JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

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InterviewsNo. 243

来日直前緊急インタヴュー #172「kokotob」

♪ 各地で面白いゲストがレパートリーに参加したりインプロだったり...

JazzTokyo(JT):7月13日から日本ツアーが始まりますが、これはkokotobの2度目のツアーになりますか?

さいとう:はい。10年前、2008年にKOKO+1という名で北海道から大坂まで7ヵ所で演奏しました。3月半ばでしたので、札幌はまだ雪が随分と残っていましたが、東京では隅田川の桜が満開でした。ニコはプライベートで一度2000年頃に東京観光で来日していますが、トビアスは初めての日本だったし、私もベルリンの仲間を連れて演奏旅行を企画するのは初めてだったので、とても大変でしたが忘れられないツアーになりました。

JT:ツアーのメンバーについて簡単に紹介願います。

さいとう:kokotobはクラリネットのトビアス・シルマー、ピアノのニコ・マインホルドと、マリンバ&ヴィブラフォンの齊藤易子(さいとう・たいこ)からなるトリオです。3人とも同じ時期にベルリンの音楽大学のジャズ科にいました。ニコとトビアスは旧東のハンス・アイスラー音大で、齊藤は、師匠デヴィッド・フリードマンが仕切っていた旧西のベルリン芸大にいました。ベルリンにはこの2つしか音大がありません(ドイツには各主要都市にひとつの音大しかないのですが、ベルリンだけは東西時代のまま、2つ残っています。)。トビアスは音大で本格的にジャズの勉強をする前に、ケルンの大学で一年間、日本文学を勉強していました。ニコとトビアスはベルリンに引っ越して直ぐに仲良しになり、色々なプロジェクトを組むだけではなく、プライベートで一緒に旅行へ行ったり、瞑想したり。前回もオフの時間に京都へ行きましたが、大徳寺で勝手に瞑想していましたね。今回も京都へ寄る予定ですが、猛暑の中で瞑想はできるのかな、と。

JT: 各地で日本人のゲストとの共演が予定されていますが、これは基本的に地元のミュージシャンとの共演ですか?

さいとう:はい。道内での共演者、舘山健二(ds)さんと北垣響(b)さんは、10年前も小樽、札幌と石狩で共演しました。内橋和久さんとは3年前にベルリンで共演していて、プライベートでもとてもお世話になっているし、齊藤とトビアスはともかくカズさんのファンです。また、visualsのAkitoshi Mizutaniさんとは、ベルリンでライヴの写真撮影やCD録音した音楽に実験的に映像を付けてもらった事もあります。吉田野乃子(as)と、瀬尾高志(b)さんとは初めてです。

皆さん、とても素敵なアーチストです。前回日本ツアーをした時に、一公演、対バンでライヴを経験しました。ベルリンでは対バンという形式はありません。対バンも面白いですが、ミュージシャンと演奏を通して交流する機会が欲しいと思い、今回は、ゲストに面白い方々をお願いしました。

JT:例えば、2ステージをkokotob単独ステージとゲスト参加のステージ、というような分け方になりますか?

さいとう:各公演ごとに、違います。各ゲストの楽器も特技も様々なので、各公演ごとにどんな面白い事ができそうか思案中です。

JT:ゲストが参加するステージはkokotobのレパートリーをゲスト入りにアレンジし直したものの演奏ですか、それともインプロになりますか?

さいとう:どちらもあります。が、特別に編曲はしません。

JT: kokotobのレパートリーに完全なコレクティヴ・インプロヴィゼーションはありますか?

ニコ:はい、あります。異なった形式でのコレクティヴ・インプロです。例えば、<ビックリ>はフリー・ジャズ、<林床-Waldboden>は音色のテクスチャーのインプロですね。

トビアス:CDではニコが言った2曲だけでしかコレクティヴ・インプロをしていないけど、ライヴではもっと色々とやっているよね。

JT:齊藤さんはヴィブラフォンとマリンバを演奏されますが、ツアーの場合、楽器の調達はどうされますか?

