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特集『ピーター・エヴァンス』InterviewsNo. 247

#177 【日米先鋭音楽家座談】ピーター・エヴァンスと東京ジャズミュージシャンズ

この9月に2週間に渡り日本のリスナーを狂喜乱舞させたピーター・エヴァンス。彼が東京でのギグを終えた翌朝、都内のカフェで、精鋭ジャズミュージシャン3人との座談を行った。

2018年9月23日(日)10時~12時

Peter Evans ピーター・エヴァンス(トランペット)(以下PE)
Masayo Koketsu 纐纈雅代(アルトサックス)
Atsushi Goto 後藤篤(トロンボーン)
Kogoro Tatsumi 辰巳小五郎(トランペット、テルミン)

モデレート、通訳、翻訳 Akira Saito 齊藤聡(以下JT (S))
質問 Takeshi Goda 剛田武(以下JT (G))
撮影 m. yoshihisa

 

JT (S) みなさん自己紹介をお願いします。

辰巳 トランペットを吹きます。ほとんどインプロですが、ポップスやロックも。すべての音楽が好きです。それとテルミンも。ポルタメント音楽が好きです。

纐纈 アルトサックスを吹きます。ピーターさんの音を聴いて驚いたのですが、法螺貝のような音色も出してますね。興味があります。

後藤 トロンボーンを吹きます。作曲も好きです。

辰巳 面白いのがあるんですけど。昔友達とピーターさんの話をしていて凄いミュージシャンだと聞いて、CDを買ったんだけど、これでした(笑)。違う人(笑)。びっくりしました。

ソロ演奏

JT (S) 完全ソロ演奏について。昨夜もやりましたね(※9/22、両国門天ホール)。ピーターさんは、ソロは自分自身を発展させるために重要だと言っていますが、どのようにやってきたのでしょうか。

PE 随分昔から練習してきました。ソロだったりデュオだったりです。とても短いものをやって、ひとつのコンサートで25曲とか30曲とか演奏しました。デュオでもたまにソロを挟んだりしました。とても挑戦的で、結果を活かしてまた発展させたりして。2000~01年ころです。NYに出てきたばかりは知り合いもおらず、ソロがいちばん良かった。

JT (S) 纐纈さんもソロをやったりしていますね。何か思いなど。

纐纈 忘れちゃったんですよね。最初は何か思いをもってはじめたんですけど、今はそれが日課というか。敢えていえば、その日持ってるエネルギーとか魂を全部出し切るようにしてます。

後藤 ソロもやってみたんですけど、即興でのソロパフォーマンスはよっぽど引き出しというかやることが多くないと、よっぽど構成力がないと、面白くない。だから、即興のソロパフォーマンスだけでワンステージをやる自信は、今のところないです。

PE 計画と失敗です。練習して、時間を埋める計画を立てて、予期せぬことが起きることも想定して、準備して、それを試すのですが、何か違うことが起きて、失敗して、それを次に活かす。それを続けます。

辰巳 たとえば失敗とはどのようなものでしょうか。即興だと失敗はあるのかないのかわからない。

PE うーん。何か素材を用意して練習するのですが、それは研究室のようなものです。実生活と同じですよ。練習したことを試すのですが、大体は想定と違うことが起きる。でもそれでOKです。それが望んだことです。結果を達成するということではなく、プロセスです。

辰巳 自分自身のことですね、やっぱり。

共演者の楽器

JT (S) ピーターさんはさまざまなスタイルで演奏していますね。サックスだったり、トロンボーンだったり、ピアノだったり。共演する楽器によって演奏の違いはあるでしょうか。

PE ときどきは。ピアノはある意味特別です。テナーも違うことがあるけれど、もっと違うのは、共演者がアコースティックの場合と電気の場合。石川高さん(笙)との場合はまた特別でした。ダイナミックレンジがトランペットのそれとまるで違っていて、静かで、どのようにサウンドを発展させればよいのかと。

