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#35 Modern Pals新聞 Vol.2/No.1(復刊1号)

紙名:Modern Pals新聞 Vol.2/No.1(復刊1号)
発行日:1976年3月28日
編集人:モダン・パルス&LSJPの会(中山信一郎・平野雅義・岩下壮一)
発行所:「ミュージック・プラザ」内

 

鹿児島で発行されていたジャズと映画と文学のA4版全26Pの新聞。LSJP (Live Session Jazz Party) というジャズ愛好会の機関紙である。しかし、ジャズだけに限らず、映画と文学にも触れるところが、『土曜日のジャズ、日曜日のシネマ』(松尾書房)を著した鹿児島の文化人(風流人?)中山信一郎率いるグループらしい。中山信一郎は長らく病床に伏しているようだが、家業の丸十という呉服問屋を継ぎながらもっぱらジャズと映画に明け暮れたあまり、家業が傾いたといわれる見上げた御仁である。『Moderen Pals』だが、冒頭、ジャズに関係があるようでいてさして関係のないエッセイが3本並び、続いては「女優」論。まな板に載せられるのは関根恵子、宮下順子、それに春川ますみ。カット写真は胸を露出したデビュー当時の関根恵子。書評を経てやっとジャズが登場。「渋谷毅『ドリーム』という鹿児島のジャズ仲間達がつくったレコードが四月二十五日トリオレコード(ナジャ・レーベル)から発売されることになった」という長いタイトルの記事。記事は、渋谷さんと中山氏の珍妙なやり取りから始まり、中山氏が経営するジャズ・クラブ「パノニカ」での渋谷毅トリオの演奏を収録したオーディオ喫茶「フローラ」のオーナー川原哲郎氏の録音秘話へと続く。ナジャ(Nadja)というのは、中山氏から持ち込まれた菅野邦彦のライヴテープをレコード化するために当時のトリオレコードが新設したインディ・レーベル。ミュージシャンから持ち込まれた録音のクオリティよりも演奏のクオリティを重視した音源をレコード化した。菅野や渋谷のようにスタジオよりもリラックスしたライヴハウスで本領を発揮するミュージシャンにはたいへん好評だった。この号では、青山でクラブ「ロブロイ」を経営していたえんどう瓔子の「結婚サギ師、渋谷毅」というエッセイが出色。遠藤は作家安部譲二の妻君でもあったことはよく知られている。

『菅野邦彦/ライヴ』 『渋谷毅/ドリーム』

『菅野邦彦/ライヴ!』
『渋谷毅/ドリーム』

復刊第一号で最も注目されるエッセイは東京からいソノてルヲ氏が寄稿した「モダン・パルス再刊によせて」。エッセイは、「ニカ・ロスチャイルド男爵夫人が(セロニアス)モンクと一緒に日本へ来たのは一九六三年五月の事だが、それは彼女にとって二度目の来日であった。」で始まる。さらに、「所でニカ夫人の初来日は、一九三〇年で彼女はロスチャイルド家のコニスウォーター男爵と結婚し、そのハネムーンで来日したのだ」、との知られざる事実が披露される。いソノ氏は、カーネギーホールの前でネリー夫人、ニカ夫人と連れ立って歩くモンクに遭遇し、同行のカメラマンがスナップ。その写真を送ったニカからいソノ氏宛届いた礼状が中山氏の「パノニカ」に貼ってあるという。ニカはもちろんパノニカのニックネームである。鹿児島のクラブ「パノニカ」については、モンクのドラマーを務めたベン・ライリーからその存在をニカ夫人に伝えられたという。

モンクとネリー夫人、ニカ夫人の関係は詳らかではないが、モンクは、両夫人にそれぞれ<クレプスキュール・ウィズ・ネリー>、<パノニカ>という曲を献呈している。

ジャズ・ファンにとってニカ夫人の名前は、「チャーリー・パーカーが死んだ時に、彼女の住んでいたスタンホープ・ホテルと共に有名になった」といソノ氏は記す。なお、いソノてルヲ氏(本名:磯野晃雄 1930.7.28~1999.4.21)とは、アメリカ大使館勤務を経てジャズ評論家、司会者、ラジオDJ,そして自由が丘のジャズ・クラブ「ファイブ・スポット」のオーナーになった人物である。原稿の速書きで知られ、あるレコード会社のA&Rが自由が丘の自宅に資料を届け、会社に戻ったところ、依頼した原稿がFAXで届いていたという逸話がある。また、原稿は改行が多いことでも知られ、原稿用紙を立ててデスクの上で2、3度トントンとたたくと原稿用紙半分に収まってしまうという噂話が流布していた。しかし、いソノ氏、このニカ男爵夫人のエピソード公開で一挙に汚名? を挽回したことは間違いない。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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