さいとう:私のエンドーサーである、(株)コオロギ社より楽器を提供して頂ける事になっています。

JT:最終日の会場:公園通りクラシックのみ「マリンバ演奏あり」と予告されていますが、その他の各地ではヴィブラフォンだけの演奏になりますか?

さいとう:はい。演奏会場、ツアーにより、マリンバのみやヴィブラフォンのみで演奏しています。<etude in Eb>だけはヴィブラフォンでは演奏不可能ですが、ほとんどの作品はどちらの楽器でも演奏でききます。

♪ デビュー・アルバム『Flying Heart』の発売まで10年近くかかった...

JT:昨年、ポルトガルの CleanFeedからリリースされたアルバム『Flying Heart』はkokotobのデビュー・アルバムのようですが、結成から10年かかりましたか?

さいとう:kokotobで活動をし始める前の6年間、齊藤とニコはデュオKOKOで活動していました。内容はチック・コリアとゲイリー・バートン・デュオのような感じに、とてもリズミックな音楽でした。そこにフリー・シーンで活動していたトビアスがクラリネットで入ってきたわけですが、従来のリズミカルな作品ではクラリネットが上手く混ぜ合わせることができなく、フリーではなかったKOKOの音楽だけでは3人には合わない、といつも感じていました。

ニコ:始めは、元のデュオKOKOの曲にトビアスを加えて演奏していたので、内容はバラバラだったね。

さいとう:このトリオは民主主義的なので、3人がいいと感じないと物事が進まないので、一致した時のエネルギーは凄いですが、意見が食い違うと合わせもディスカッションだけで終わるときもありますね。大喧嘩も何度もしました。

トビアス:たくさんの時間を必要とする物事もあるでしょ。

JT:メンバー3人が曲を提供していますが、演奏のアイディアは作曲者が中心ですか、3者で練り上げていきますか? どのように構成されていきますか?

ニコ:どっちもだね。もちろん作品を持って来る人が、それなりの構想も考えてくるけど、合わせでみんなで試行錯誤していく部分もあるね。

さいとう:ニコは昔から私の作品を書いた通りには弾きません。私のピアノの技量が低いので上手く書けないというのがひとつの理由だと思いますが。だから、最近は、あまりピアノ部を書かないで持って行ったり、途中まで書いて、そこから想像を膨らませてもらう、という課題のような形で彼らに楽譜を渡しますね。

ニコ:そうだね。君の曲は合わせで作っていったね。kokotobの凄いところはそこだよね。誰かが曲を持ってきて、自分の考えを固持しようとするのではなく、意見を出し合い、それをみんなで試していくみたいな。

トビアス:僕の曲はスケッチなので、取り決めとかないから、それぞれに任せてるよ。

JT:録音現場のスタジオで構成(編曲)は変わりましたか?

ニコ:録音現場では準備してきた事を完璧に録音できるように努力したね。変わったのは、CDが完成した後だね。CDを僕らが構想した通りに出来たので、そこでみんなが音楽を理解したんだ。だから、その後のライヴはその音楽の幅を広げていくように新しい事がどんどん生まれてきて、その次はその新しい事をさらに発展させていくように変化していると言えるね。

JT:録音の音質や技法にも相当注意が払われているようですが。

ニコ:kokotobにとって一番大事なので音色だと思うんだ。だから、音質にはとくに気を使ったね。スタジオを選びからね。NalepaのFunkスタジオの音響は最高だよね。エンジニアのマルコも素晴らしいし。

注;Funkhaus Nalepa スタジオは、旧東ベルリンのラジオ放送曲の巨大な建物で、統一後には、多くの映画音楽の演奏をしているバベルスベルグ・オーケストラなどの、拠点となりました。スティングやA-haもそこで制作しています。さいとうも2年間程、小さな録音スタジオ部屋を借りていました。

