JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

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Concerts/Live ShowsInterviewsNo. 337

#1408 IOSUI live in Tokyo

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

2026年4月19日(日) 神保町試聴室

Kenichi Takahashi 高橋賢一 (piano)
Masaki Kai 甲斐正樹 (contrabass)
Tetsuji Matsuo 松尾哲治 (drums)

1. beyond silence (Matsuo)
2. fountain of solace (Matsuo)
3. 浮草 (Takahashi)
4. deep sky after goodbye (Matsuo)
5. solitude under the sky (Matsuo)
6. 雨 (Matsuo)
7. history of the river (Matsuo)
8. foandai (Kai)
9. Nagi (Takahashi)
10. 0520 (Matsuo)
11. In my mind’s eye ~encore~ (Takahashi)


IOSUIは関西を拠点に活動するグループであり、この日、はじめて関東でのライヴが組まれた。トリオであるからこそ隙間があり、聴く者はその隙間で演者の話をゆったりと感じ取ることができる。たんに個性と呼ぶとしても、ジャズの方法論からのずれを見出すおもしろさとはちょっと異なる。

風景的であるということができるかもしれない。松尾のドラムスは「刻む」ものではないし、バンドの音を前に駆動するイメージでもない。心地よいグルーヴを作り出しているときもリズムであることは前提ではなく現象だ。曲も方法論的なものではなく、松尾の曲のなかには風景をさまざまに提示するさなかに幕を引くようなものもある。グループ名のIOSUIとは如水、水の如しという意味というから、名が体を表している。

そのつもりで聴きながら想像をふくらませるなら、松尾のアプローチは、小川の流れがずっと同じようでいて音も石とぶつかるときの泡のかたちも変っていくありようだ。高橋のピアノはつねに遷移域にあり、いつまで見ていても飽きない光の反射や水面のかたちを思わせる。甲斐のコントラバスは低音で包むことによって聞く者の自省をうながすようだが、それは強制ではないし次に開ける世界も提示するものだ。

>> IOSUI『yoake』

◆ IOSUI インタビュー(座談会)

齊藤)IOSUI結成のきっかけは?
松尾)最初にX(Twitter)で僕が甲斐君をフォローしたんです。まだ甲斐君はドイツ。そうしたらフォローバックしてくれた。それでメッセージを送ったりして、少しずつ交流が始まっていって。甲斐君が日本に帰ってくるときがあって、一緒にスタジオに入ってくださいとお願いしました。いいよって言ってくれて。そのときはなんか甲斐君、あんまりおもしろくねえなみたいな、ちょっとそんな感じもあったかもしれない。
甲斐)ああ態度が悪かった。
松尾)いやおもしろくないとかじゃないかも。まあそれから少しずつ仲良くなっていった。甲斐君が帰国してライヴするたびに観に行ったりした。それから高橋賢一君は、ピアノで弾いたインプロヴィゼーションをYouTubeにアップしていたっていう。
高橋)あの時めちゃ上げてたな。毎日とか。
松尾)メディテーションみたいなピアノをアップしていて、それを聴いた時に、ああ日本にこんなピアノ弾く人がおるんや、すごいなと思って。そうこうしているうちに、甲斐君と高橋君と、あと浅井良将さん(サックス)が一緒に大阪でライヴをやるっていう機会を知った。僕は終わる15分前ぐらいに観に行ったんですよ。
甲斐)知らんかった。
松尾)仕事終わってからバーッて行った。赤穂(兵庫県南西部の市)から行ったから遠い。
甲斐)赤穂からわざわざ 15分のために。
松尾)で、着いて一曲ぐらい聴いて終わった。すぐ賢一君に声をかけて、一緒にやりましょうとお願いをした。そこから徐々にっていう感じですね。
齊藤)それはいつ頃ですか。
甲斐)僕が日本に帰ってきたくらいですね。
松尾)3人で最初にライヴをやったのが 2022年の秋で、お客さんがひとりだったんですよ。Studio T-BONE(大阪)でした。結構楽しんでいいライヴできたって自分では思ったんですよね。それから僕が自主企画をするようになって、対バンを誰か呼ぶことを何回かやりましたね。
齊藤)関西ばかりですか。
松尾)関西ばかりです。
齊藤)なんかバンドのコンセプトはあったんですか。
松尾)僕の考えで言うと、アメリカのジャズとヨーロッパのクラシックの要素を融合させて、そこに日本人である自分たちのオリジナリティみたいなものを混ぜていけたらなと思って。
齊藤)甲斐さんについては?
松尾)僕は甲斐君のベースを聞いたときに、お、ベースってこんなにおもしろいんやと思いました。それまでベーシストに注目することがあまりなかったんですけど。
高橋)もっとなんかないの?おもしろいって。
甲斐)ないよな。
松尾)カッコよさとユーモアの絶妙なバランスというか。音楽を立体的に感じたり、俯瞰して見たりすることができるところもすごいです。サッカーの中田英寿さんがフィールドを俯瞰で見て、絶妙なパスを出せたことに似ています。甲斐君はアンサンブルや楽曲を俯瞰の目で見ることができるんです。

