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特集『ECM: 私の1枚』

永武幹子『Masabumi Kikuchi Trio / Sunrise』
『菊地雅章トリオ/サンライズ』

このアルバムを初めて聴いたのは柏のライヴハウスNardis、ライヴ前にBGMとしてかかっていたのだが、緻密であまりに有機的なトリオサウンドに耳がぐーっともっていかれた。そこからCDを手に入れてよく聴くようになった。CDブックレットや当時のネット記事には『Sunrise』制作秘話が書かれてあり、それはとても興味深い内容である。トリオのメンバーの人間的・音楽的な関係性についても知ることができる。

さて、『Sunrise』というアルバムの凄さの一つは、一貫してシリアスな雰囲気があるのになぜかずっと心地良く聴いていられるということである。ここでは菊地雅章さんのピアニズムに焦点を当て、私の勝手な解釈を書いていく。

菊地雅章さんが音を発する。あるときは不協和音を同時に打鍵したりあるときは半音音階的な音列のフレーズを連ねたりしている。不協和音というより濁りのある和音と言う方がベターかもしれない。濁りのある和音はその不安定感ゆえにエネルギーは比較的高く緊張感を生む。聴衆をハッとさせ耳を開かせる。
しかし菊地雅章さんの音楽はそれだけではなく、その緊張感と共に安心感をも与える。現代音楽的な性質を有するにも関わらず、たとえばオリヴィエ・メシアンやシェーンベルクらの音楽と比べると、より親しみやすさや安心感を感じさせるのではないか。

その理由を考えたとき、注目すべきは打鍵の後に残す音の響きではないかと思う。打鍵時には不協和音を鳴らしていてもその後に伸ばされた音は2、3音から成る濁りのない和音になっている (ことが多い)。つまり、伸ばされた音はぐゎんぐゎんとウネるのではなくすーっと収束していく。その響きが耳によく馴染み、安心感を与えるのだと考えられる。最小限に抑えられたペダルの使い方や一つひとつの指のリリース、そしてピアノの調律も含め、それら全てが菊地雅章さんの緻密な演奏・響きへのこだわりから実現されているのだろう。

特にこの『Sunrise』の録音は、他の録音や同じくECMから発売された 『黒いオルフェ〜東京ソロ2012』と比べても一層そのように感じられる(黒いオルフェはその濁りを敢えて残している場面がより多い気がする)。この不安定からの安定、緊張感からの安心感こそが、シリアスながらもずっと聴いていたくなる心地良さに繋がるのではないか。


ECM 2096

Masabumi Kikuchi (piano)
Thomas Morgan (double bass)
Paul Motian (drums)

Recorded September 2009 at Avatar Studios, New York
Engineer: James A. Farber
Produced by Manfred Eicher


永武幹子 ながたけみきこ
ピアニスト。5歳よりクラシックピアノを始め、ヤマハ音楽教室で寄島清美氏に師事。早稲田大学入学後、同大学モダンジャズ研究会、ハイソサエティオーケストラに入り、ジャズに目覚める。ジャズピアノを清水くるみ氏に師事。現在は増尾好秋 (guitar) グループ等様々なバンドに参加する他、自身のバンド永武幹子TrioやJ.J.Soul、DuoユニットJabuticabaをメインに、都内近郊のライヴハウスを中心に活動する。2021年2月にJabuticaba 『Jabuticaba』、同年3月に永武幹子Trio 『Into the Forest』をリリース。翌年2022年7月に永武幹子Trio 2nd Album『Breathe Beneath the Sun』、9月にピアノソロアルバム『SOLO』をリリース。
公式ウェブサイト mikikonagatake.com

【ライヴ情報】
4/21(金), 23(日) 新宿Pit inn
永武幹子Trio 2days
永武幹子(p) 織原良次(fretless bass) 吉良創太(ds)
+guest 類家心平 (tp, 4/23のみ) 加納奈実 (as, ss, 4/23のみ)

4/25〜5/3 Jabuticaba Spring Tour
加納奈実(as, ss, fl) 永武幹子(p)
4/25(火) 広島Lush Life
4/26(水) 神戸gallery zing
4/28(金) 和歌山maywind cafe
4/29(土祝) 名古屋The Wiz
4/30(日祝) 岐阜island cafe
5/3(水祝) 北千住Birdland

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