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特集『ECM: 私の1枚』

西嶋 徹『Gary Burton, Chick Corea / Crystal Silence』
『チック・コリア&ゲイリー・バートン/クリスタル・サイレンス』

大学生の頃のある日、Chick Corea 好きなジャズ研の先輩がこのアルバムを聴かせてくれた。

青く染まった曇り空の下の方にぼんやりと浮かぶ小さな太陽。なんとなく見覚えのあるジャケットだなと思っていたら、スピーカーから1曲目の「Señor Mouse」のイントロが聞こえた瞬間、突然黒っぽいプラスチックのカバーで覆われたターンテーブル、それが置かれていた棚、小さな窓、このレコードがかかっていた場所の情景が一気に蘇ってきた。そこは幼い頃に住んでいた木造平屋の小さな部屋だった。

2曲目の「Arise, Her Eyes」では、ベンド奏法で音程が下がるビブラフォンの音が幽霊を思い起こさせ怖かったこと、「Crystal Silence」でビブラフォンが演奏するテーマのメロディーを聞いて物悲しい気持ちになっていたことなど、突然押し寄せてきた記憶の渦にもみくちゃにされ、一瞬自分がどの時代にいるのか分からなくなり混乱したことをよく覚えている。

なんの音楽的知識もない幼い頃の自分がこのアルバムからどれほど多くのことを感じ、その後の自分に大きな影響を及ぼしていたかということに気づいた瞬間だった。今でもこのアルバムを聴くたびに過去と現在が重ね合わされたような、不思議な感覚に陥る。


ECM 1024

Gary Burton (Vibes)
Chick Corea (Piano)

Recorded November 1972, Arne Bendiksen Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Produced by Manfred Eicher


photo by bozzo

西嶋 徹 にしじまとおる
ベーシスト。ジャズ、アルゼンチンタンゴを軸に、幅広い分野で活動。2014年、ピアニスト林正樹と共に、アルバム「El retratador」をリリース、2018年、ソロアルバム「Phenomenology 」をリリース。2021年、ギター藤本一馬、ピアノ栗林すみれ、ドラム福盛進也とのグループ Remboatoにてアルバム「星を漕ぐもの」リリース。

【ライブ情報】
「幽けき刻」遠藤ふみ(pf) 蒼波花音(a.sax)西嶋徹(ba)
4/27(木) 19:30 渋谷公園通りクラシックス

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