齊藤)その前に高橋さんと甲斐さんは演っていたわけですよね。
甲斐)トリオのちょっと前ですね。
高橋)そう、indigo jam unitの清水勇博さんってドラムがいて、トリオを演りました。ちょうど清水さんがNYから帰国するときに合わせて2回ほど、京都で。
齊藤)高橋さんは甲斐さんについてどう思っていたのですか。
高橋)僕が自分の中の音楽性みたいなものを追求した方がいいなと思う時期に、甲斐さんが現れました。僕はもともとオーソドックスなことが得意というわけではないんですけど、それよりも自分の表現を追求したいなって思っていた時期です。コロナ禍で自宅にいる時間が長くなって、自分の音楽性にいまいちど向き合い始めたときに、甲斐さんが帰ってきた。僕のイメージしているものを汲み取ってくれて、近い感覚を持って感覚的にやってくれるベーシストを探していたんです。甲斐さんを観に行った日にすぐお願いしました。
甲斐)あの日、ライヴ全然良くなかったけどね。
高橋)いや、良くなかったですね、言い方次第では。けどやっぱりそうは言っても良かったんです。それで、周りのみんなも「甲斐さん合うんちゃう?」みたいに言ってくれたこともあって。
齊藤)甲斐さんからみてどうだったんですか?
甲斐)なんか「上から目線」みたいですけど、最初はふたりともハチャメチャやったんですよ。「原石」とか「カッコいい」とかでもなくて。
松尾)言い方によりますね、それは。
甲斐)まだうまくアンサンブルができないぐらいの状態。でもなんか嫌な感じがなかった。僕の考えでは、芸術をする中で、ある神聖な「領域」「ゾーン」のような場所が、あるところにある。かれらがそこからなにかを拾いあげてきているのかも?という感じはしていました。そこから拾ったものは、どんなものであっても、なにかつねに尊重や敬意を払わないといけないと思うんです。おもしろいものでなくても。
齊藤)ピカピカのなにかを。
甲斐)それで、かれらは拾ってきたら、もうはしゃぎながら、「うわー!これ見てください!これ見てください!」って、よくわからないものでも、持ってくるんですよ。僕からしたら「え?それ持ってきたけど、どうしよう…」みたいな感じ。いや、いまはもうふたりともほんま素晴らしいですが、そのときはハチャメチャでしたね。でもかれらが、その神聖なゾーン、領域からなんらかのものを拾いあげてきたのは、わかりましたね。
齊藤)基本は曲を誰かが用意するんですよね。
高橋)松尾君のオリジナルの割合がちょっと多い。七割、八割くらいかな。
齊藤)オリジナルでもさっきのコンセプトみたいな感じですか。
松尾)僕は坂本龍一さんや久石譲さんからの影響が大きいなと思っています。アメリカにちょっと留学したことがあるんですけど、その時にアメリカから影響を受けたジャズの要素も。
齊藤)ドラムで留学なさっていたんですか。
松尾)そうなんです。でもドラムが下手だったので、全然先生や友達から注目してもらえなかったんですよ。ただ、作曲の授業で宿題を出したら先生が褒めてくれて。あっドラムよりこっちの方が見てくれるんやなと思って、作曲に興味が出てきたんです。先生も、ドラムと作曲の両方やったらおもしろい存在になれるよって言ってくれました。
齊藤)それで自分の曲をやろうということにもつながるわけですね。3人それぞれの曲のキャラはちがいますか。
松尾)まあそうですけど、なんか似ている部分もあるように感じます。賢一君の曲が一番まとものような気が。
高橋)そうなんや。
松尾)曲っぽい。

