては新譜を真っ先にチェックすべき」というのが私の考えだが、一枚限定で作品を挙げるとなるとどうしても、聴きこんできたものを選ぶことになる。なかでもライナー・ブリューニングハウスの『Freigeweht』(1981年リリース 邦題『遊』)には、驚かされ、突き動かされた。鍵盤、フリューゲルホーン、ドラム、オーボエという楽器の組み合わせにびっくりし(ベースレスという発想が、当時の自分には及びもつかなかった)、どこまで楽曲でどこから即興なのかわからない滑らかさ、生楽器と互いに引き立て合うようなシンセサイザーの幻想的な響き、リズムを刻むというよりはドラムを絵筆化して空間をカラーリングしていくかのようなヨン・クリステンセンに心底、心を掴まれた。こんなに美しく、持続して、シンバルをうたわせることができるなんて。すぐさまS氏に印象を伝え、そこからラルフ・タウナーの『ソルスティス』や、マスクァレロの諸作へとガイドしてもらった。もうクリステンセンのナマが見たくて見たくて、その夢が叶ったのは2007年、TOKYO TUCで行なわれたヤコブ・ヤング・グループの公演だった。極上のライブに接し、クリステンセンの生音を浴び、S氏やその友人たちと感激を語り合った時間のなんと尊かったことか。

あっ、この音、このバスドラの踏み込み、歌うようなシンバル、〈Freigeweht〉のタイトル曲や〈Radspuren〉のプレイそのままではないか。そう嬉しくなった頃から歳月は確実に経ち、ヨン・クリステンセンも今は亡い。だがECMは相も変わらず精力的で、「予算の許す限り追いたい」と思わせるパワーを持つ。最近の自分はまた、地質学者のダビッド・リアーニョと知り合ったことから、彼と親交のあるアルヴォ・ペルトの作品を掘れるだけ掘ってみようかという意欲にも燃えている。持つべきは良き友、良き仲間、良き刺激、良きレーベル。ますますそう感ずる今日このごろである。


ECM 1187

Rainer Brüninghaus (Piano, Synthesizer)
Kenny Wheeler (Flugelhorn)
Jon Christensen (Drums)
Brynjar Hoff (Oboe, Cor Anglais)

1 Stufen (Rainer Brüninghaus) 08:20
2 Spielraum (Rainer Brüninghaus) 05:59
3 Radspuren (Rainer Brüninghaus) 10:48
4 Die Flüsse hinauf (Rainer Brüninghaus) 08:33
5 Täuschung der Luft (Rainer Brüninghaus) 04:16
6 Freigeweht (Rainer Brüninghaus) 12:17

Recorded July-August 1980, Talent Studio, Oslo
Engineer: Jan Eric Kongshaug
Produced by Manfred Eicher


原田和典 はらだかずのり
音楽ジャーナリスト。北海道生まれ。著書に『コテコテ・サウンド・マシーン』、『世界最高のジャズ』等。4月9日まで京橋・ブリリアアートギャラリーで開催のジャズ展『ART in MUSIC 「POINT OF JAZZ」』では「ビギナーQ&A」、「マイルス・デイヴィス曼荼羅」、「猫ジャケコーナー」を手がける。月曜20時~、『原田和典の音楽定食』(FMりべーる)放送中。初めて耳にしたECM盤は1979年、札幌のジャズ喫茶「act」でかかっていたジョン・アバークロンビー『マジカル・フィンガー』(原題;Arcade)。

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