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InterviewsNo. 304

#264 Yuko Tamura

サウンド・チェックでグルーヴするYuko Tamura
サウンド・チェックでグルーヴするYuko Tamura

野外ステージのサウンドチェックでグルーヴしまくる日本人女性キーボード奏者の動画を4、5年前にFacebookで見て、それ以来FB付き合いをさせて頂いているYuko Tamura (田村裕子) さんがこの7月15日にGladys Knight (グラディス・ナイト) のツアーでマサチューセッツ州のスプリングフィールドにあるシンフォニーホールに来られた。グラミーを7回受賞しているグラディスと言えば、Empress of Soul (ソウルの女帝) 、R&Bやモータウンでも有名なだけではなく、なんと「Rock and Roll Hall of Fame」(ロックの殿堂) にまで選ばれているので、ワクワクして出掛けた。コンサートはまさに鳥肌ものだった。79歳のグラディスのそのパワフルさは想像に絶した。

Yuko Tamura with Gladys Knight, Springfield, MA 2023-07-15
Yuko Tamura with Gladys Knight, Springfield, MA 2023-07-15

Yukoさんはグラディスのバックをもう18年もつとめている。彼女の演奏をひと言で表現するなら、「クラッシック音楽で鍛えたタッチとゴリゴリのグルーヴを掛け合わせた貴重な存在」といったところだと思う。本番前に会場近くの公園で色々話を聞かせて頂いた。

Yuko Tamura 公園インタビュー
Yuko Tamura 公園インタビュー

日本を出た経緯

Q:はじめまして

A:はじめまして〜 でもずっとFBでやりとりしてたから初めての気がしないですね (笑)

Q:実に!いつアメリカに来たんですか?

A:80年代の最初ですけど、それ以前にもアメリカにはしょっちゅう遊びに来ていたんです。地元神戸の友達がシカゴに住んでいたので。

Q:音楽を始めたのは?

A:四歳の時に母がピアノとバレエと絵画と選択肢をくれて、ピアノを選んだんです。神戸の私立山手女子学園音楽科の作曲科に入りたいと思って小学校6年から作曲の先生につきました。そこで作曲だけでなく聴音や初見をバッチリ仕込まれました。

Q:作曲家は誰に影響されましたか?

A:最初に作った曲はモーツァルトを模倣した作品でしたが、一番好きだったのはドビュッシーですね。

Q:渡米について聞かせて下さい。

A:子供の時から将来は外国に行きたいと思ってたんですけど、日本ではずっとクラッシック音楽だったのでドイツ、イタリア、フランスとかヨーロッパに行こうと思ってました。それが、いとこがくれたKeith Jarrett (キース・ジャレット) の『Solo Concerts: Bremen/Lausanne』(1973) を聴いてジャズも聴き始めたんです。ソウル・トレインの影響でR&Bとかブルースとかも聴き始めて、学校の練習室で遊んでいたら先生が「クラシック以外弾いてはいけません!」と怒鳴り込んで来たんですよ (笑) 慌ててバッハ弾いてその場を凌いだんですけど、なんかそれがきっかけでもっと興味を持ったようです。そう言えば、19歳の頃Stellaという神戸の女子だけのバンドをやってました。Chaka Khan (チャカ・カーン) とかフュージョンの曲やってたんですよ。8.8 ロックで優勝してヤマハがスポンサーに付いてくれて、その後東京でレコード契約のオファーがあったのですが、メンバーの親が上京を許さず崩壊。でもその時にすでにアメリカ行きを計画していたので、その計画が変更にならなくて良かったと思っています。

Q:キースの他に影響を受けたアーティストは?

A:Chick Corea (チック・コリア) とHerbie Hancock (ハービー・ハンコック)❣️ Joe Sample (ジョー・サンプル) とかもかなりコピーしました。なんでも好きですけど、やはりR&BとFunkが好きです。クラシックも好きですけど、4歳の時からやっていたので他の音楽が演奏したいです。

グラディス・ナイト

Gladys Knight & Yuko Tamura
Gladys Knight & Yuko Tamura

Q:グラディスとはいつからですか?

A:2006年からです。それ以来毎年70〜100回以上の彼女のコンサートに参加しています。

Q:参加の経緯を教えて下さい。

A:H.B. Barnum (バーナム) というアレンジャーの仕事をいくつかしていたんですが、彼がAretha Franklin (アレサ・フランクリン) のバンドに自分を引っ張り入れてくれたんです。で、アレサの仕事を他の仕事と掛け持ちで何年かやった後でバーナムがグラディスに推薦してくれたという経緯です。

Q:Stevie Wonder (スティーヴィー・ワンダー) もやってませんでした?