甲斐)高橋君の曲は、物語がそこに存在しているっていう感じ。松尾君が持ってくる曲って断片的というか、記憶とかイメージの断片みたいな感じで、なんか「きれいなもの見つけてきた!」みたいな断片を僕らに見つけてきたって持ってくる。多分社会から見向きもされないような、忘れ去られたような美しい部分を掘ってきたって喜んでいる。
齊藤)パッケージになってないやつ。
甲斐)そうそうそうそうそうそう。そういうのを大事にしてる感覚がある。記憶とかイメージの断片。
高橋)それすごくわかるような気がする。
甲斐)すごい断片なんですよね。で、高橋君って下の方のある領域から「物語みたいなもの」を拾いあげてくるのがすごい上手やなって思ってて。松尾君の断片に高橋君の物語性みたいなものが入ると、なんか糊でくっついて曲になるっていう不思議なことになる。
齊藤)すごくいい話です。
高橋)僕も松尾君の曲は結構演りやすいっていうか、イメージが湧く。たとえば「ニューヨークっぽいサウンドです」みたいな曲とか持ってこられても、何にも思い浮かばなくなっちゃう。だけど松尾君のピュアな感じを聴いたら、じゃあなんか風景っぽいのを描いたらいいかなとか、そんな感じ。
齊藤)松尾さんの曲には人のインスピレーションを掻き立てるものがあるんですね。断片をよく見たら変な顔がいるぞとか思っているうちに。
甲斐)そうかも。
齊藤)つまりオーパーツみたいなやつですね。『ムー』とか読んだら出てきますよ。古い文明から掘り出されたものに、水晶でできた精密なドクロとか飛行機とか、当時なかったはずのものがあって。いや、それかなっていう。
高橋)そういう感覚かも。
甲斐)高橋君が松尾君の曲を初見で弾いてみると、もちろん高橋君はその正解を知らなくて半信半疑で「え?こんな感じで合ってる?合ってる?」って松尾君に聞く。で、松尾くんは「うん、合ってる」って言う。僕は「え!そうなんやね!OKでた!笑」ってなる。
齊藤)理想的ですね。お互いに絶対理解してないのに、自分の思い込みだけでコミュニケーションが取れてる。
高橋)でもこの前、書いてきたテーマと違うメロディ弾いたりして。それは言うてや。
松尾)賢一くんがアレンジして弾いているんやなとか思った。
高橋)アレンジしてない、ヘ音記号とト音記号を読み間違えているだけ。
甲斐)なんかお互いに補正があるよね。欠けているふたりなんですよ、僕もですけど。
齊藤)甲斐さんの曲はどんな風にみているんですか。
松尾)すごく独特やなと思います。セクションの1つ目の小節で無音のやつとかあるやんか、あんなん考えるのすごいなと思って。僕やったら最初の小節に音を絶対何か置きたくなる。でもそこを1小節目は全部無音にして、次の小節から音を出すっていう、そういう曲を作るっていうのはすごいアイデア。
齊藤)これで4年、ほぼ関西でライヴをやっていたんですね。東京はトリオでは今回がはじめてですね。
甲斐)はい。僕は去年こっちに来たけど、関西と行き来しています。
高橋)僕も甲斐さんと似たような感じで引っ越して来て、毎月関西でも演奏してて、東京でも少しずつ広がっていっている感じです。

