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InterviewsNo. 251

#182 Elio Villafranca エリオ・ヴィジャフランカ

Elio Villafranca エリオ・ヴィジャフランカ
ピアニスト・パーカッショニスト・コンポーザー。 テンプル大学客員教授。
葉巻の拠点、西キューバのピナール・デル・リオの生まれ。ハバナのInstituto Superior de Arteでクラシックの打楽器と作曲を学ぶ。1995年NYに移住、ジャズとラテン・ジャズのキャリアを追求。
2018年ダウンビート「国際批評家投票・キーボード部門最優秀ライジング・スター」。2010年、2019年グラミー賞「最優秀ラテン・ジャズ・アルバム」ノミネート。他に、2008年BMI Jazz Guaranty Award等。

Interviewed by Kenny Inaoka 稲岡邦彌@アディロンダック・カフェ神保町 2018.12.29
協力:アディロンダック・カフェ
Photos at Adirondack Cafe : Kenny Inaoka

Jazz Tokyo: 新作『Cinque(シンケ)』(ArtistShare) のグラミー・ノミネートおめでとうございます。
Elio Villafranca :ありがとう。
JT :今回は2度目のノミネーションですね。最初のアルバムは?
Elio : 2010年のChembo Corniel(ウィルソン・チェンボ・コルニエル)のアルバム『Things I Wanted To Do』(Chemboro Records) で、僕は、ピアノと作曲で参加、アルバム自体はチェンボとの共作だった。
JT : 今回と同じ Best Latin Jazz Album Award ですね。
Elio : その通り。
JT:グラミーの受賞を念願しております。(注:グラミー2019の「Best Latin Jazz Awardは、ダフニス・プリエト(プリート)の『バック・トゥ・ザ・サンセット』Dafnison Music が受賞した)
Elio:ありがとう。

JT:それでは新作の話題に移りますが、アルバム・タイトルの『Cinque(シンケ)』について説明願います。
Elio:僕の生国のキューバの歴史を調べているときに、ジョセフ・シンケ(Joseph Cinque) という数奇な運命を辿った先人に行き当たったんだ。そして、この人物の生涯を音楽で描いてみようと思い立った。ジョセフ・シンケの “cinque” (チンクェ:エリオは “シンケ” と発音していた)というのはイタリア語で「5」を表しており、カリブ海の5つの島(国)、キューバ、プエルト・リコ、ハイチ、ドミニカ、ジャマイカ、に思いを巡らしてみた。この5カ国は、5つの文化圏と言ってもいいほど多様性をもっているのだけれど、アフリカから連れて来られた奴隷が偏在しているという点では通底しているんだ。アフリカの奴隷がもたらした音楽がネイティヴと混交し、それぞれ独自なものになったが、消えつつあるものもある。それを遺したいという意図もあった。
JT:その音楽がフィールド・レコーディングとして収録されているのですね。
Elio:その通りだ。
JT:ジョセフ・シンケの生涯について簡単に説明願います。
Elio:シンケ (c. 1814 – c. 1879) は西アフリカ(現在のシエラ・レオネ)の出身で、スペインの奴隷貿易を通じてキューバに売られてしまう。1839年、奴隷商人が彼らをLa Amistad(ラ・アミスタ、スペイン語で友情)という奴隷船でキューバのサトウキビ農園に連行しようと沿岸を航行中、シンケが中心となって反乱を起こし、船長らを殺害して船を乗っ取ったんだ。アメリカの領海を侵した船は拿捕され船長殺害の罪で裁判にかけられるのだが、奴隷売買の違法性と正当防衛が認められてシンケらは釈放され、自由の身となる。

JT:フィールド・レコーディングにはかなり呪術的な雰囲気が感じられるのですが。
Elio:僕の生まれ故郷に遺るKongoという土俗宗教で使われる音楽や、ハイチのヴードゥーなども採取したからね。僕はKongoの音楽を聴きながら育ったと言えるかもしれない。
JT:さらにナレーションも加わっています。
Elio:メッセージ性のある作品だからファクトなどはナレーションで伝えるようにしたんだ。
JT:そしてすべてを5楽章の組曲にまとめ上げた。
Elio:そう。ここでも、シンケ(5)にこだわった(笑)。
JT:各楽章について簡単に説明願います。
Elio:第1楽章はシンケの誕生から違法に捕らわれ、奴隷となって売られたが、搬送中に反乱に成功したもののアメリカの警備艇に拿捕され、法廷で無罪を勝ちとり放免されるまでの波乱の生涯について。第2楽章は僕の故郷での土俗的な宗教儀式などの音楽環境からインスピレーションを得たもの。第3楽章はドミニカとジャマイカでの奴隷の解放運動。ハイチでの録音も収録。第4楽章はハイチでのブゥードゥ-とハイチ革命を題材としたもの。第5楽章はフィナーレでキューバのカーニバルの伝統を現代まで追ったもの。
JT:アフリカにも出かけましたか?
Elio:いや、あえて避けました。アフリカの音楽はカリブの音楽とは別で、奴隷がアフリカから持ち込んだ宗教と音楽、それらとネイティヴが混淆して独自に生まれた音楽が僕の興味の焦点でしたから。
JT:カリブ海を中心とした奴隷の歴史や奴隷がもたらしたアフリカの音楽や宗教とネイティヴのそれらとの混淆、内容はじつに深く90分以上に及ぶ大作ですが、制作にはどれくらいの時間がかかりましたか?
Elio:古いアーカイヴを入れたら相当な期間になるけど、集中したのは5年くらいかな。
JT:制作費はArtistShareを通じてファンド・レイジングしたのですか?
Elio:数万ドルの調達と自己資金を合わせました。
JT:この内容でのコンサートはどうでしょう?
Elio:コアのバンド、The Jass Syncopatorsがいれば、あとは現地のミュージシャンを加えて海外でも公演可能です。実際、オーストラリアでも公演済みです。

JT:他にワーキング・バンドはありますか?
Elio:Afro Caribbean Trio(アフロ・カリビアン・トリオ)というのがあります。日本に発つ前にカーネギーホールでデビューしました。ジャマイカ出身のベーシスト、ラッセル・ホール、セント・トーマス出身のディオン・パーソン、それにキューバ出身の僕。
JT:このトリオも文字通りアフリカとカリブの混淆に焦点がありそうですが。
Elio:そうだね。テーマは、“アフリカン・ディアスポラ”。アフリカ奴隷の音楽の痕跡をカリブ海に限らずアメリカ大陸にまで追ってみたい。曲はこのトリオのために新たに書き下ろします。アフロ。コロンビアン/ヴェネゼリアンのリズムにインスパイアされた楽曲だけでなく、僕が尊敬する先人たちに捧げた楽曲もね。キューバのピアニスト、エミリアーノ・サルヴァドール、デイヴ・ブルーベック、ボビー・ハッチャーソンなど。
JT:来日を楽しみにしています。
Elio:ぜひ行きたいね。

♩ CDレヴュー https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-31620/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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