Interview #223 ツアー直前「Love to Brasil Project」
ヒロ・ホンシュク+城戸夕果

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photo above: ©Robert Torres for Celebrity Series of Boston

Interviewed by Kenny Inaoka 稲岡邦彌 via e-mails, June 01~02, 2021

Facebookで城戸夕果さんの存在を知る

Jazz Tokyo:結成はいつですか?きっかけは?

Hiro:知り合ったきっかけをご紹介します。2015年の9月のことでした。FBの知り合いの投稿を見ていたら夕果さんがブラジルでホーダを演奏している画像がアップされていて、それを見てびっくり。てっきり二世かと思ったらどうやら日本人らしい。日本人でこんなすごいグルーヴの人がいるのかと思い、すぐ友達申請し、そこから交流が始まりました。もう長いことブラジルに行ってなかったので、夕果さんを訪ねようと旅行を計画していたら、なんと夕果さんがご主人の転勤でボストンに引っ越して来ることになり、初めてお会いしたその瞬間、二人で楽器を出していきなりセッション。バンドを一緒にやるしかないと意気投合しました。

JT:ヒロさんは、日本の大卒後ずっとボストン住まいなので夕果さんの日本での活躍を知らなかった..。ところで、ホーダとは?

Hiro:ホーダとはブラジルのショーロなどのジャム・セッションです。正しくは、ホーダ・ジ・ショーロと言われています。そう、夕果さんのことを知ってから彼女のCDを聴きあさりました。まず驚いたのは、こんな自然体でグルーヴできる人は初めてでした。しかもその音色の素晴らしいこと。いっぺんにファンになってしまいました。

JT:たとえばどんなアルバムですか?

Hiro:『Lulu』、『ARACUA』、『Casa』(いずれもToy’s Factory) を何回も聴きました。今でも愛聴してます。

JT:基本ユニットは夕果さんとヒロさんのふたりですね?

Yuka:はい。ヒロさんの素晴らしいアレンジを中心に、フルート2本が基本です。

JT:夕果さんが帰国するまではボストンが拠点でしたか?

Yuka:このユニットでは、ボストンではもちろん、NYCやモントリオールまで足を伸ばすことも度々ありました。

JT:ミニ・アルバムがリリースされていますが。

Yuka:私の帰国もそろそろという頃に、せっかくなので、ミニ・アルバムを作ったらどうだろうとヒロさんからお話を頂きました。

ヒロさんとお付き合いのとても長い、エリオ・アルヴェスと3人で録音しました。エリオは、今やNYCでも売れっ子のピアニストですが、日本にも、ジョイス・モレーノのバンドや、渡辺貞夫さんのグループなどで、毎年来日しています。私も、来演中のジョイス一行とよく交流していたので、かなり前に面識を得ていました。

ヒロさんオリジナルの曲に関して申し上げると、ヒロさんが家族同様に親しくされていた、ジョージ・ラッセル氏のリディアン・クロマティック・コンセプトに基づく曲が多く、美しいメロディと豊かなコードが共存していて、とても素晴らしいのです。このハーモニーの美しさを深く理解し、且つ、曲本来の持つブラジルのグルーヴを熟知しているピアニストと言えば、エリオ以外には思いつきませんでした。

録音を終えて2日後には、NYCは急速なコロナ感染拡大でロックダウンしました。ギリギリ間に合って、本当によかったです。

エルメート・パスコアールから自筆譜をプレゼントされる
photo © Flavio Scubi de Abreu

JT:アートワークがエルメート・パスコアールの自筆チャートで、この曲も収録されています。エルメートとの出会いはどのようにして?