Billy Davis Jr, Yuko Tamura, Marilyn McCoo
Billy Davis Jr, Yuko Tamura, Marilyn McCoo

A:スティーヴィーはレギュラーじゃないです。グラディスが彼と共演する時に呼ばれていただけです。Elton John (エルトン・ジョン) とかもグラディス共演で参加しました。Googoosh (グーグーシュ) のツアーバンドは7年間務めたんですが、グラディスのツアーに参加した当時はアレサとグーグーシュと3組のツアーで結構スケジュールがキツかったです。3年目くらいにグラディスを優先する方向に決めたんです。グラディスのツアーのない時に、例えばMarilyn McCoo (マリリン・マクー:元The 5th Dimension) とかのツアーも入れています。

Q:1年のどれくらいツアーですか?

A:半分以上ですね。自分で計画しての観光旅行などは興味ないので、お膳立てしてもらって旅をするのは楽です (笑)

Q:ぼくが初めてグラディスを聴いたのは<That’s What Friends Are For> (1982) でした。

A:あ、スティーヴィーの。

Q:スティーヴィーやDionne Warwick (ディオンヌ・ワーウィック) やエルトンでしたね。Burt Bacharach (バート・バカラック) の曲です。

A:てっきりスティーヴィーの曲だと思ってました。バカラック大好きです。一番最初に聴いたアメリカの音楽、バカラックだったのかも知れないです。

Q:先日バカラックが亡くなった時楽曲解説したんですよ。

A:あ、ディオンヌだ。彼女グラディスと大親友なんでわたしも知ってます。

L.A.

Q:ぼくの知人たちはLAに移ってもミュージシャンのリストに載るまでが大変で、なかなか仕事にありつけないと言っていますが、Yukoさんの場合はオーディションとかに行くこともなく全て推薦ですか?

A:そうですね〜 子育てのためライブはやめて、トヨタのCMとか作ってた時期もあったんですが、ライブに戻りたいと思っていた頃WARというファンクバンドのドラマーのRon Hammon (ロン・ハモン) から電話が来て、新しいバンド始めるから、と誘われたんですよ。そのバンドで沢山の人と知り合って色々と新しい仕事に推薦してもらいました。ロックバンドもやりましたよ。Great White (グレート・ホワイト) の2002年の全米ツアーです。

Photo: firefighterclosecalls.com
Photo: firefighterclosecalls.com

Q:えっ!あのロードアイランド州のクラブで100人死者を出した! (注:パイロからステージに火が蔓延し、クラブの非常口に鍵がかかっていたため大惨事となった。火事の詳細YouTube →)

A:そうですそうです。あの直前に金銭関係で揉めて退団していたんです。退団してたのを知らなかった知り合いの間で大騒ぎになったらしいんです。仲の良かったギターのTy Longley (タイ・ロングラー) はあれで亡くなってしまいました。

Q:デキる人は運も引っ張って来るんだと思います。すごい!いつも思うのですが、演奏が上手だけでこれだけ推薦の輪が広がるとは思えないのです。Yukoさんには何かカリスマ性があると思うのです。

A:友達は多いですね。

Q:何か秘訣があると思いますか?

A:ハービー・ハンコックと昼食したことがあるんですけど、その時に「あなたのような素晴らしいアーティストになるためのアドバイスはあるか」と聞いたんです。そうしたら「死ぬまで練習を怠らないことと、always be humble(注:「謙虚でいろ」という辞書的翻訳では語弊があると思う。成功や自信にあぐらをかくな、というような訳が適しているだろうが、常に受け入れることを忘れるな、という意味も含まれていると思う)」

Q:Always be humble!素晴らしいアドバイスですね!ん〜耳が痛い(笑)

動物

Q:動物がたくさんいるようですけど、ツアーの間どうしてるんですか?