齊藤)関西と東京でなにか違いはありますか。
高橋)はじめて来た時は絶望したんですよ、周りがうますぎて。3日くらい落ち込んでて。
甲斐)3日でよかったんや。
高橋)奥さんに怒られて、復調してっていう感じなんですけど。今となってはすごく良かったなって思うのは、関西にいるときと違って、諦めがついたっていうか。周りがうますぎる故に自分の音楽をやろうと思えたっていうのはすごく大きかった。もちろん関西でも、甲斐さんとか一部の方々など、僕の感覚を受け止めてくれる人がいます。ただ東京の方が人も多い分素晴らしいミュージシャンが多いので、僕が思うように出したことに対して応えてくれる人が圧倒的に多いなって正直思います。感性が僕と似ていない人だって対応できる。
甲斐)そうかも。
高橋)だからうまい人と一緒にやったら、うまいだけじゃなくて、僕がいく方向でも演奏できちゃう。やっぱりもうそこが全然違う。だから、僕は自分を解放していく方に進んでいけてるっていう感覚がありますね。関西では僕ちょっとおかしいのかなって思うこともあったんですよね。褒めてもらうことも少なかったし。なんか僕だけ行っても周りがついてきてくれないみたいな状況が本当に多かった。でも、東京では、僕がいった時にはなんかそれに対するアイデアを提供してくれたり、おもしろがったり、楽しんでくれたり。
齊藤)そうなんですか。
高橋)たとえば「無音の状態やけど演奏参加してるよね」とか、関西で言われなさそうなことを感じてくれる人が多いっていうか。僕は、演奏していない時もテレパシーとか第六感的なものでアンサンブルを作れるって信じているんですけど、そこを感じ取ってくれる人が多いのが、僕にとってはいい環境だなって思いますね。
齊藤)高橋さんはどんな方と演っているんですか。
高橋)普段はこのメンバーとか。今度演ってくださる本田珠也さん(ドラムス)や杉本智和さん(ベース)は楽しみにしています。その前は西嶋徹さん(ベース)とも演りました。僕もポンコツなんで、割と弾いているときに曲を忘れたりするんですよ。次わからへんでも思い浮かぶことを弾くんですけど、西嶋さんはそのなんか思い浮かぶことに合わせてくるから、え? って思って。僕の頭の中の音が先に聴こえているっていうことなんですよ。それはもう関西では考えられなかった。
齊藤)そうなんですか。すごいな。
高橋)「西嶋さん、なんでわかるんですか」って聞いても、「高橋君、わかりやすいよ、これぐらい」って言われるんですよ。ありがたいというか、そういう機会をいただいてるので、解放していけるし、演っても受け止めてくれるやろなって思える。そういう表現をすごく出せる人たちとは出会えてよかった。
甲斐)高橋君の特徴みたいなものなんですけど、かれ自身の中で、なんかいいものが築き上げられてきてコンフォートゾーンみたいなのが出来上がってきたら、割とそこに落ち着かずに抜け出そうとするんですよ。多くの人は、抜け出して次のステップに行くときに、前のコンフォートゾーンで作り上げた90パーセントを残したまま、10パーセントずつ次のゾーンに飛び出して行く。高橋君の場合は、50パーセントから90パーセントくらい捨てて次のゾーンに行くという、すごい危険なやり方をすると思います。彼が自分に翼が生えているうちに、使命感に追われて、次に行くみたいに。
齊藤)楽しくやっていたはずなのに黙っているなと思ったら、いきなりバーッと出ちゃった、みたいな?
高橋)なんか形としてまとまりすぎるとおもしろくなくなってきちゃうんですよ。いい感じで仕上がってしまったなって思ったら、やる気が失せてしまうっていう。ある程度リハで形を作って盛り上げるポイントを作っても、僕は下手くそで形が決まった通りにまず弾けないんですよ。覚えていられない上に、もう演奏入ったら絶対に自分が盛り上がって忘れちゃうんですよ。
齊藤)周りから、「この展開で行ってほしいのに、なにやってんの」みたいな。
高橋)そうなんです。私生活でも僕のこの性格的なものがつねに起きています。

