Interview #208(緊急)齊藤易子+大島祐子
メルス・フェスティバル 2020に出演して

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齊藤易子 Taiko Saito
札幌出身。ヴィブラフォン、マリンバ奏者。ベルリン在住。

大島祐子 Yuko Oshima
名古屋出身。ドラマー。フランス・ストラスブール在住。
(共に、詳細プロフィールは末尾に)

Interviewed by Kenny Inaoka via emails, May 3,4,&5,2020
Photos : Courtesy of TVarte

1st set with Taiko Saito

JT:齊藤さんとは渋谷の公園通りクラシックスで藤井郷子さんとのデュオで素晴らしい演奏を聴かせていただいて以来ですが、ベルリンの現状はいかがでしょうか。

齊藤:ベルリンは今月より緩和が徐々に始まっていますが、まだ、ジャズクラブの再開は決まっていません。例えば、ロックダウン当初のドイツは小さな部屋に1,5m以上の間隔をあければよし、と言うことで、ベルリンのギタリスト、ロニー・グラウぺ君は into the shed と名付けて最初は毎日閉鎖されたジャズクラブでカルテットで自分のiphoneを使ってオンライン配信していました。それが一週間ほどで規制が強化され、家族以外で会う場合は、+1人まで、ということになり、デュオかソロで演奏することになり、私も一度、ソロで演奏しました。
その後、5月始めに規制緩和を発表し始めましたが、映画館、演奏会場、イベントは引き続き禁止で、イベントの解禁を発表したのは5月20日以降です。もちろん、最初に解禁されたのはサッカーのブンデスリーガです。内容は6月2日以降から、スタッフ、演奏者なども含めて150人までのイベントを許可と言うことでした。

JT:メルスのフェスティバルに出演されたのですね。

齊藤:はい、三日間、セッション、ジルケ・エバーハルトのPotsa Lotsa XL、コンポーザー・キッズにて演奏してきました。ギリギリまで開催されるのかどうか分からず、オンラインのリンクも当日に頂くというような状況でした。

JT:かなり差し迫った状況での開催だったのですね。

齊藤:ロックダウン中にテレビ局ARTEがオンライン・ストリームを決めましたが、ミュージシャンのキャンセルが相次ぎ、当日も他国からのミュージシャンが来られないかもしれない事を覚悟で開催されました。案の定、同僚でベルリンを中心に活動している、メキシコ人のエミリオ・ゴルドアが前日にキャンセルし、私は急遽彼の代わりに二日目のセッションに参加し、ノルウェー出身のダッグ・マグヌスソンとデュオで共演予定だったのですが、トロンボーンのコニー・バウアーが急遽駆けつけて彼とデュオ演奏していました。

JT:コニー・バウアーとデュオですか...。キャンセルするにはいろいろ事情があるのでしょうが、やはり感染を恐れているというのもあるのでしょうか?

齊藤:ひとつは、主催側も開催できるかどうかはっきりとしない状況の中で準備をしていたからだと思います。私たちPotsa Lotsaはコロナ禍以前に出演が決まっていたのですが、その後、契約書が変更されました。開催されない場合は契約書は無効になる、つまりは報酬なし、補償なしということです。

ドイツは法律でロックダウンし、イベントを禁止したので、許可が出ないと開催できなかったため、開催されたのは本当に幸運も付いていたからだと思います。

開催直前に数カ国の欧州間の国境が再開されました。ですから、フランスやオーストリアからの演奏者も駆けつけることができたのです。ストラスブール在住のドラマー大島祐子さんもギリギリまで来られるかどうか分からなかったひとりだと思います。

potsa lotsaのメンバーのイタリア人はその理由で参加しませんでした。やはり、イタリアの状況はドイツとは比べられないのはご存知と思いますが、彼のご親戚にも何かしらの事があったようです。そのような事情のミュージシャンも他にもいたのかもしれません。

JT:本当に瀬戸際での開催だったのですね。

齊藤:アメリカの予定していたあるミュージシャンは、確定できない演奏会でしたし、飛行機が飛ぶのかどうか、キャンセルされるのか分からない状況でした。また、到着後も場合によっては14日間の隔離期間を要請される場合もある中でのキャンセルだったと思います。ジョン・ゾーンはもともと反ライヴ・ストリーミング派なので、という話も聞いています。

JT:キャンセルの理由もいろいろですね。僕はところどころつまみ聴きしていましたが、無観客のはずが演奏の途中や終了後にかなり大きな拍手が入っていましたが、あれはSEでしょうか?実際には観客は居たのですか?

