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特集『ECM: 私の1枚』

太田 剣『Jan Garbarek / In Praise of Dreams』
『ヤン・ガルバレク/イン・プレイズ・オブ・ドリームズ』

『ECM:私の1枚』というテーマでの寄稿です、と聞いて困った。これは一日二日では答えの出せる気がしない難題で、そのことについて考えようとする度に心象風景のような美しいアルバム・ジャケットの数々が頭の中を猛スピードで駆け巡って気が遠くなってしまう。優柔不断でなかったとしても『1枚』を消めることは無理かもしれないと諦めかけたとき、寄稿の詳細に『フェイバリットの1枚、思い出の1枚、嫌いな1枚、ご自由にお選びいただき…』とあることを教えていただき、成程、その手がありますね、と安堵したところで、様々な『ECM:私の1枚』をご紹介させていただきます。

●最もよく聴いた1枚:『EXTENSIONS/Dave Holland』(ECM1410)

キャノンボール・アダレイやジャッキー・マクリーンからジャズを聴き始め、ケニー・ギャレットやブランフォード・マルサリスが青春だった自分の、ECMへの入り口となった1枚。1989年録音、当時33歳のスティーブ・コールマンが縦横無尽に吹き放ったアルトサックスの旋律が、孤高かつ普遍的とも言える圧倒的な説得力で迫り来る。1990年リリースの翌年、東京都の都庁新庁舎落成記念として都庁舎前広場特設ステージで開催された『日米交流ジャズライブ』は、出演が『マルグリュー・ミラーTRIO』『デイブ・ホランドQuartet』『ジョージ川口 Big4』の3バンドで、大学の授業後にこの作品の録音メンバー[デイブ・ホランド(b)スティーブ・コールマン(as)ケビン・ユーバンクス(g)マービン・スミッティ・スミス(ds)] 4人がアルバム曲を演奏するのを目の当たりにしたときの衝撃は今も脳裏に鮮明に焼きついています。

●最も好きなライブ盤の1枚『SLEEPER/Keith Jarrett』(ECM2290/91)


『STANDARDS vol.1』(ECM1255)でキース・ジャレットに、『MY SONG』(ECM1115)でヨーロピアン・カルテットにハマるというECMマジョリティ(おそらく)な道程を踏み、彼らの来日コンサートから10年後にリリースされたライブ盤『Personal Mountains』(ECM1382)を聴く度に、あと10年早く生まれていれば生で聴けていたかもしれないなあ、と臍を噬むほど好きなこの音楽。キースの曲でも最も好きな〈PRISM〉の鬼気迫る演奏が収録されている点でこの作品が長年のライブ盤私的1位でしたが、さらに23年後の2012年リリース『SLEEPER』(ECM2290/91)にはキース曲〈SO TENDER〉のヤン・ガルバレク参加バージョンが!『STANDARDS vol.2』(ECM1289)の愛聴曲がガルバレクのテナーで更に高みに昇華され、ライブ盤1位はこちらに。しかしながらライブ盤の私的No.1という意味では『STILL LIVE/STANDARDS』(ECM1360/61)が同率首位です。

●最も好きなデュオの1枚『RED LANTA/Art Lande & Jan Garbarek』(ECM1038)


多種多様な編成で多くの作品を創り続けているヤン・ガルバレクがアメリカのピアニスト、アート・ランディと組んだデュオ作品。風景画のような印象的な佳曲の数々がピアノとフルート、もしくはソプラノサックスで奏でられてゆく中、突如、真綿のような、起毛の絨毯のようなサックスサウンドに驚く。バリトンサックスよりも低いバスサックスの音色は、それまでランデのピアノに包まれながら時にさえずり、時に咆哮をあげていたガルバレクという立体構造を逆転させ、バスサックスのサウンドの中でピアノの旋律が煌めくというレアな音世界を表出している。私自身の作品『TETE-A-TETE/太田剣&松本圭司』もこの作品にインスパイアされたところ、あります。

