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特集『ECM: 私の1枚』

落合康介『Charlie Haden / The Ballad Of The Fallen』
『チャーリー・ヘイデン/戦死者たちのバラッド』

Liberation Music Orchestraの2作目でECMレーベルとしても珍しいBig Band編成のアルバム。Charlie Hadenの音楽の奥深さが感じ取れる一枚だと思います。彼のルーツでもあるカントリーアンドウェスタンやフォーク、ラテンミュージック、サーカスを感じさせる楽曲には、スペイン市民戦争、キューバ革命、ベトナム戦争など平和、自由とは?というテーマやメッセージが明確に示されています。Carla Bleyの運営していた非営利組織Jazz Composers Orchestra Association(JCOA)出身の強烈なミュージシャン達の個性がおもちゃ箱をひっくり返したように飛び出してくるような面白さと、Carla Bleyの強度の高いアレンジの中でCharlie Hadenの伝えたいメッセージによる音楽的な統制の取れた作品だと思います。

1.Els Segadors
一曲目は収穫人達というスペイン、カタルーニャの当時は非公式の国家。カタルーニャの人々が歌い続けてきた音楽でこのアルバムの3年後に国家として制定された曲が、物悲しく導入的に演奏されるので、浸っていると、Charlie Hadenのソロベースが突然はじまります。
Charlie HadenのベースとECMのコンビネーションは最高なわけで、その特徴的なリバーブにECM作品であることを強烈に感じることができます。

2.The Ballad of Fallen(folk song of El Salvador)
世界的にもとても治安の悪い国としても知られているエルサルバドルの民謡。今作から登場の先日亡くなったMick Goodrikのギターソロがとてもグッドリックです。このバンドではスペインの曲調を取り入れるのにMick Goodrikのサウンド感はジャズギターとスペインのガットギターの中間地点のような旨みがバンドに乳化剤のような役割を果たしているように感じます。
続けて彼女も今作から登場のSharon Freemanの幻想的なFrench Hornソロ。ジャズのアルバムでフレンチホルンって新鮮ですがこのバンドには必要不可欠な存在になっていきます。ギル・エバンスのSvengaliにも参加して有名ですが彼女はジャズピアニスト。JCOAのメンバーはマルチプレイヤーが多いです。楽器に囚われず音楽を楽しむ姿勢はとても学びがあります。

3.If you want to write me
Taraf de Haïdouksとかジプシーの速い曲をそのまま受け継いでDon Cherryの火を吹くようなフリージャズ!
このままどうなってしまうのか!ときいていると、「ど」がうなりはじめて、ドの音を連発しはじめます、すると次第にCarla Bleyもドを連発して絡み出し、子供みたいで良いなぁと思っていると...そのまま4曲目に突入します笑

4. Grandola Vila Morena
ポルトガルの大地を歌ったZeca(Jose)Afonsoの曲。原曲は砂地を歩いている音からスタートするのですが、Paul Motianのマーチのようなリズムがそれを表現しているように思います。原曲さながら次第にユニークなメロディが重なって、この倒錯感!これぞLiberation Music Orchestraの好きなところ!からのGary Valenteのマッチョな超絶技巧なトロンボーンソロ!
とにかくアルバム通してECMらしからぬ、ジャズの濃ゆい音のソロがぶっちぎりで聴けるのが良いです。トロンボーンの余韻そのまま5曲目へ

5. Introduction To People
Carla Bleyのピアノソロからはじまるこの曲は彼女のオリジナル。曲もアンサンブルもとにかくめちゃ美しいです。Michael MantlerとJim Pepperのソロ!

6. The People United Will Never Be Defeated
渋さ知らズでもお馴染みなので日本人なら聞いたことがあるかもしれません。
チリの作曲家、Sergio Ortegaによって作曲された革命歌「不屈の民」 をアメリカの作曲家Frederic Anthony Rzewskiが編曲した曲。団結した民衆は決して敗れることはないという意味。Jack JeffersのTubaがいかにこのバンドの肝かよくわかる曲です。

7.Silence
Charlie Haden作曲、もはやジャズスタンダード。
Charlie Hadenの一音で景色を変えるようなベースアプローチが全面に現れるような楽曲。Michael Mantlerのトランペットの入り口から(みんなDon Cherryって言ってるけど、、、違いますよね?)アンサンブルのエネルギーがピークに達してCarla Bley1人になる瞬間が最高に気持ちいいです。
あ、つまりそんなことはどうでも良くて、最初から最後まで全部気持ちいいという意味です。

8.Too Late
Carla Bley作曲、Charlie Hadenがthemeを弾く、デュオでひたすら2人が語らう。
CarlaがLiberation Music Orchestraを語っている本にCharlieとはよく、キューバ危機やスペイン市民戦争、チェゲバラなど平和や自由とは何かよく語りあったそうです。そして、このバンドはその想いを音楽に託して作品にし、いわば音楽家の自由連合による演奏集と語っていました。
何が遅すぎたのか、それは平和か自由か、はたまたレコーディングの入り時間か、トイレか、それを除いても、この2人のデュオをECMのTonstudioでレコーディングされている作品はないはずなので貴重な一曲です。