齊藤)松尾さんはドラムでどんなサウンドを目指すとか、ありましたか。
松尾)元々はジャズの人が好きだったんです。トニー・ウィリアムス、ジャック・デジョネット、エルヴィン・ジョーンズとかにめちゃくちゃ憧れたんですけど。
齊藤)演るのはそういうのではないのですか。
松尾)憧れたんですけど、なんぼ頑張ってもそうならなかったんですよね。アメリカに行った時に、ドラマーとしては全然周りのみんなから注目されなくて。どうしたらいいんかなっていうのを悩んで、なんか他の人と違うことせなと思って、ドビュッシーとかキース・ジャレットのソロピアノとかを聴きながら練習したんですよ。それが今につながっているようなところはあるかもしれないです。
齊藤)それは作曲の方がおもしろいっていうのと通じる話ですか。
松尾)通じる話だと思います。ドラミングをしながら曲作りのことはあまり考えないですけど。ドラムよりピアノのほうが自分の中で大きくて、ピアノの音をどうやってドラムでかっこよくするかみたいなことを考えているかもしれないです。
齊藤)関西でどのくらいライヴを演っているんですか。
松尾)そんなに多くなくて、このトリオがほとんどです。あとは西島芳さん(ピアノ)に呼んでいただいて一緒にライヴをしたりすることもあります。ピアニストはだいたいこのおふたり。
齊藤)関西はオーディエンスの雰囲気も違いますか。
高橋)お客さんもだいぶ違う感じがしますね。関西でやってる時は、場所によっては、酔っ払って盛り上がってわーいみたいなこともありますけど、東京ではストイックな感じが出てくるっていうか。場所の幅の方が広くて、めっちゃうまいのを求められるときとか、音楽性が突き抜けるのを求められるときとか、いろんなシーンがある。
齊藤)逆に関西のよさはなんでしょう。
高橋)盛り上がって楽しくなるところかな。もちろんそれだけじゃなくて、関谷友加里さん(ピアノ)とか西島芳さんとかは、どちらかと言ったらエスパーっぽくて、盛り上がってわーいって感じじゃなくて自分の世界を追求している方たち。
甲斐)関谷さん、西島さん、それにサダオカヒロマサさん(ドラムス)あたりは、今の関西の重要なチェックするべき方々です。関西でいま起こっている、文化的、実験的、フリーなシーンを作りあげて引っ張っている方々だと思います。
高橋)そういう方たちには近いものを感じるかもしれないです。甲斐さんもその系譜というかなんというか。エスパー度が高い人たちがいるけど、それはコアな世界で、東京に比べて人数が少ないかなっていう。

甲斐)関西は安定したクオリティのものが出ている店が多いんかな。みんなもそうしようとするし。この店やこの人ならこういうものが聴けるみたいなものがあるし。あ、安定は絶対いいことなんですよ。でも高橋君は安定ゾーンにいたくない人で、常に更新していきたい人で、それが東京的というか。東京ももちろん安定したものも求められると思うけど、関西では、「私はこういう者なので、こういう音を出します」というコンフォートゾーンに居続ける方々が多いかもしれません。もちろんそれはそれでいいことだと思います。安定を見つけたら、それに対してなにかを考えることができるから。
高橋)よくてもやっぱりちょっと停滞したくないというか。
齊藤)せっかくいいソファを見つけたのに、立ち上がるみたいな。
高橋)なんか僕の中の創造的な旅が終わっちゃうと困るというか、つねに旅してたい感じがやっぱりあるんですよね。だから、東京に来て、突き抜けた時にみんなが喜んでくれて、おもしろいって思ってもらえる機会が圧倒的に多い感じです。
齊藤)松尾さんはどんな場所で演ることが多いですか。
松尾)大阪のStudio T-BONEが多いですね。あと、地元の赤穂に赤穂サンクチュアリっていうカフェがあるんですけど、そこでこのトリオで演ったことがあります。
齊藤)T-BONE、いい場所ですね。
松尾)甲斐君がそこで「guon session」っていう参加型セッションの企画をやっているんですけど、そのときは有本羅人君(トランペット等)もたまに入って一緒に演奏したりします。このトリオに羅人君が入ったことはないですね。
甲斐)関西で先人からいまの人までが作りあげてきた実験的なことやフリーシーンの流れや文脈から、松尾君はまったく切り離されていて、ほんで関係もなくて、多分影響とかもないんだと思います。和製でもなく関西産でもなく、もうほんま完全に独自の文脈から出てきた「赤穂産」の音楽なんですよ。赤穂産のポストクラシカルっていう独自の文脈をIOSUIで勝手に作りあげてやっていて、そこがおもしろいんです。
高橋)僕はそういうところに惹かれる。その人が持っている音が好きなんですよ。
齊藤)それ最初の話につながりますね。お互いに言っていることをちゃんと理解してないのになんかうまくいくみたいな。
高橋)そうそうそう、そうですね。
甲斐)始めている時点からコンフォートゾーンにいないです。その文脈に全く乗っかれていないから。多分生まれてから今までずっとコンフォートゾーンの端にいる人で、でもだからそれがいいなって思うんですよ。昭和フリージャズの文脈とかあると思うんですけど、それも関係ないんですよね。