A:近所の人とか友達とかが見に来てくれています。写真送ってくれるからそれを見て安心してます。裏の家の子供二人が1日2回散歩に連れてってくれてます。今は犬2匹、猫1匹、うさぎ1匹だけですけど、これ、前に比べたらすごく少ないんですよ。

Q:プール付きの大きな家ですものね。

A:いやいや、前のハリウッドの家は今のに比べたらもっともっと大きくて、その時は犬4匹、猫3匹、ウサギが20匹、ハムスター10匹、ペット用のネズミ5匹いたんですよ。その他アメリカアマガエルや肉食のツノガエルなどのカエル達、パイソンやボア. コンストリクターなどの大きな蛇達、イグアナ、カメレオン達、カメ達、ウォーターモニター、ゲッコー、テグー、オーストラリアンベアディッドドラゴン達、クワガタ達、カブトムシ達、それの幼虫達、マダガスカル産のマル虫達、さそり達、タランチュラ、サラマンダー、アヒル、などなどみんな数えたら100は越しますね。水槽も16ありました。

Q: (絶句) 

A:2歳の時に近所の大きな犬に噛まれたらしいんですけど、トラウマはゼロだったようです (笑)

Q:ぼくは犬と鳥が苦手なんです。

A:ええっ!なんで?

Q:あの忠実そうな顔で寄って来られると、構ってあげなくちゃいけない、っていうプレッシャーがどうも苦手で。

A:え〜っ!あれがかわいいのに。

Q:鳥は嘴が怖くてダメです。

A:それわかります。前アヒル飼ってて、ちっちゃい時は良かったけど大きくなったら誰それ構わず突っつき攻撃で大変でした。

Q: (真っ青状態) 

A:ちなみに私の好きなのは哺乳類です。あとのはみんなうちの息子が好きで飼ってました。私は犬や猫達をアニマルシェルターから引き取って死ぬまでハッピーな暮らしをさせてやりたい、それが私の使命だと思っています。だから今までたくさんの子達をシェルターから引き取って最期を看取ってやりました。本当は牛や豚や全ての動物を救いたいです。

Q:ということはやはりベジタリアンですか?

A:実は、物心ついた頃からお肉が食べられないんです。なんか動物のエナジーみたいのを感じてしまって。魚は大丈夫なんですけどね。3歳の頃から「肉も食べなくちゃだめだ」と言われて泣きながら食べた苦痛の食卓の思い出しかないんです。こちらに来て肉を食べなくても健康を害さないと知ってどんなにホッとしたことか。

マスク

A:ヒロさんがFacebookにアップするミュージックビデオに登場するゴジラのマスクいいですね〜

Q:ゴジラはぼくのヒーローなんですよ。1954年のオリジナルのゴジラ知ってます?

A:いや、知らないです。

Q:ゴジラは反戦と反核の象徴なんです。まずゴジラは核実験で生まれたんです。で、ゴジラを最後に退治する芹沢博士っていのが泣けるんです。彼はゴジラをやっつける武器、オキシゲン・デストロイヤーという水中の生物を死滅させるものを開発していたのですが、武器に使用されるのを恐れてひた隠しにしていたんです。でもゴジラに対して使わなくてはならない。使えば世界にその存在が知れて武器として使用される。なので彼はデータを全部焼き払ってゴジラと心中するんです。泣けるでしょう。

A:へ〜、知らなかった。ゴジラ好きなんですね〜 わたしもマスク被るの好きなんです。Facebookでウサギのお面被ってる見たことあるでしょう。 (注:殺人鬼のような怖いお面で、Yukoさんはハロウィーンで電鋸を振り回したり、オカルト系のサウンドの動画を公開していたのでありました) じゃあマスク被ってネットセッションしましょう!

Q:やりましょやりましょ!

ヒロ ホンシュク

本宿宏明 Hiroaki Honshuku 東京生まれ、鎌倉育ち。米ボストン在住。日大芸術学部フルート科を卒業。在学中、作曲法も修学。1987年1月ジャズを学ぶためバークリー音大入学、同年9月ニューイングランド音楽学院大学院ジャズ作曲科入学、演奏はデイヴ・ホランドに師事。1991年両校をsumma cum laude等3つの最優秀賞を獲得し同時に卒業。ニューイングランド音楽学院では作曲家ジョージ・ラッセルのアシスタントを務め、後に彼の「リヴィング・タイム・オーケストラ」の正式メンバーに招聘される。NYCを拠点に活動するブラジリアン・ジャズ・バンド「ハシャ・フォーラ」リーダー。『ハシャ・ス・マイルス』や『ハッピー・ファイヤー』などのアルバムが好評。ボストンではブラジル音楽で著名なフルート奏者、城戸夕果と双頭で『Love To Brasil Project』を率い活動中。 [ホームページ:RachaFora.com | HiroHonshuku.com] [ ヒロ・ホンシュク Facebook] [ ヒロ・ホンシュク Twitter] [ ヒロ・ホンシュク Instagram] [ ハシャ・フォーラ Facebook] [Love To Brasil Project Facebook]

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