9. La Pasionaria
Charlie Haden作曲のスペイン内戦の指導者Dolores Ibárruri Gómezの愛称がタイトルの楽曲。Mick Goodrickのイントロからはじまるこの曲はアルバムの中では1番の大作です。
政治的なメッセージ関係なくても、曲もアレンジもアンサンブルもすごく好きです。
Dewey Redmanのソロも泣けます。
4:20あたりで、Lonely WomanのようなDmあたりのアプローチからCの音で唸るように吹くDeweyに対してCarla Bleyが唐突に弾くとCとBbのスペインを感じるコンピングが最高で、そのあとにハーモロディクス的に唐突にMy favorite thingsのJohn Coltraneのソロを原曲の半音上でねじ込んできます。テンポアップしたwaltzの2nd riffからのCharlie Hadenのソロがアツい。やはり、このバンドのルーツにOrnette Colemanから始まるフリージャズを強烈に感じます。

10. La Santa Espina
最後の曲はバルセロナのEnric Moreraの曲からのフリージャズ!自由だ!平和だ!解放だ!Paul Motianの8ビートじゃ!!


©Roberto Masotti / ECM Records

今回、「ECM:私の1枚」ということで、Manfred Eicherが、Charlie Hadenを語っている中で好きな言葉があります。

「彼は音楽を聴く達人であり、聴いた瞬間に一緒に演奏している仲間を察知し、演奏してアイディアを完璧にする。
音楽をしっかり支えながら、自由に飛んで行けるようにする。
彼の演奏は重力をも具現化する、もしくはあなたを持ち上げてくれ、
チャーリーの出す一音だけでその音楽の全ての景色を変えられる。」

自分が最初にOrnette ColemanのChange Of Centuryを最初に聞いた時は、フリージャズというとただ、音量音圧の中でコントラバスは掻き消されがちな状況が多いイメージだったのですが、Charlie Hadenのベースはフリージャズのサウンドの中にありながら、コントラバスが持つダイナミクスやトーンの多彩さを存分に生かし、かつ各楽器が対等に語り合うスタンスに衝撃を受けました。

そんなCharlie Hadenのベーシストとしての音楽性も際立った作品でもありますが、そういった単にベーシストとしてだけでなく、音楽家として幅広い活動を行なっていることがLiberation Music Orchestraの作品から感じ取ることができます。

のちのOrnette ColemanのインタビューでかつてOrnetteのバンド在籍時にCharlie Hadenに当時ハーモニーの研究ばかりだったので、彼にエモーションの重要性を語ったそうです。そしてこのLiberation music orchestraをCharlie Hadenに送ってもらい聞いたときに、Charlie Hadenに伝えた主張が明確に表されたエモーショナルなものを感じたそうです。そしてメッセージ性のある音楽は時代が変化しても色褪せない。そのもっともいい例の一つがこの作品だと語っていました。

Charlie Hadenのベーシストとしての感性とトータル・ミュージシャンとしての感性はもちろん、レコーディングから、ECMレーベル、Manfred EicherのCharlie Hadenへの愛情を感じられるアルバムの1つだと思います。


ECM 1248

Charlie Haden (Bass)
Carla Bley (Piano, Glockenspiel)
Don Cherry (Pocket Trumpet)
Sharon Freeman (French Horn)
Mick Goodrick (Guitar)
Jack Jeffers (Tuba)
Michael Mantler (Trumpet)
Paul Motian (Drums, Percussion)
Jim Pepper (Tenor Saxophone, Soprano Saxophone, Flute)
Dewey Redman (Tenor Saxophone)
Steve Slagle (Alto Saxophone, Soprano Saxophone, Clarinet, Flute)
Gary Valente (Trombone)

Recorded November 1983, Tonstudio Bauer, Ludwigsburg
Engineer: Martin Wieland


落合康介 おちあいこうすけ
コントラバス、馬頭琴、ジャズ喫茶中庭マスター。1987年生まれ。ジャズのライブを中心に、クラシック、モンゴル民謡、北欧民謡、ダンス、舞踏、映像、ライブペインティング、様々なジャンルのアーティストとコントラバスと馬頭琴を通じて交流。モンゴルのゴビ砂漠に滞在しヨンドンネルグイ(モンゴル国人間文化財)に馬頭琴を習う。2021年より埼玉県北本市北本団地ジャズ喫茶「中庭」をオープン。ジャズ喫茶とコミュニティスペースとしての役割を果たしている。縄文時代に関心があり、縄もんセッション、台原縄文音楽祭を開催。

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