辰巳 トランペットは音がちっちゃいと難しいから。

後藤 ピーターさんのダイナミックレンジのコントロールは衝撃的でした。

PE ありがとうございます。さまざまな状況で演奏した経験があるからでしょう。ときにはとても小さな音量の人とも共演しました。

辰巳 僕もソロのときは電気のエフェクトをたくさん使います。ピーターさんは電気なしで電気のようなサウンドを出している。

PE マイクやスピーカーはエレクトロニクスのようなもので、小さな音も大きくできる。せんがわでも、小さな音をとても大きくしたりしました。

辰巳 すごくマイクの使い方がうまいですよね。

PE ありがとうございます。録音のときにもそういった活用はします。

JT (S) 纐纈さんはトランペットの人と共演するときに難しさとか工夫はありますか。

纐纈 トランペットだからということは特にないです。トランぺッターも人によって違いますから。

JT (S) ピーターさんは拡張的奏法を用いるサックス奏者と多く共演していますが、何か変えたりはしますか。

PE スタイルを変えるということではありません。素材をもって適応するということです。たとえば坂田明さんともエヴァン・パーカー(Evan Parker)とも一緒に演奏して、サウンドはまったく違ったものになりますが、スタイルを変えるということではない。適応するのです。それは人格と同じようなもので、人と会うときに人格は変えないで適応するでしょう。

JT (S) 後藤さんはいかがでしょう。トランペットとトロンボーンだと。

後藤 いやどちらかというと、金管同士は感覚が合って。僕はトランペット大好きなので。

辰巳 俺は逆にトロンボーンが好き(笑)。

PE 面白いですね(笑)。みなさんは共演したりもしているのですか。

3人 はい、よく。

辰巳 ピーターさんは音域が虹のように広いから関係ないと思いますけど、自分は音域が狭いので(笑)、アルトサックスと音色が似ていることがあります。それでときどきは難しくて、特にハイトーンやフラジオのときなんかにきついことがあります。デュオをやったときそんなふうでした。フリーキーだったりすると。

PE 自分もアルトサックスと共演するときはとても音量が大きくなったりして、確かに、難しいことがあります。

纐纈 確かにアルトサックスはうるさいことがありますね。

辰巳 アルトに限らず、サックスは横から音が漏れるでしょう。トランペットは前からだけ出るから自分では聴こえにくかったりして。

PE うんうん。

纐纈 うんうんなるほど~。

PE 多くの素晴らしいアルト奏者と共演しました。ニューヨークのダリウス・ジョーンズ(Darius Jones)(※注1)は音は大きいのですが本当に音色が美しい。

纐纈 聴きたいなあ。

エレクトロニクス

JT (S) エレクトロニクスとの共演では、アコースティックとの違いはありますか。

PE 私にとってはもう違いはないですが、以前はありましたよ。私はアコースティック楽器のようにエレクトロニクスを扱う人と共演する傾向がありますね。エレクトロニクス奏者のほうでも変わってきています。サム・プルータ(Sam Pluta)(注2)、レヴィ・ロレンツォ(Levy Lorenzo)(注3)、ジョエル・ライアン(Joel Ryan)(注4)なんかは、エレクトロニクスを人間的な楽器のように扱います。そうすると制約があるのですが、一方の私のほうにも制約がある。だから一緒にプレイする。

JT (S) 日本のジャズシーンでエレクトロニクスとの共演はそれほど主流ではないですよね。

辰巳 主流ではないですね。なんででしょうね。僕が高校生のころ、70年代後半は、みんなエレクトロニクスを使っていくような流れもあったんですよ。それは日本だけでなく世界のジャズシーンでも。それが今ではそうでもなくなっている。

PE 中村としまるや大友良英といった人たちを90年代や20代のころまでに知って、おおっと思っていました。山下洋輔トリオや坂田明といった上の世代について知ったのはその後です。それに灰野敬二、巻上公一。自分にとっては真に自然な音です。巻上さんの演奏を観るのは本当に楽しい。なぜかといえば、ヴォイスやエレクトロニクスやテルミンを使って、別々ではなくひとつの統合された流れにするからです。

JT (S) 辰巳さんはともかくとして、皆さんアコースティックにこだわりますよね。

纐纈 そうですね、私はわりと。やっぱり普通のジャズから入っているので生音ありきというか、生音にはこだわっています。エレクトロニクスにも興味はあるんですけど、そこまで時間をかける余裕がないだけで。

辰巳 オカネもかかりますしね~。

纐纈 そうそう。重いし。興味はあるんですよ。

PE サム・プルータはエンジニアリングと音楽の両方を学んだというバックグラウンドを持っています。だから彼は普通にやっている。これから20年後には、もっと安くなって、ウェンウェンウェン!なんてサウンドをみんな普通に使っているかもしれませんよ。

