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GalleryNo. 222

#33 隔月刊『音楽』  ’74 8月号 Music Musique Musik

現代情況に立ち向かう音楽誌

 

特集 ヨーロッパのマイナーレーベル

昭和四十九年八月三十一日発行 第一巻第二号
発行所 日本現代・ジャズ・音楽研究会
発行者 小原 悟
編集者 高崎智之
定価  200円

 

第一巻第二号とあるから創刊2号なのだろう。判型はB5、いわゆる週刊誌サイズである。本文32ページ。印刷はガリ版(謄写版)のようにみえるが手書きではなく活字である。ロウ原紙をヤスリ板の上に置き、鉄筆で文字を刻み、インクをつけたローラーでロウ原紙をこすって印刷するガリ版は僕らの子供時代はもっともポピュラーな印刷方法だった。先生から配られるお知らせは先生が職員室でガリ版を切って印刷したものだったし、学級新聞は学級委員が放課後、鉄筆でロウ原紙に書いて作る手作り感いっぱいのメディアだった。僕も学級新聞や宿題のテストをガリ版印刷で作った経験がある。この「音楽」誌はもちろん手書きではなくタイプなのだが印刷にむらがあり不安定なところが謄写版印刷の雰囲気なのだ。手書きがタイプに進化した謄写版印刷があったのかどうか僕は知らない。

特集は「ヨーロッパのマイナーレーベル」で、巻頭は清水俊彦氏(~2007)の「ヨーロッパの新しい音楽」。清水氏は、ヨーロッパの新しい音楽 (Nouvelle Musique Europeanee)をNMEと略し、ICP、FMP、INCUS、Vogelといった自立的、創造的な組織体(マイナー・レーベルを兼ねる)に拠るヨーロッパの急進的なミュージシャンたちの音楽であると規定し、論を進める。取り上げられるミュージシャンはペーター・ブレッツマンやハン・ベニンクであり、彼らが現在でも第一線で活躍し続けていることは何を意味するのだろうか。
異色のエッセイは現在音楽の作曲家として知られる広瀬量平氏によるICP、INCUS、FMPの試聴記。彼がもっとも気に入ったのがFMP0130、ブレッツマン、ファン・ホーヴ、ベニンクのトリオによる演奏。「私はすっかりこのレコードが気に入ってしまった」「私はこの三人の一音の平凡さもきらう鋭い感覚にすっかりしびれてしまった」とご満悦である。

「日本のミュージシャン〜〜今、我々は...」と題された二人の若手アルトサックス奏者へのインタヴューも出色の企画。ひとりは、高柳昌行「ニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ」在籍中の森剣治。もうひとりは軍楽隊を率いていた頃の阿部薫。ふたりとも好きなミュージシャンとしてパーカーを挙げているのが興味深い。阿部は、「僕は、あのきれいなトーンが好きな訳。音もピーンと鋭いしね」と理由も明確だ。阿部のインタヴューは月刊「JAZZ」にも掲載されていないし、極めて貴重なのではないか。
もう1冊手元にあるのは昭和五十年十月二十日に刊行された第7号(第二巻 第三号)。この号では巻頭10ページに及ぶ高柳昌行へのインタヴューが圧巻。インタヴュアーとなかなか話がかみ合わないのは高柳が徹頭徹尾エゴイスティックなまでに自己を主張し排他的だから。高柳の面目躍如たるものがある。もうひとりはパリから里帰り中のトランペッター沖至。パリを中心としたヨーロッパの現況と彼我の比較などについて明瞭に答える。副島輝人氏の「日本のニュージャズ史」が2回目を迎えている。

ほぼ40年前の刊行物だが見事に時代を切り取った編集には目を見張らされるものがある。(稲岡邦弥)

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「音楽」2号 表4                                                                    「音楽」表4

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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