齊藤)松尾さんはアメリカ時代にライヴはしませんでしたか。
松尾)学校のバンドでLionel Hampton Jazz Festival に出たことがあります。それから、校内にロックバンドを演っているやつらがいて、誘われて演ったりもしましたね。
齊藤)アメリカのジャズへの憧れがあったんですよね。でも馴染めていないんですか。
松尾)本当は東海岸の音楽学校に行きたかったんですけど、途中で調子を崩して、帰国することになったんです。だからアメリカでジャズ・ドラムっていうのをやりたいとこまでやれなかったというか、道半ばで帰ってきたところがある。
齊藤)どの町ですか。
松尾)西海岸ワシントン州のスポケーンという田舎町です。3年間いて、近くのシアトルとかポートランドとかの有名なジャズ・ドラマー、たとえばトッド・ストレイト先生(Todd Strait、現在カンザスシティ在住)に教えてもらうことができたんですけど。うーん、ジャズ・ドラムっていうのと僕はどういう関係なんやろうっていうのは謎なところがありますね。
齊藤)たとえばニューヨークのコンテンポラリーなんて聴きますか。
松尾)聴きます。イマニュエル・ウィルキンス(サックス)とか、アンブローズ・アキンムシーレ(トランペット)とか、ブラッド・メルドー(ピアノ)とか、ブライアン・ブレイド(ドラムス)とか、マーカス・ギルモア(ドラムス)とか。聴くのは大好きなんですけど。
齊藤)演るという話にはならない。
松尾)そうなんです。演れないんですよね、自分の感じでしかできないというか。
高橋)でも演ってるところは見てみたいけどな、イマニュエル・ウィルキンスの後ろで。絶対松尾サウンドにしかならへんから。
甲斐)寄せてくれるかもね。
齊藤)イマニュエル・ウィルキンスってウケるんですね。くそ上手いしアルバムを聴いてもすごいねと思うけれど、あんまり盛り上がらない。
甲斐)僕は好きですけどね。
齊藤)ニューヨークのSmallsにいたら若手のひとりみたいな感じで出て来て、ああこういう人がそのうち出てくるんだろうなと思ったら、本当にすごい勢いで出てきた。けれど、もうちょっと破綻があった方がおもしろいなとか僕は思って。松尾さんは逆に誰と演るんだったらイメージが合うみたいな人はいますか。
松尾)それだったらやっぱり若いころのキース・ジャレットなんて、一緒に演ってみたいなと思いますね。あと坂本龍一さんのピアノにドラムで、とか。
高橋)ああ、キースの若い時いいですね。すごく好きです。18歳からピアノを本格的に始めたころキースの『Köln Concert』に衝撃を受けて。楽譜読めなかったんですけど、即興やったら俺いけるかもみたいな感じが起こっちゃって。
甲斐)すごいね君。
高橋)もちろんキースはめっちゃ読めるし分かりきった上で演っているんでしょうけど、そこが入り口でしたね。初期のキースは聴きまくって、すべてのアルバムを買っていました。コロナでお金なくなって売っちゃいましたけど。
齊藤)トリオではキースのピアノはだんだんシンプルになっていったんですよね。でも最初の頃はめっちゃ弾いていますね。アメリカン・カルテットもいいですね。
高橋)いいですよね。めちゃくちゃ聴きました。
松尾)ヨハン・ヨハンソンも好きで、ああいう人とも演ってみたかった。
甲斐)それが一番つながるかもね。
高橋)僕も結構ポストクラシカル好きなんですよ。
齊藤)ジャズじゃないんですね、結局。
松尾)ジャズじゃないかもしれないです。

