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特集『私のジャズ事始』

『ラムゼイ・ルイス/The In Crowd』 三田晴夫

小学生の頃の僕のヒーローは、長嶋茂雄にクレージーキャッツ、中学に入る辺りから加山雄三とビートルズだ。中でもクレージーキャッツは全員がジャズ・ミュージシャンであり、彼らが出演するTV番組『シャボン玉ホリデー』には松本英彦、白木秀雄、ニューハードなど多くのジャズ・ミュージシャンが出演することも多かった。僕の記憶では、ディジー・ガレスピーやソニー・ロリンズもこの番組に出演したことがあり、子供心にジャズに何か特別な雰囲気を感じていた。

小学5年の年に実家が3階を建て増しした際に子供部屋を作ってくれたので、それから中学時代までの多くの時間を兄と同じ部屋で過ごした。その兄が部屋ではいつもラジオをかけていたので自然に音楽が耳に入って来ていた。当時はFM放送はなく、聴くのはもっぱら中波のラジオ番組だったが、歌謡曲や洋楽ポップス、映画音楽、後にはグループサウンズなどに交じってたまにジャズが流れることがあった。「テイク・ファブ」や「ジ・イン・クラウド」、「ザ・サイドワインダー」などが流れると、兄が、これ良いだろ、と教えてくれるのだ。特に『オールナイトニッポン』の糸居五郎の日は、ジャズが掛かることも多かった。

ある日、兄に「ジャズのレコードを買いたいけど何が良い?」と聞いたらラムゼイ・ルイスの2枚組コンパクト版”THE IN CROWD”を薦められ購入した。おそらく兄は弟の小遣いで自分が欲しかったレコードを手に入れることが出来、しめた!、と思ったことだろうが、僕自身も表題曲は勿論、収録されているビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」「デイ・トリッパー」や映画音楽の「日曜日はダメよ」などポップスの曲のジャズ・アレンジが大いに気に入った。これが僕が買った初めてのジャズ・レコードという事になる。

もう一つ思い出深いのは、中学3年だか高校1年生だかの頃、加山雄三の曲をジャズ・ドラマー白木秀雄が演奏するアルバム”HIDEO SHIRAKI Meets YUZO KAYAMA”がリリースされ、加山雄三のファンで白木秀雄もたまにTVにも出演する人気ミュージシャンとして顔や名前は知っていたので早速購入した。参加メンバーは、白木秀雄(DS) 日野皓正(TP) 稲垣次郎(TS) 大野雄二(P,OG) 稲葉国光(B)。白木以外は全く名前を聞いたこともないメンバーだったが、親しんだ加山の曲が恰好良いジャズになっていて繰り返し聴いたものだ。

高校生時代の音楽はビートルズが中心ではあったが、同時にモータウンが流行り自然にソウルやR&Bも聴くようになっていて、購入したレイ・チャールズのベスト盤に入っていた映画主題曲の「シンシナティ・キッド」のジャズ・アレンジに痺れ、またレイ・チャールズが歌わないでオルガンだけを弾くインスト曲「モーニン」も入っていたのもジャズへの興味の後押しとなった。

とは言え、ジャズに本格的にのめり込むのはもう少し先になる。何と言っても一番大きな切っ掛けは、高校の終わり頃に大ヒーローであるビートルズが解散した事だ。この喪失感は半端なかったが、仕方なくビートルズに代わる音楽を探すべく60年代後半から流行っていた新しいムーヴメントのアートロック(クリーム、ドアーズ、ヴァニラ・ファッジetc.)などをあらためて聴いてみたが、どれもビートルズ程の刺激を感じなかった。そんな中、数年前に初来日していてたまたまTV『11PM』で観て印象的だったアストラッド・ジルベルトの事を思い出し馴染みのレコード店に行き、彼女のベスト盤と「マシュ・ケ・ナダ」の大ヒットで結構気に入っていたセルジオ・メンデスのブラジル‘66のアルバムを購入し聴いていると実に自然に音楽が入って来た。そうしてボサノヴァを聴く内に、次第にジャズへの興味が強くなっていった。

同じ頃、高校を卒業して家業の家紋屋を継ぐべく東京に修行に出ていた兄が実家に戻ってきた。兄が東京で集めたレコードには、僕が買っていたあのアストラッド・ジルベルトのベスト盤とセルジオ・メンデスのブラジル”66のレコードが含まれていて、少し兄に近づいた気がして嬉しかった。他にジャズのレコードが沢山あった中のカーティス・フラーの”ブルース・エット”が大のお気に入りとなり、家にレコードを聴きに来る高校の友人たちに、これを聴け、と薦めているうちに、何かジャズは自分にとって不可欠なものになりそうな予感を感じていた。

そうしてジャズに大きな興味を持ち始めた頃、高3の冬休みに大学の受験勉強をしながらNHK FMの油井正一の『アスペクト・イン・ジャズ』を聴いていると、今日はマイルスの新作を全曲かけます、といって流れてきたのがあの「ビッチェズ・ブリュー」だった。まだジャズ初心者ではあったが、これまで聴いたことがないサウンドに、凄え!、とショックを受けたことも記憶に新しい。

そして無事広島の大学に入学すると、当然のようにジャズ研に入り、ジャズ喫茶には毎日のように通いコーヒー1杯で5時間も6時間も過ごす生活が始まった。(音楽プロデューサー 2024.06.30 )


三田晴夫(みた・はるお)

ジャズのマネージメント事務所(有)ジャムライスを経て、1985年にCM音楽を中心にした音楽制作会社(有)スーパーボーイを設立(旧社名(有)四宝)2009年にレコードレーベルTEOREMA、翌年にJUMP WORLDを立ち上げ、自らプロデューサーとしてジャズを中心にするも民謡からJ-POPまで幅広く制作している。
主な作品としては、2017年のteaのデビューアルバム「INTERSTELLAR 」がミュージック・ペンクラブの新人賞、2020年の宮本貴奈の「Wonderful World 」が同賞の最優秀作品賞を受賞。最新作は2024年1月10日リリースのクリヤ・マコト/安井源之新 RHYTHMATRIXの「BRIGHTNESS」。
www.superboy.co.jp

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