#06 『岩崎良子&竹内直/メディテーション・フォー・オルガン&テナー・サックス』

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text by Keiichi Konishi 小西啓一

Somethin’ Cool SCOL4028 ¥3,000(税込)

岩崎良子 (pipe organ)
竹内直 (ts)

1.Goldberg Variations (J.S.バッハ)
2.Wise one (J.コルトレーン)
3.前奏曲とフーガ イ短調 BWV543 (J.S.バッハ)
4.My favorite things (R.ロジャース)
5.Veni Emmanuel [久しく待ちにし] (聖歌)
6.Naima (J.コルトレーン)
7.Greensleeves (聖歌)
8.Affter The Rain (J.コルトレーン)
9.いと高きところにいます神にのみ栄光あれ BWV71 (J.S.バッハ)
10.Crescent (J.コルトレーン)
11.Meditation for Organ (A.ハイラー)
12.Amazing Grace (聖歌)

Recorded at St.Luke’s Chapel, Tsukiji, Tokyo, Jan.01, 02 & 31, Apr. 04, May 09 & 29, and Jul. 04, 2021
Recorded & mixed by Shin Araki (POIESIS)
Mastered by Akihito Yoshikawa (Studio Dede)
A&R: Ryoko Sakamoto / Mizuki Sawada (diskunion)


これはまた実にチャレンジングな意図を持った意欲的なアルバムである。タイトルからもお分かりの通り、オルガンとサックスのダイアローグ(対話)アルバムである。いやー、オルガンとサックスのデュオ、それがどうしたの…と思われる方も多いはず。確かにソウル・ジャズなどいわゆる黒っぽさを強調した“コテ・コテ”アルバムでは、良く見かけるじゃない…と言われそうである。しかしそのオルガンが、ジャズで聞かれるハモンド・オルガンでは無く、教会のチャペルなどに鎮座ましますあの重厚で荘厳そのもののパイプ・オルガンと知ったならば、大いに驚くに違いない。そうこれはパイプ・オルガンとサックスのジャズ対話という、恐らく世界でも類を見ないようなジャズ・アルバムなのである。
主役の2人は、ジャズ・ピアニストでパイプ・オルガン奏者でもある岩崎良子、そしてその相方は日本のスピリチュアル・ジャズの象徴格とも言うべき実力派、竹内直。収録場所は築地にある東京を代表する大病院の聖路加国際病院のチャペル(礼拝堂)。そこにある由緒正しいパイプ・オルガン(パイプ総数2077、ストップ数30、Ⅿ.ガルニエ製)を駆使しての、大胆にして果敢な試みなのである。実は岩崎さんはぼくの大学のクラブ後輩。クラシックにも造詣が深くパイプ・オルガン奏者でもあるという話は聞いていたが…。その彼女からある日パイプ・オルガンでジャズ・アルバムを…という希望を聞き、相方には竹内直氏を…とも言う。最初はいささかびっくりしたが、その真摯な話振りからこれはもしかしたらと思い、対話相手が直ちゃんと言う点にも強く惹かれ、全面的に賛成し協力も申し入れた。それが昨年(2020年)の11月終わりの頃。それから2人は今年の正月元旦から、聖路加国際病院のチャペルに籠もり、バッハやコルトレーン・ナンバーなど数曲ずつ、試行錯誤を繰り返しながらコツコツと収録作業を進め、7月4日に最後のナンバーのバッハの“前奏曲とフーガイ短調”を録り終え、この7か月に渡る長期戦は幕を閉じた。パイプ・オルガンの凄まじい音圧と時に対峙し時に寄り添い、至高の瞬間を現出させる竹内直。”これはぼくの原点に戻っていく旅でした…”と語る竹内直。”私の中でコルトレーンとハイラー(20世紀を代表するオルガン奏者・作曲家)は、バッハの延長線上にいます。この3者の音楽は更なる高みを目指す魂を持って混在していますが、ここでの演奏が疲弊する多くの人達を励ます力になってくれたら…”と言う岩崎良子。その2人の強い想いがここでの至高の音楽を生み出したと言えそうだ。
アルバムは全部で12曲、バッハやキリスト教の聖歌などと、”ワイズ・ワン””ネイマ”などのコルトレー所縁のナンバー、これらが交互に並ぶ構成となっており、それらが螺旋状に絡み合いハイラーの“グレゴリ聖歌のメディテーション”という、ここでのハイライトも言えそうな“至高の境”を目指して昇華されて行く。そしてラスト、全てが満ち足りた様な、静謐な“アメージング・グレース”。この果敢にして挑戦的なアルバムは、ここに静かに幕を閉じる。
バッハ好きの方、コルトレーン好きの方、全ての方達が是非この試みを、耳にして欲しいもの。なにせ紛れもなく世界で初めてのものなのですから…。

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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