齊藤)高橋さんは海外では?
高橋)僕は全然経験がなくて、お話をいただくこともあったんですけどコロナとかで全部消えちゃって。機会があれば演ってみたいなっていうのもあるんですけど。でも東京に来てみて、身近で一緒に演奏していただいている方たちが海外でも演奏していることも多い。そういうのがすごく身近に感じられたのは、関西にいる時はなかったかな。
齊藤)本田珠也さんと演ったらなんか別の機会が来るかもしれないですよね。
高橋)来たらラッキーですけどね。珠也さんには「次のライヴ、お前は試練だぞ」って言われていて。「手応えなければ次は演らない」みたいな。
齊藤)すごいですね。
高橋)もう僕もアホなんで「いや、手応えがなくても1年後ぐらいにもう1回オファーするから演ってください」って返しときました。
甲斐)強ええな。こういう人なんですよ。
齊藤)今までなにか縁はあったんですか。
高橋)菊地雅章さん(ピアノ)のメモリアルコンサートを観に行って、珠也さんがトンって一音叩いた瞬間に「MVP」と。それほど一音の密度、強さがあって。
齊藤)想像できますね、なんとなく。
高橋)他のドラムももちろん観てきたんですけど、一音でこの人めちゃくちゃすごい、ワールドクラスだっていうのを感じちゃって。嬉しくて、「わあ最高やった、MVPや」と思って帰っていたら、ひとりで酒飲みながら歩いてくる珠也さんと鉢合わせて。で、「これはもう何かの縁と導きだから一緒に演ろう」と言ってくださったんです。それが始まりです。
齊藤)たとえば類家心平さん(トランペット)は?
高橋)類家さん大好きなんです。もうなんか一緒に演奏して一音聴いた瞬間に「パーン」ってなって、30秒ぐらいでノックダウンするくらいの感じになっちゃうんです、テンションが上がって。一瞬でスイッチが入って、後先考えずにやっぱりパーになっちゃう。珠也さんとはこんどの演奏が2回目になるんですけど、初回の経験は完全に僕の演奏を変えましたね。
齊藤)菊地雅章さんと本田さん、杉本さんの共演盤いいですね。
高橋)『On The Move』は最高です。アルバート・アイラーの<Ghosts>はめっちゃゆっくりで演っていて、めちゃくちゃ聴いていました。珠也さんも、あのテイクについて菊地さんが「お前のドラム最高じゃねえか」って言ってくれたと話してくれました。

齊藤)松尾さんは日本のジャズについてはどうなんですか。
松尾)高校生のとき生まれて初めて買ったジャズのCDがマイルス・デイヴィスの『Nefertiti』だったんですけど、それは村上ポンタ秀一さんが『リズム&ドラムマガジン』に「黙ってこれを聴け」って書いていたからなんですよ。
齊藤)菊地さんとか、ポンタさんとか、日本のジャズにもカッコいい人いっぱいいるじゃないですか。ポンタさんはポップスでもフュージョンでも「あの音」ですよね。
松尾)正直言うと聴いていないんですよ。ポンタさんに影響受けたかっていうとそういうわけでもなくて。富樫雅彦さん(ドラムス)を聴いたのは最近になってからです。菊地さんについてはメモリアルコンサートがあると知って、はじめて『Hanamichi』を聴きました。すごいなと思いました。ほとんど僕は日本のジャズは聴いていない。
甲斐)好きそうやけどな、めっちゃ。
齊藤)押すタイプじゃないドラマーについては。
松尾)ジョーイ・バロンとかヨン・クリステンセンとかホルヘ・ロッシとか、親近感を感じるところはあります。
齊藤)ヨーロッパにいた甲斐さんからみたら、東京や関西のジャズはどんな感じですか。
甲斐)敢えて「ヨーロッパ目線」になりきるとしたら、ですけど。例えば日本で売れていたとしても、ヨーロッパのフェスティヴァルに呼ばれるのかなっていう話となると、選ばれる人たちは減ってくるなっていう。例えば千葉広樹さん(ベース)とか呼ばれるんだろうし、あと誰やろ、蒼波花音ちゃん(サックス)なんておもしろくて、ヤコブ・ブロ(ギター)に呼ばれるわけやなと思ったり。前の世代の東京のジャズだと、渋谷毅さん(ピアノ)のようにつねに自分自身を更新している人がすごく好きです。ニューヨークに行ってからの、ポール・モチアン(ドラムス)と演っているときの菊地雅章さんも好きです。昔の昭和ジャズはあまり好みのものを見つけられないのですが、でも、例えば鈴木清順の映画に使われている状態やったらめっちゃかっこいいなと思うんですよね。海外のジャズにはない、日本独自のジャズのリズムが、鈴木清順の映画にはすごくフィットしてる、みたいな感じ。独自の少し変わったジャズの文化が、鈴木清順みたいな昭和アングラ映画の文化の中で独特のテイスト、香りを放つようなとき。すごくカッコいいなと思います。
齊藤)それ「ヨーロッパ目線」というより、ちょっと違う目線ですね。
甲斐)いや、でも僕はもしかしたらヨーロッパの人はそうなのかもって思います。例えば、ヨーロッパの人が日本のフェスティヴァルでジャズを観ておもしろくなかったとしても、それがたとえば昭和アングラの映画で使われてる状態だったら、かれらの目線では、日本の独自のジャズをカッコいい、おもしろいなって思うことがあるのかもって思います。