Hiro:エルメートが我が母校、ニューイングランド音楽院から名誉博士号を受けることになり、かねてからエルメートとお知り合いの夕果さんご夫婦をお誘いして楽屋を訪れると、その場でプログラムの裏にに5線を書いて作曲してプレゼントしてくれたのです。その所要時間なんと16分。その様子はこちらのYouTubeで見られます。

Yuka:ニューイングランド音楽院の卒業式でエルメートが名誉博士号を授与され、スピーチするセレモニーが行われることになり、ニューイングランド音楽院で教鞭をとっていたヒロさんが、会場に案内してくれたのです。 90年代リオ在住中にエルメートには何度か紹介されお会いしていたので、楽屋で再会し歓談しているうちに、エルメートはプログラムの裏面に5線を引いたかと思うと、自ら歌いながらメロディとコードをどんどん書き込んでいきました。その間わずか16分。「あなたたちにたくさんの愛情を」というタイトルも、その場で書いてくださいました。

JT:エルメートは奇才として知られていますが、どんな印象でしたか?

Hiro;天才と同時にものすごく純粋な人だと思います。奇才という印象ではないです。

Yuka:音楽に対して愛情たっぷりで、子供の様な方という印象です。

エルメートの数々のエピソードはブラジルの友人たちからも聞いていました。以前お会いした時も、いきなり「ユカ!このBass Flute 吹いてみる?いい音だよ!」と差し出してくださり、吹いてみると...楽器の調整が整っておらず、出ない音があったり。本番では、そんなことなど何処吹く風!声を出しながら吹く「ノイジー・フルート」という奏法で素晴らしい音楽を奏でていらっしゃいました。

学生の頃に聴いていた彼のアルバムには、豚を連れてきて、鳴き声をパーカッションの一部として表現したりと...驚きましたが、とてもジェントルな雰囲気の人物です。

JT:このアルバムはエルメートも聴くチャンスがありましたか?

Yuka:コロナ禍でブラジルへの郵便が止まってしまったので、残念ながらまだお送りできずにいます。しかし、この曲をプレゼントして頂いた次の日に、ヒロさんがギターでカラオケを作って、2本のフルートにアレンジした動画をFBにアップしたところ、エルメートのページでシェアしてくださり、約2万回再生されています。
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-54762/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-53844/

躍動感のあるリズムと美しいハーモニーに魅せられる

JT:そもそもブラジル音楽に興味を持ったきっかけは?

Hiro:ぼくは1987年にボストンに移住してすぐに、パウロ・マラグチというブラジル人に雇われてギグを始めていっぺんに虜になりました。

Yuka:89年にメジャーデビューした小野リサさんのバンドに参加したことです。当時、ブラジル人のミュージシャンも数人おり、ある時期には、サンバのパーカッションのパターンをベースで体現した第一人者ルイゾン・マイア氏が一員となるほどでした。今までやってきた音楽とは全く違う躍動感のあるリズムと美しいハーモニーに出会い、ブラジルに住んでもっと勉強したいと思いました。

JT:おふたりがほぼ同時期にブラジル音楽に目覚められたのですね。ブラジルには出かけられましたか?

Hiro:もう随分昔です。2000年と2001年にリオでいくつかのギグに呼んでもらうという幸運がありました。

Yuka:90年代は、一年のうち数か月をリオで生活し、ライブやCD制作に打ち込んでいました。最近では、2014年から17年までブラジリアで活動をしていました。

JT:ブラジルは想像通りのお国柄でしたか?

Hiro:当時はやはり相当怖かったです。言葉がわからないからなおさらでした。みんないい人たちなのに犯罪を犯さないと生活できないという印象でした。

Yuka:ブラジルとのお付き合いはずいぶん長くなりますが、基本的な印象は変わりません。人生を楽しむ達人と言われるとおり、ブラジルの人々は、先進国の様な便利さがなくても、音楽、コニュニケーション、食事まであらゆるものを豊かに楽しむ、その姿勢は、ブラジルならではの長所だと思います。90年代はボサノバの大巨匠たちとも共演する機会に数多く恵まれましたが、この人生を楽しむという大原則に関しては、皆さん見事に共通していると思います。

JT:ブラジル音楽(いろいろありますが)の魅力を挙げるとすると?

