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このディスク2017(国内編)No. 237

#07 『桑原あい×石若駿 Ai Kuwabara×Shun Ishiwaka/Dear Family』

text by Hideo Kanno 神野秀雄

Universal Music UCCJ-2148

桑原あい Ai Kuwabara (piano)
石若駿 Shun Ishiwaka (drums, perc)

1. Dear Family -TV Version- (Ai Kuwabara, Shun Ishiwaka)
2. idea for cleanup (Shun Ishiwaka)
3. The Great U’s Train (Ai Kuwabara)
4. Improvisation #1 (Ai Kuwabara, Shun Ishiwaka)
5. Family Tree (Shun Ishiwaka)
6. Tuneup (Ai Kuwabara)
7. Andy and Pearl Come-Home (Shun Ishiwaka)
8. Granpa’s Sunglass (Shun Ishiwaka)
9. Improvisation #2 (Ai Kuwabara, Shun Ishiwaka)
10. Dog doesn’t eat dog world (Ai Kuwabara)
11. Dear Family (Ai Kuwabara, Shun Ishiwaka)

Bonus Tracks
12. Saturday Come Slow (Robert Del Naja, Damon Albarn, Grantley Marshall, Daniel Jonathan Brown, Stewart Neville Jackson) *Massive Attack カヴァー曲
13. Sunday Morning (Adam Levine, Jesse Royal Carmichael, Ryan Michael Dusick, James Valentine, Michael Allen ) *Maroon 5 カヴァー曲

Produced by Ai Kuwabara and Shun Ishikawa 桑原あい 石若駿
Co-produced by Tom Nagashimaトム永島(KYODO PROMOTION INC.)
Recorded & mixed by Shinya Matsushita松下真也(STUDIO dedé RECORDING) at STUDIO dedé RECORDING, Tokyo on Aug 8-11, 2017 except Track 1
Recorded & mixed by Wataru Momose 百瀬 渡 (TV Asahi Music) at TV Asahi Music Roppongi Studio, Tokyo on Mar 16, 2017 on Track 1.
2017年11月8 日リリース

1991年生まれの桑原あい、1992年生まれの石若駿、若手の中でも最も注目される二人が創り上げたデュオアルバム。テレビ朝日報道番組のテーマ曲に若いジャズミュージシャンを起用して来た流れで、2017年4月開始の『サタデーステーション』『サンデーステーション』のテーマ曲を「桑原さんと石若さんにお願いしたい、編成はお任せします。」というオファーがあり、桑原あいトリオプロジェクトでも共演している二人が、それなら「二人だけでやろう」ということで3月に収録されたのが<Dear Family>。それを拡張して8月に録音されたのがこのアルバムだ。

桑原はヤマハ音楽教室のエレクトーン出身で、中学後半よりクラシックピアノに打ち込み、洗足学園高校ピアノ科ジャズ専攻を卒業。桑原あいトリオプロジェクトを中心に活動し、2012年に自主制作アルバム『from here to there』を発表、「東京JAZZ 2013」に出演、本アルバムを含め計6枚のアルバムをリリース。石若は幼少からクラシックピアノに親しみながら、クラシックパーカッションを始め、札幌ジュニアジャズスクールに在籍してジャズドラムへ、東京藝術大学打楽器専攻を卒業。東京JAZZ 2015/2016に出演し、2015年にファーストソロアルバム『Cleanup』、2016年には『Shun Ishikawa Songbook』をリリース。ジャンルを超えて内外ミュージシャンとのライブや録音、CM録音に参加しファーストコールミュージシャンのひとりとして多忙を極める。2017年には、西口明宏トリオでデトロイト・ジャズ・フェスティバルおよびニューヨークで演奏した。

週末のお茶の間でテレビを見ている家庭に届く<Dear Family>、二人の共作で7/8拍子なのに爽やかで暖かく響くキャッチーなメロディー、緊張感はむしろ秘めている感じだ。そして3分ほどの演奏に熱い想いがこもる。デュオとは思えない膨よかな音、空間の広がりと色彩感に圧倒される。ときに重たい事実を伝えなければならない報道番組の冒頭に前向きで暖かい空気を生み出すことに成功している。
二人とも巧みな演奏者である以前に、クラシックからJ-POPまでを身体に吸収し、音楽全体を俯瞰できる優れた作編曲家であり、1曲1曲が違った表情を持ち引き込まれる。構成を作り込み過ぎることなくシンプルで、そして、ときに音の隙間からオーケストラ的な響きが聴こえて来るような表現力と色彩感を魅せる。逆にその一瞬の響きを切り取っても素晴らしい。何よりもこのアルバム全体に広がる空間の居心地のよさに文句なしにやられた気がする。

東京JAZZ 2013での桑原あいトリオプロジェクトについては拙レポートをご参照いただきたいが、若干22歳にして国際フォーラムホールA全体に音楽を届けることに成功する一方、その才能ゆえの違和感、限界が見える気がした。桑原は2014年〜2015年夏にかけてスランプに陥り、曲が全く書けなくなり、音楽を辞めることも考えたと言うが、モントルー・ジャズ・ピアノ・コンペティションに出演し、クインシー・ジョーンズからの「あなたの音楽はジャズだから、このまま何も変えずにがんばりなさい。」という言葉に励まされ再び歩き出し、それがスティーヴ・ガッド、ウィル・リーとの共演による『Somehow, Someday, Somewhere』に結実。ブルーノート東京のライブでは、まさに生まれ変わった桑原の音楽があり、その頃『Dear Damily』も生まれたことになる。

石若駿のドラムとパーカッションの表現力の凄さと創造性はもはや世界が求めているものだと思うし、この数年での二人の飛躍は驚くべきもので、「日本の若手を代表する」どころではなく、早く世界で活躍すべき逸材であり、今後のさらなる飛躍を楽しみにしたい。このデュオで、2018年1月18日にブルーノート東京でのライブを予定しているので、ぜひお聴きいただきたい。

Ai Kuwabara – Somehow, Someday, Somewhere MV

Shun Ishikawa Songbook 2 メイキング映像

【関連リンク】
桑原あい 公式ウェブサイト
http://aikuwabara.com
石若駿 公式ウェブサイト
http://www.shun-ishiwaka.com
桑原あい×石若駿 特設ウェブサイト
http://www.universal-music.co.jp/kuwabara-ishiwaka/
桑原あい with Steve Gadd and Will Lee / somehow, someday, somewhere
https://www.kyodopromotion.com/aikuwabarasomewhere

※ なお、テレビ朝日『報道ステーション』では、黒田卓也、中村恭士、小川慶太、大林武司、馬場智章でテーマ曲録音のために特別編成された「J Squad」の演奏だが、結果的にライブも実現している。
報道ステーション テーマ曲
http://www.tv-asahi.co.jp/hst/opening/
Starting Five by J Squad Live at Blue Note Tokyo
http://www.youtube.com/watch?v=lTuv0yr19v0

【JT関連リンク】
東京JAZZ 2013
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report581.html
東京ジャズ・フェスティバル2016 text by 悠 雅彦
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-8754/
『桑原あいトリオ・プロジェクト/Love Theme』 text by 小西啓一
http://www.archive.jazztokyo.org/best_cd_2015a/best_cd_2015_local_06.html

 

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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