齊藤)このトリオの今後の方向性なんてありますか。
全員)あっそれっぽい話。
松尾)このトリオに電子音を加えたいなと思っています。シンセサイザーやモジュラーシンセサイザーみたいなものなのか、ギターなのか、わからないですけど。もうひとり入っていただくか、自分らでその音を出すか。
高橋)レコーディングまたしようかって松尾君が言っています、今年。
齊藤)ところで関西ではお客さんどのくらい入るんですか。いや東京でも、だんだんみんな貧乏になって、生活の余裕もなくなってきて、なんなんですかねこの寂しさは。みんなくっそおもしろいことやっているのに、なんで来ないんだ、みたいな。
甲斐)集客のこと考えてライヴも絞ってやらないと。
高橋)日によりますかね。独特の集まり方ですかね。
甲斐)インバウンドで盛況な店がいくつかあったりするし、安定したジャズを求める人たちが来るところもあるし。京都やったら山内弘太さん(ギター)がアバンギルドや堀川会議室でつねに若い人を引きつけたり、文化的な人も来ていたりという動きもありますね。
齊藤)どうやったら集まるんですかね。
松尾)僕も知りたいです。
齊藤)集客テーマのトークショーをやろうかという話もあります。
甲斐)おもしろいですねそれ。
松尾)アーティストとのコラボができたらおもしろいかもしれないです。今回のアルバムでは、香川県の小豆島に住んでいるHiroshi Matsumotoさんの絵を気に入って、ジャケットに使わせていただいています。そういう関わりかたは僕にとってはすごく楽しい。
甲斐)そういう交流も東京の方が多いなと思ったりします。ダンサーとの交流とか。
齊藤)遠藤ふみさん(ピアノ)たちに絵を提供しているsasakure.さんもいいですね。1枚買いましたよ。
甲斐)いくらだったんですか?
齊藤)XXX円。
甲斐)えっそれ絶対安いですよ。あの人の絵はすごいと思う。なかなかいないですよ。僕も買っとこう。
松尾)いつかこの 3人で海外でライヴできたらいいなという微かな野望があります。
齊藤)それいいですね。
松尾)色々と調べているんですよ、アーティスト・イン・レジデンスとか、助成金とか。どうしたらいいんやろうなと考えたりしています。
齊藤)蒼波花音さんと遠藤ふみさんがヤコブ・ブロに誘われてデンマークで演りましたけど、そういうパターンもあるんですね。
松尾)そうそう甲斐君はヤコブ・ブロと卓球したことがあるんですよ。
甲斐)ヤコブ・ブロ、卓球がめっちゃ強いです。やばいです。卓球バーのマスターが負けましたから。お客さんが「なんかすごい卓球の選手が来てる、あれ誰や」みたいな雰囲気になったんですよ。デンマークは常に卓球が流行っているんですよ。僕もテニス部出身やから割と自信あったんですけど、そのレベルじゃないです。プロレベルです。
齊藤)ヤコブ・ブロと卓球した人あんまりいないでしょうね。
甲斐)今度みんなで卓球バーに行きましょうか。
齊藤)全員でやって優勝した人がヤコブ・ブロと対決する。
甲斐)ヤコブ・ブロにはそれまで弾いててもらって、最後は対決。
齊藤)生半可なライヴより楽しい。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。linktr.ee/akirasaito