Hiro:ぼくはもうタイム感に魅せられました。ともかく気持ちいい〜っていう感じです。

Yuka:まず様々な魅力的なリズム。そのリズムに寄り添う、メロディ、深く示唆に富んだ歌詞、時に複雑な美しいハーモニーです。

JT:ヒロさんはRacha Fora(ハシャ・フォーラ)というバンドで何枚かアルバムを制作し、日本でも何度かツアーしています。

Hiro:ブラジル音楽大好き、ジャズ大好き、マイルスの教えに従ってふたつを合わせて何か面白いことができないかと始めたバンドでした。残念ながらメンバーがそれぞれ忙しくなってしまったことと、コロナの影響で活動が止まってしまっています。

JT:夕果さんとは、来日中だったトニーニョ・オルタとスタジオに飛び込み、トニーニョが即興で作った曲 <From Ton to Tom>をレコーディングした印象が強く残っています。阪神淡路大震災(1995) 被災者ベネフィット・アルバム『レインボー・ロータス』に収録されています。

Yuka:この素晴らしいアルバムに参加させて頂き、とても光栄でした。感謝の気持ちでいっぱいです。

トニーニョの研ぎ澄まされたギターと一緒に演奏し、感動で胸がいっぱいになった事を覚えています。

その後、トニーニョとはご縁があり、渡辺香津美さん率いるブラジリアンのバンドにトニーニョがゲストで加わった豪華メンバーと一緒にツアーをしたり、トニーニョの妹さんはフルーティストなのですが、とても親しく、今でも親交は続いています。

今年はラテン・グラミーを受賞したり、ますます大活躍のトニーニョですね。

JT:フルートでブラジル音楽を演奏する楽しさと難しさは?

Hiro:ブラジル音楽を演奏するのもジャズを演奏するのも、自分の好みのグルーヴを出してくれるリズム・セクションと演奏するのは言葉で表せないほどの幸福感です。そういう意味で、夕果さんはリズム・セクションではないですが、夕果さんのタイム感に合わせて吹く喜びや、素晴らしいグルーヴで演奏している夕果さんの横に居られることの幸福感は大きいです。自分にとっての難しさは、ポルトガル語がまだちゃんと話せないのにブラジル音楽をやりたいということです。先生についたりオンライン授業も3回試したのに未だにポルトガル語が話せないことで、なかなかブラジル音楽の真髄に近づけません。ですので、ブラジル生活の長い夕果さんが色々助けて下さっていることが心強いです。

Yuka:ブラジルには、横笛で演奏する民族音楽もあり、フルートの音色がとても合うと思います。どんなブラジル音楽を吹いていても、表現の幅が豊かで、本当に楽しいです。ブラジル音楽を演奏する事に対して難しいと感じる事はあまりありませんが、フルートという楽器は特に、毎日体調などによってコンディションの変わる楽器なので、フルートという楽器を自由に吹けるためのコンディション作りは、とても大変な事だと実感しています。

7月に日本で「Love to Brasil Project」をお披露目
@Sofar, Boston 2018 with Rafael Russi on guitar

JT:最後にお互いの音楽性について語ってください。

Hiro:ぼくは夕果さんの演奏をFBで初めて聴いた時からものすごいファンなんです。あの音色。その音の発音テクニック、グルーヴ、フレージング、どれを取っても憧れの存在です。その夕果さんとご一緒させていただいて、しかもアンサンブルが難しい2本のフルートでありながら、こんなに二人のスタイルが違うのに、なんの苦労もなく合ってしまうという相性に何か見えない力で引き合わされているという感が強いです。

Yuka:ボストンで、クリエィティブな音楽をいつも探求していらっしゃるヒロさん。フルートでジャズを演奏する難しさは、ずっと抱えてきたことでしたが、ヒロさんのフルートを聴き、本当に多くを学ばせて頂いています。ヒロさんは、JazzTokyoにも楽曲解析を連載されていますが、ジャズだけではなく多方面への分析力も感服させられるばかりです。そしてライブでは、大きな体から出てくる直球も変化球も思いのままの表現力、そして伝説のジャズ・ミュージシャンたちと演奏を経験されてきた大きな音楽性、日本で一緒に音を出せる日が待ち遠しいです!