さいとう:曲それぞれに音色のこだわりがあったので、マイクの位置を変えたり、楽器の配置も変えましたね。
こういう音を録って欲しいというイメージはそれぞれが持っていたので、できるだけそこへ近づけるように試行錯誤しました。素晴らしいエンジニアのマルコには感謝です。

JT:アートワーク他kokotobの活動にはヴィジュアル面にも配慮がなされているようですが。音楽とヴィジュアルの関係について。

トビアス:Clean Feedには専属デザイナーのTravassosがいて、彼のアートワークがClean Feedの骨格の一部でもあるからね。ECMのアートワークもレーベルの一部であるように。

さいとう:音とCDタイトル等を送ってから、カバーデザインが届いたときは、ビックリしましたね。

トビアス:Flying Heartっていうタイトルがキッチュな感じだったので、それを覆すようなデザインでポジティブに驚いたね。とても気に入ってるよ。

JT:楽曲のタイトルにも配慮が窺われますが、音楽と言葉の関係について。

トビアス:僕の曲<ビックリ>は「びっくりドンキー」からだよ。

さいとう:びっくりという言葉の響きもドイツ人には珍しいようですね。日本の大学時代の留学生の好きな言葉も「やっぱり」でしたし。

ニコ:僕の曲は、ワーキング・タイトルが多いね。<折り紙>は恋の思い出話だけど。

さいとう:私の曲はほとんど想い出からきていますね。<こもどのこども>は、こどものことをずっと「こもど」って言っていた娘の事ですし。もう残念ながら直ってしまいましたが。

♪ ベルリンは物価が安いから色々な国々から面白いミュージシャンがいっぱい来ている

JT:kokotob はどれくらいの頻度でリハや演奏を行なっていますか?

ニコ:ほとんどないね。足りない。もっと演奏したいよ。

さいとう:今までは、私の子供達が小さかったので、活動はあまり頻繁にはしていませんでした。一年中ツアーはできませんが、少しずつツアーを増やせるといいですね。

JT:各メンバーはkokotob以外の活動も行なっていますか?

ニコ:僕はインプロ・シーンで色々なプロジェクトに参加してるよ。リーダーバンドはないけど、常に曲は書いてるし、自分の中に一杯アイディアがあるんだ。

トビアス:僕もインプロ・シーンだね。

さいとう:私は最近は面白い演劇に入れてもらっています。私の役目はほとんどインプロです。昨年くらいまで、現代音楽シーンにも声をかけて頂いたり。今年は、昨年よりジャズ・シーンでの活動をまた活発にし始めたので、色々な仲間のプロジェクトに参加させてもらっています。

JT:齊藤さんが桐朋を卒業後、ドイツの音大に留学された理由は?

さいとう:その時代は、輸入CDがどこでも手に入る時代ではなかったので、時々海外のCDや楽譜を物色しに打楽器店へ通っていました。ある日、そのお店で流れていたCDが気になって、その人のCDを2枚買って帰りました。その中の1枚マリンバとヴィブラフォン・デュオ『Double Image』の彼のソロに涙し、その一ヶ月後には、彼に弟子入りさせて下さいと手紙を書いていました。その彼が、ベルリン芸大のデヴィッド・フリードマン教授です。昨年、彼とマレット・アンサンブルを結成して録音しました。来年、CDを発売予定です。

JT:ジャズやインプロに興味を持ち始めたきっかけは?

さいとう:現代曲にも即興部が出て来るのですが、誰も納得のいく答えを教えてくれなかったのと、現代曲にないコードに興味があったのと、クラシックではヴィブラフォンを基礎から教える人がいなかったこと、ですね。

JT:ヴィブラフォンで特殊奏法を始めたきっかけは?