●最も好きなトリオの1枚『CARTA DE AMOR/MAGICO(Jan Garbarek・Egberto Gismonti・Charlie Haden)』(ECM2280/81)


私的ライブ盤の項にも列挙して然るべき作品なのですが、『MAGICO』(ECM1151)『FOLK SONGS』(ECM)で生まれた3人の音楽とそのサウンドが昇り詰めていった先に見えた世界が聴けます。〈La Passionaria〉〈Don Quixote〉〈Palhaco〉など、繰り返し演奏&録音される名曲たちの、最も印象的な名演がここに。私自身の参加する同編成のトリオ『k.a.t.』結成のきっかけは、この作品の音楽からの影響無くして語れません。トリオという切り口では、悩みに悩んでしまう同一首位が『TRIPLICATE/Dave Holland』(ECM1373)。スティーブ・コールマン、デイブ・ホランド、ジャック・ディジョネット。コードレス・ジャズサックス・トリオ編成の歴史に残る名盤名演です。

●最も恐ろしい1枚『JIMMY GIUFRRE 3 ,1961』(ECM1438/39)


ポール・ブレイが打鍵して奏でるハーモニー、スティーブ・スワロウが唸りながら弾くベースのビート、そのいずれもの背後に狂気をも孕むような創造の精神を感じずには居られないのだけれど、その中で、おそらく眉一つ動かさずに不協和音となることも厭わずにクラリネットの旋律を吹き続ける確信犯なジミー・ジュフリーが一番怖い。一度聴いたが最後、アンインストールする術の見当たらない類の、いつも、いつまでも心の片隅に残ってしまう凄くて貴い音楽。再生ボタンを押す前には、姿勢を正し、心身ともに受容十分な自分を整えることが必須。年に一度、詣でるように聴くことが、音楽人としての自分の芯を捉え直す意味でも必要不可欠な気もする芸術作品です。元々はVerveレーベルからリリースされた2作品をマンフレート・アイヒャーがECMから再リリースしたというレアケースも頷けるもの。

結局のところ5枚(本文内も合わせると11枚..)も挙げてしまいましたが、現時点での『シン・ECM私の1枚』はヤン・ガルバレク『IN PRAISE OF DREAMS』(ECM1880) です。


Jan Garbarek / In Praise of Dreams
ECM 1880

Jan Garbarek (tenor and soprano saxophones and/or synthesizers, samplers, percussion)
Kim Kashkashian (viola)
Manu Katché (drums)

Recorded March and June 2003 at Blue Jay Recording Studio, Carlisle, MA (Engineer: James Farber), A.P.C. Studio, Paris (Engineer: Didier Léglise), and in Oslo
Edited, mixed, and completed at Rainbow Studio, Oslo, by Jan Garbarek, Manfred Eicher, and Jan Erik Kongshaug (Engineer)
Produced by Manfred Eicher and Jan Garbarek


太田 剣 おおたけん
ミュージシャン、サックスプレイヤー。愛知県出身。池田 篤、ケニー・ギャレット、ビンセント・ハーリングらに師事し、大坂昌彦カルテットでプロデビュー。2006年に1st アルバム『SWINGROOVE』でジャズの名門、Verveレーベルよりメジャーデビュー。2021年より自身のレーベル、SCRAMASAX RECORDSを立ち上げ、『SONGS FROM THE HEART/太田剣 with 和泉宏隆』(SRMS-001)『Our Tomorrow/k.a.t.(太田剣・秋田慎治・土井孝幸)』(SRMS-002)『TETE-A-TETE/太田剣&松本圭司』(SRMS-003)の3作品をリリース。
太田 剣ホームページ

【ライブ情報】 ●4月6日(木)六本木 Satindoll:k.a.t. ●4月15日(土)桜木町 Dolphy:太田剣&岡田治郎 ●4月19日(水)御茶ノ水 Naru:太田剣Quartet〜in memory of 和泉宏隆 ●5月1日(月)桜木町 Dolphy:スガダイロー&太田剣 ●5月6日(月)桜木町 Dolphy:太田剣&松本圭司

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