辰巳 それを70年代にも思ったんですけどね。ならなかったんだ、おかしいなあ(笑)。

JT (S) 後藤さんはエレクトロニクスはどうですか。

後藤 辰巳さんの影響ではじめたんですけど、やっぱりトロンボーンは片手では演奏できない。演奏中にコントロールすることがすごく難しい。一緒にやるのはまったく抵抗がないので、一年に数度、エレクトロニクスやエフェクトを入れるギタリストなど自分の仲間と一緒にやったりはします。

PE それは確かに難しい。ところで、NYの若いトロンボーン奏者ケイルン・レオン(Kalun Leung)(注5)は、小さいコントローラーをスライドの横に取り付けて演奏しています。それでサウンドに少し手を加える。まだ22歳かそこらの本当に出てきたばかりの若いプレイヤーです。

一同 ほお~。

JT (S) 彼はそれを自作したのですか。

PE レヴィ・ロレンツォが、エンジニアリングもできるから、作るのを手伝ったのですよ。レヴィは私のコラボレーターのひとりですし、来年にでも一緒に日本に来たいところです。彼はパーカッションも演奏します。

辰巳 色々やるな~。

ノイズ

JT (S) ノイズ・ミュージシャンとの共演についてはいかがでしょうか。たとえばウィーゼル・ウォルター(Weasel Walter)。

PE 彼はノイズ・ミュージシャンではなく、ノイズも作るミュージシャンです。彼は幅広くてノイザーとは言えない。確かに私もノイズとの共演をしますが、ノイズ自体は私の領域ではない。トランペットを必要とするから共演するのです。

辰巳 自分はノイズ音楽は好きなんですよ、だって自然もノイズでしょう。だけど少しうまくいかないことが多い。やっぱり自然のノイズとは違ってそこには意思が働いているわけでしょう。

PE 「自分はノイズ・ミュージシャンだ」と言っている人たちには懐疑的です。なにも自分をカテゴライズすることはない。私は幅広いサウンドを持つ人が好きです。たまには「ギュワワワ」なんて音も使いはするでしょうけれど。例えばメルツバウは、ノイズ音楽も作りますが、サウンドの幅がとても大きくて明確です。ときに大音量でときに繊細。とても多くの楽器を使っていますね。私は幅が好きなのです。

纐纈 そうですね。ミュージシャンが何を見ているのかということですね。

異なるバックグラウンド

PE 巻上さんがこの2週間のツアーを組んでくれたとき、自分にとっては異なるタイプのミュージシャンと共演することが重要だと伝えました。フリー・インプロヴィゼーションだけでもない、ジャズだけでもない。それで石川高さんたちとも共演できました。異なる分野で経験を積んでいる人との共演が、自分の創造性を高めるためにも本当に重要です。それが私なのです。

纐纈 ピーターさんの音源の中に密教のような音があって、なぜ日本人でもないのにそんなことができるんだろうと不思議に思いました。日本の仏教や密教が好きなのかなって。

PE ごく最近、鈴木大拙(D.T. Suzuki)(注6)の本を読みました。彼は禅についての著作をたくさん英語で書いています。彼の考えによれば、自分自身を通過することによって2、3の明確な創造的な要素が出てくる。でも、今回日本に来たのは偶然です。それから心理学も好きです。例えばエーリッヒ・フロム(Erich Fromm)(注7)。彼はとても開かれている人で、禅にも造詣が深かった。まったく異なるコンセプトですけれど。

後藤 ピーターさん、ワビサビっぽいところがありますよね。

纐纈 うんうん。

JT (G) 仏教以外で、日本の伝統にも興味はありましたか。

PE NYでは尺八、雅楽、箏なんかのコンサートがあって好きでしたよ。

JT (S) 尺八奏者と共演したことはありますか。

PE トライしたことはありますがNYではなかなか機会がない。ただ、ネッド・ローゼンバーグ(Ned Rothenberg)やウィリアム・パーカー(William Parker)は尺八も吹きます。次回は日本でも尺八奏者と共演したいですね。

辰巳 他の楽器はやりますか。

PE ピアノを弾きますよ、あまり良くはないですが(笑)。伝統楽器ということで言えば、韓国のテグンという笛と共演したことがあります。フルートとも違いますが、とても良い楽器です。