JT:来月の ヒロさんの滞日中のセッションのなかでも夕果さんとの「Love to Brasil Project」が組まれていますね。

Hiro:ぼくの今回の帰国の目的は日本で「Love To Brasil Project」のお披露目をするということなのです。

Yuka:東京では青山Body&Soul でのライブ。私の育った神奈川県茅ケ崎では、お付き合いの長い「ハスキーズ・ギャラリー」で2日間のライブ。そしてベースの沢田穣治さんのセッションでは、渋谷、そして大阪、京都のツアーが決まっています。この様な状況下ですが、お店も、とても丁寧に感染対策されていますので、ぜひお越し頂ければと思います。

ヒロさんとの音楽が、日本の素晴らしいメンバーとどんな化学反応を起こすのか、本当に楽しみです。

JT:それでは、ライヴ会場でお会いしましょう。楽しみにしています!

♪ ライヴ・スケジュール
https://jazztokyo.org/news/local/post-65376/


ヒロ・ホンシュク(本宿宏明)

フルート/EWI/作曲
米ボストン在住。バークリー音楽大学に奨学生として入学。その秋にニューイングランド音楽院の大学院に奨学生として迎え入れられ、故ジョージ・ラッセル、デイヴ・ホランド、ジョージ・ガゾーンなどに師事した。両校で多数の賞を受け、主席で同年同月卒業後ニューイングランド音楽院、ロンジー音楽院、ニューイングランド・インスティテュート・オブ・アートなどで教員を務めた。ホンシュクは作曲家/バンドリーダーである故ジョージ・ラッセル氏のアシスタントを20年務め、氏のリディアン・クロマティック・コンセプトを実践する数少ないアーティストとしても知られる。また同氏のリビングタイム・オーケストラの一員としてヨーロッパでも活躍。現在NYCで活動するジャズとブラジリアンのハイブリッドバンド、ハシャ・フォーラのリーダを務め、アルバム3作を発表。他6枚のリーダーアルバムと、サポートミュージシャンとしても30作以上のアルバムに参加。2017年に城戸夕果とLove To Brasil Projectを発足し、活動を続けている。

ディスコグラフィー
https://hirohonshuku.com/ja/discography-ja/


城戸夕果(きど・ゆか)
フルート奏者 作曲家

89年小野リサ・グループのデビュー・メンバーとしてブラジル音楽に出会い、リオデジャネイロに移住。ブラジルでボサノヴァの創始者ジョニー・ アルフ、ジョイス・モレーノ、ジョアン・ドナート、カルロス・リラ等と活動。帰国後、自己のグループや、EPO、宮沢和史とのコラボレーションなどを通じ、ブラジルの手法によるオリジナルの世界を追求。渡辺香津美や向井滋春等ともツアーをする。リーダー作は、ブラジルやデンマークでの録音も含め6枚リリース。一部はイタリアでベスト8を記録し、韓国でもリリースされる。2000年から2年間ベルギーで活動。2008年、リーダー作5タイトル「リファインド」「リオスマイルズ」「アラクアン」「カーザ」「ルルー」が一挙再発売された。12年、ジャズフルート4人のアンサンブル「フォー・カラーズ」をリリース。2020年、ボストン在住時にフルート奏者のヒロ・ホンシュクと「Love To Brasil Project」をリリース。2020年夏に帰国、現在、日本で活動中。

ディスコグラフィー
https://lovetobrasil.com/yuka-kido-discography-ja

 

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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