さいとう:ベルリンに来てから、しばらくはクラシック作品の練習はしませんでした。楽譜も段ボールに詰めていたのですが、卒業間近で暇だった時に、ヴィブラフォンのコンクールがあるのを見て、ヴィブラフォンで現代音楽を演奏したいな、と思い、色々と探しました。特殊技法の始まりは、そこからですかね。

JT:ベルリンの壁崩壊後、ベルリンには各国から多くのミュージシャンが移住してきたようですが、ジャズ、インプロ、コンテンポラリー音楽シーンは活発ですか?

ニコ:ベルリンは物価の高いロンドンやNY、パリ、アムステルダムに比べると、まだ安いから、色々な国々から面白いミュージシャンがいっぱい来ているよね。ブロッツマンやシュリッペンバッハや、旧東ドイツのフリー・ジャズのシーンももちろん凄いけど、僕が気になっているのは、Echte Zeitというシーンだね。

さいとう:私がここにきたときは、高瀬アキさんくらいしか日本人ミュージシャンはいなかったけど、今は結構いますね。まだお会いしていない方々も。

JT:それぞれのメンバーの夢をお聞かせください。

ニコ:全ての苦しみから解き放たれること。

さいとう:子供達といつまでも仲良しでいること。家族みんなで。

トビアス:特にないね。

*ツアー情報

齊藤易子: vibraphone
ニコ・マインホルド: piano
トビアス・シルマー: clarinet, bass-clarinet

http://kokotob.de/

助成:ゲーテ・インスティテュート
協賛:(株)こおろぎ社

日程:
7月13日(金) 札幌COO ゲスト:吉田野乃子(as)

19:30 開場 20:00 開演
前売り¥3000 当日¥3500 +ドリンク代 500 円
札幌市中央区南 1 条西 20 丁目 1-25 アウルビル B1 (南大通沿い北向き) tel. 011-218-1656
www.sapporo-coo.com/

7月14日(土) 旭川じゃず蕎麦放哉 ゲスト:北垣響(b)  舘山健二(dr)

18:00 開場 19:30 開演 前売り¥3000 当日¥3500 ドリンク別
旭川市6条通7丁目右 1 号 ノムラビル 1F tel:0166-85-6911

7 月 15 日(日) 倶知安 マイエコロッジ Jazz in the garden festival

ゲスト:舘山健二(dr) 15:00 開場 18:00 – 18:30
http://my-ecolodge.com/

7月16日(月) 新宿 PITINN  ゲスト: 内橋和久(g, daxophon) 瀬尾高志(b)

19:30 開場 20:00 開演 前売り¥3000 当日¥3500 +税、ドリンク付
新宿区新宿2丁目12−4 アコードビル B1 tel:03-3354-2024
http://www.pit-inn.com/

7 月 17 日(火) 名古屋 Star Eyes

18:00 開場 19:30 開演 前売り¥3000 当日¥3500
名古屋市千種区菊坂町3−4−1 tel:052-763-2636
http://www.stareyes.co.jp/

7 月 18 日(水) 大阪 梅田 Always  ゲスト:Akitoshi Mizutani (visuals)

19:00 開場 19:30 開演
前売り¥3000 当日¥3500
大阪市北区野崎町6−8 トレック ノース 梅田ビル B1 tel:06-6809-6696
http://ww.always-live.info/

7月19日(木)神戸BigApple ゲスト:Akitoshi Mizutani (visuals)

18:30 開場 19:30 開演 前売り¥3000 当日¥3500
中央区山本通 3-14-14 トーアハイツ B-1 tel:078-251-7049
http://www.geocities.jp/kbigapple/

7月20日(金)稲毛Candy  ゲスト: 瀬尾高志(b)

19:30 開演 予約¥3700 当日¥4200(ドリンク付)
千葉市稲毛区稲毛東 3-10-1 tel:043-246-7726
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/

7 月 21 日(土) 渋谷 公園通りクラシックス この最終公演のみマリンバ演奏あり!
19:00 開場 19:30 開演 前売り¥3000 当日¥3500
渋谷区宇田川町 19-5 東京山手教会 B1 tel: 03−6310-8871
http://koendoriclassics.com/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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