JT (S) 石川高、今西紅雪との共演はどうでしたか。

PE 今までで最も良かった経験のひとつです。昔から続けてきたバンドのようでした。1回目のせんがわから2回目の高崎ではさらに良くなって、明日の夜が3回目です。音楽がとても強烈なものでした。全部録音してあるから、どれかが作品として出てくれるといいなと思います。

JT (G) 小さい音で共演するとき、技術的にはトランペットの演奏は異なるものですか。

PE はい。でも挑戦することは好きです。高崎では本当にサウンドシステムが良くて、石川さんは長いドローン、自分は「クワクキャキャ」みたいな音を出しましたが、まったくコンフリクトがなかった。今西さんは静かに即興をやりました。明日もまったく違うでしょう。

辰巳 笙は面白いですよね。

JT (S) 後藤さん、せんがわでの最初のコンサートはいかがでしたか。石川高・今西紅雪との共演、千野秀一・坂本弘道との共演があったわけですが。

後藤 最初のほうは衝撃的でしたね。伝統楽器と一緒にやって、音が小さいのにとても美しいものでした。後半はわりと大音量で。

戦う演奏

辰巳 火吹いてませんでした?

PE ああ、坂本さん(笑)。驚きました。

後藤 千野さんの横のスピーカーが結構うるさかった。

JT (S) それでステージ上で戦っているようにみえました。

PE はい、お互いに戦いました(笑)。こういう音楽ではよくあることですよ。それに比べて、今西さん、石川さんの音楽は穏やかでした。

辰巳 そんな風に戦うシチュエーションは好きなのでしょうか(笑)。

PE はい(笑)。

JT (S) バンド「Pulverize the Sound」も戦うスタイルのように見えましたがどうでしょうか。

PE いえ、私たちはそんな風には感じていませんよ。

辰巳 負けたことないでしょう。

PE うーん。でも、楽器はそれぞれ違うものですから、オーバーラップはしないです。

観客、媒体

JT (S) NYと日本とでミュージシャンや観客の個性は違いますか。

PE ミュージシャンは世界のどこでも同じですね。観客は違うことがあります。一番の違いは、演奏のあとにディスクを買ってくれるかどうか。日本では買ってくれますが、NYでは誰も買いません(笑)。理由は不明です。ただCDはもはやアメリカでは中心的なメディアではない。それよりはダウンロードとか、LPとか。

JT (S) どの媒体が好きですか。

PE 私は自分のレーベルを持っています(More is More)。人びとが実物を好まないことはわかってはいますが、一方では作品作りにすごくお金をかけているし、録音も良いものにしたい。最新のソロアルバム(『The Veil』)はスーベニアのような形でポストカードにしました。そうであればダウンロードであっても形に残すことができます。

JT (S) そのソロアルバムでは、巻上さんに捧げた「Etude for Makigami」とか、ジョー・ヘンダーソン(Joe Henderson)の「Inner Urge」をやっていますね。ヘンダーソンが好きなのですか。

PE 好きなミュージシャンのひとりですよ。

演奏の場

JT (S) 演奏会場の好みはありますか。

PE 正直言って、大きなコンサートホールはあまり好きではないです(笑)。音楽がソーシャルなものだから、人びとが近い空間にいるほうがベストな音楽、ギグになることがよくあります。大きなコンサートホールはお金も大きいですが、親密さは小さいヴェニューのほうが良いです。今回のツアーでは、下北沢アポロで須川崇志、アメイジングなドラマーの石若駿、ケヴィン・マキュー(Kevin McHugh)と、スタンダードをやりました。みんなこんな感じで(※肩を狭める)座っていて、とても楽しかった。本当に好きです。通路にも人がいました。

纐纈 ああ良いですね、聴きたかったですね。

辰巳 音楽がソーシャルなものっていうのは良いですね。

後藤 ちっちゃいところも好きですけど、狭すぎるとしんどいです(笑)。(※トロンボーンが当たりそうになる)

辰巳 俺とかは大きいところとちっちゃなところとで響き方が違うので、吹き方が変わっちゃうというか。そういうのはどうでしょうか。

PE 小さいクラブでは音で空間を埋めることができますが、大きなホールではできません。小さいクラブでは観客をまるで追い出すようにプレイできて、アポロや公園通りクラシックスではそうしました。一方、高崎やせんがわでは狭めにプレイしましたが、それはサウンドシステムがあるからです。

辰巳 演奏のマインドが変わると音楽も変わりますか。

PE はい。場所が違うと音楽も変わります。

辰巳 よかった(笑)。

JT (S) 東京には多くの良い小さなヴェニューがあるのですが、ときに観客がひとりとか3人とかとても少ないことがあります。NYではどうですか。

PE 同じです、同じです。

次に日本で共演したいミュージシャン

JT (S) 次に日本で共演したいミュージシャンについて。

辰巳 演歌とか、ポップアイドルとか(笑)。

PE 今回の石川さん、今西さんのような伝統的な音楽の人。それからエレクトロニクスの人、大友良英さんとか中村としまるさんとか。あるいはすごく若いオルタナティヴな人とか。異なるタイプの音楽の人にも異なる世代の人にも、興味があります。

JT (S) 次回はぜひ皆さんと共演したらすごくいいですね。

PE 灰野敬二さんとも再演したいです。10年ほど前に、ペーター・ブロッツマン(Peter Brötzmann)とともに、ベルリン・ジャズ祭を含め2つのコンサートで共演しました。それからマーズ・ウィリアムス(Mars Williams)もいました。色々な組み合わせをやったのですが、灰野さんとはデュオでもやって、ヴォイスとトランペットでの共演でした。本当に良かった。Okka Diskから『Crumbling Brain』としてLPで出ていますよ。

纐纈 面白そう。

PE 次に日本に来るときにはNYから仲間を連れて来たいです。たとえばレヴィ・ロレンツォと一緒に来て、また違う側面を見せたい。とてもユニークだと思います。

JT (G) ミュージシャン以外、ダンサーやアーティストとの共演はいかがでしょうか。

PE 良いですね。せんがわ(LAND FES)では松岡大(舞踏)とデュオでやって本当に良かった。いつもは、相手を決めてコラボレートしているわけではないです。それから、公園通りクラシックスでの中山晃子さんのライヴペインティングも楽しみました。本当にクールでした。

連続と不連続

辰巳 僕がエレクトロニクスを使う理由なんですが、ワーミーペダルはポルタメントでトーンが動くんですよ(※連続的に)。テルミンもポルタメントの楽器なんですよ。トランペットはそうではなくて段階的な音。ひょっとしたらピーターさんはそれをトランペットでやろうとしているのかもしれませんけど。

PE はい、トライしています。それで手を使います(※ベルの前で)。ピアノやトランペットは音の変化がデジタルなので、ヴォイスのようにするために、手で調整する。

辰巳 トランペットがポルタメントでないのはカルチャーなのかもしれないのだけど、ネイチャーではない。だからトロンボーンも好きなんですけど。どうでしょう。

PE よくわかります。そのために手をスライドさせたりして、手がもっとも微妙な方法です。それとデジタル的なものとを組み合わせます。弦楽器やヴォーカルと共演するときには特に。それからヴォイスも使います。

辰巳 ピーターさんはホーミーみたいなサウンドをやるでしょう。どうやっているのでしょう。

PE トランペットの音にヴォイスを追従させたり、ヴォイスの音にトランペットを追従させたり。

辰巳 倍音の切り替わるところがあって、そこを狙うと出たりするんですよね。それなのか声なのか、両方でやっているということでしょうね。

PE とにかく練習です(笑)。

マウスピース外し

JT (G) ピーターさんはマウスピースを取って直接吹いていますが、あれは良くあることなのでしょうか。

辰巳 俺はしょっちゅうやっています(笑)。昔は下手でうまくできなかったのですが、楽しかった。最近はうまくできるようになっているのですが、楽しくない。

JT (S) マウスピースを取って吹いて痛くはないのですか。

PE 痛いから直接は口に当てません。

辰巳 それは無理ですね。

PE・辰巳 トランペットの技術的な話ばかりしている(笑)。

後藤 トロンボーンでは、レバーが邪魔になって外すと吹けない。今回のコンサートを観て試してみたのですが、やはり構造的に難しいです。

纐纈 サックスでもマウスピースを外して吹く人もいますけど、私はやりません。そういうのがあまり好きじゃないんですよ。

PE ときどき試してみては(笑)。

辰巳 トランペットは良いんですよ、アルトフルートとか尺八みたいな音がして。

小さい音

後藤 せんがわのときに思ったのですが、小さい音を演奏していて、客観的にそれをどう判断できるのでしょう。ベルが前にあって、自分の音を聴きづらいと思うのですが。マイクを使うのでしょうか、それとも小さい音を捉えているのでしょうか。

PE スピーカーを介してではありません。小さい音でも聴こえますし、身体の感覚によって感じることもできます。その感覚をサウンドにつなげるのです。昨夜(※両国門天ホール)のソロでも最初はとてもとても小さい音で始めました。探索しながら0と1との間を感じつつ、聴こえるものを信じて演奏します。

ピッコロ・トランペット

後藤 ピッコロ・トランペットはジャズでは観たことがなかったのですが。

PE ジャズでは珍しいです(笑)。でも過去に使う人はいました。バッハ(Bach)などのバロック音楽だとか、ストラヴィンスキー(Stravinsky)もときどき使いましたね。美しい楽器だと思います。マルクス・シュトックハウゼン(Markus Stockhausen、カールハインツ・シュトックハウゼンの息子)は素晴らしいピッコロ・トランペットを吹きました。ヒュー・レジン(Hugh Ragin)はアンソニー・ブラクストン(Anthony Braxton)と共演した人ですが、彼も吹いています。それからジョン・ファディス(John Faddis)が70年代に使っていました。でも多くはないですね。

JT (G) バルブがひとつ多くて4本あるピッコロ・トランペットをお使いなんですね。顔に近いほうのバルブを押さえたときどんな効果があるのでしょうか。

PE 調整するためです。

辰巳 やるやる。

今後の予定

JT (G) 次のプロジェクトは。

PE NYの若いミュージシャンとカルテットを組みます。ジョエル・ロス(Joel Ross)(注8)というヴァイブ奏者は22、3歳と若いですがヴァーチュオーゾのようです。それから彼と同い年くらいのドラマーとベーシスト。バンド名は「Being & Becoming」です。10月にギグを3回やって、その前に録音もします。エネルギーに満ちています。来年にでも出せれば良いと思っています。

それから、11月にリスボンに引っ越します。妻が住みたいと言っているのです。15年過ごしたNYを去ります。妻はシアトル出身だし、私もリスボンに縁があるわけではないのですが、行ったことはあります。NYに住んで、あちこちに旅をしましたが、滞在するのは1週間くらいのものでした。NYは物価も高いし……、ミュージシャンにとっては素晴らしい街ですし、人びとも素晴らしいのですが。街には色々と問題がある。決めたことです。大きな変化です。

JT (S) でもNYには旅で戻ってくるのでしょう。

PE 戻らなければならないでしょう。音楽を拡張するためには常にNYに行くことが必要だし、時期を定めて、1年に数回は戻るでしょう。それで十分だと思います。ポルトガルは美しい場所で、物価も安くて、リラックスしていて、練習したり学んだりする時間も取ることができます。

JT (S) リスボンには良いミュージシャンはいますか。

PE はい。何人かはこの数年間共演もしています。

JT (G) Clean Feedレーベルもありますね。

PE はい、ペドロ・コスタ(Pedro Costa)がいます。

辰巳 ポルトガルは魚がうまいですね。好きなところです。

PE 魚も蛸もうまいですよ。

纐纈 NYに遊びに行ったときにはぜひ聴きに行きたいですね。

PE はい、いますよ。ギグがあったら戻ります。

全員 ありがとうございました。

録音終了後

辰巳 ところでお酒は好きですか。

PE 好きですよ(笑)。

辰巳 安心した~。

(注1)ダリウス・ジョーンズ アルトサックス奏者、作曲家。http://www.dariusjonesmusic.com/
(注2)サム・プルータ 作曲家、インプロヴァイザー、サウンドアーティスト。http://www.sampluta.com/
(注3)レヴィ・ロレンツォ エレクトロニクス、パーカッション奏者。https://www.levylorenzo.com/
(注4)ジョエル・ライアン 作曲家、エレクトロニクス奏者。https://www.facebook.com/jrainx
(注5)ケイルン・レオン トロンボーン冒険家。https://kalunleung.ca/
(注6)鈴木大拙 仏教哲学者。禅についての多くの著作を英語で著した。
(注7)エーリッヒ・フロム ドイツの社会心理学、精神分析・哲学研究者。エヴァンスの最新ソロ作品『The Vail』にも「For Eric From」という曲が収録されている。
(注8)ジョエル・ロス ヴァイブ奏者、作曲家、ピアニスト。http://www.iplayvibes.com/

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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