齊藤:過去のフェスティバルの録音を使って拍手が入る、ということは前々から聞いていました。拍手以外の音も入っていました。サンプルがいくつかあり、専門の方 (サウンド・アーチスト?) がいました。よくある、ソロの後の拍手のように演奏中にも拍手を入れていましたが、タイミングが合っていないところが多かったですね。私も他のバンドの演奏を聴いていて、ここで拍手が?と最初は驚き、段々とそれが邪魔になって来ることもありましたが、最後は慣れてしまいました。

JT:100人とか150人限定で観客を入れるという報道も記憶にあるのですが。

齊藤:恐らく、メールスはARTEと言う大きなテレビ局とのライヴ配信だったため、前倒しされたのでは、とも考えられます。ですから、観客席150人ではなく、入場人数150人までですね。ですから、メールスの会場でも入り口で人数計算、もしもの感染者がでた場合に参加者を把握できるように、毎日出席者を登録(これは義務付けされています。)、演奏中以外の屋内ではマスク着用義務(これは日本では普通ですが、こちらではマスクの効用が重要視されていない為、ドイツ人にはマスク着用は大変苦痛な事です。4月末より屋内マスク着用は義務付けされてはいるのですが、ここではそれよりも人々が1,5mの距離を置く事の方が重要とされています。)そして、人の流れが交差、混雑する事のないように、会場施設では床に進行方向が矢じるしで記されていていました。

JT:想像以上の厳密さですね。

無観客という話だったので、完全にテレビのスタッフのみの静かな感じを想定していました。一般客は入っていません。が、ジャーナリストや他のバンドのミュージシャン、他のフェスティバルの主催者など、招待客はきていました。間隔1,5m (ドイツの規定です) 以上ごとに椅子が設置してありました。他にもベルリン・ジャズ・フェスティバルの芸術監督の方や、他のフェスティバルの主催者も参考にと聴きにいらしていました。

JT:なるほど、一般客ではなくいわゆる関係者、招待者ということですね。演奏する場所は1ヶ所ですか?

齊藤:中継はメインホールから行われました。録画機材を中心に、メインステージと、客席側にはソロやデュオの小編成グループ用のステージを作り、コンサートはメインステージと小ステージで交互に行われました。

JT:僕らがYouTubeで観ていたのはメインホールでしたね。ステージの配置もかなり考えあられて居ましたね。

齊藤:もちろんステージ上のミュージシャン達も1,5mの間隔を置いて演奏しました。満員の聴衆だとある程度乾いた音響になるのでしょうが、とても残響が多い会場での間隔をあけての演奏だったので、演奏はしやすいと言うはとてもいえない状況でした。私はPotsa Lotsaの10人編成で下手の一番端でしたが、上手のトロンボーンとは6m以上離れていたと思います。彼が何を演奏しているのかは分かりませんでした。

JT:出演メンバーは若手が中心なのでしょうか?

齊藤:今回、私が聞いたミュージシャンで一番高齢だったのは、ギュンター・ハンペル(82歳)です。前日に出演依頼を受けて駆けつけてきたコニー・バウアー(76歳)、私の師匠デヴィッド・フリードマン(76歳)です。危険を知ってでの出演、大変勇気のいる行動ですが、皆さん、そんな恐れを感じない素晴らしい演奏をされていました。

JT:ギュンター・ハンペルが現役とは驚きました。彼はすでにレジェンドですよね。コニー・バウアーは2018年のベルリンでの録音『The Gift』をNoBusiness盤で聴きました。元気ですね。

齊藤:コニー・バウアー出演の話は少し面白いです。当初は、昨年のアーチスト・イン・レジデンスでベルリン在住のメキシコ人ヴィブラフォン奏者、エミリオ・ゴルドアが、ベルリン在住ノルウェー人ドラマーのダグ・マグヌスソン・ナルフェーセンとデュオで出演予定でした。が、エミリオが出演予定前日の夜中朝2時に飛行機が飛ばないので出演できない、とダグに電話してきたそうです。その日の午後に私はメールスのホテルでゆったりしている時に、セッションをオーガナイズしている方より電話をいただき、「エミリオが飛行機キャンセルで来れなくなった。今夜のジャムに出ないか?」と。もちろん即OKしました。その後、ダグと私はコンポーザー・キッズというプロジェクトにものっていて、丸二日かけて合わせをしていたので、彼にエミリオの事を聞いたら、彼は今メキシコに居て、出られない、と。それでダグは会場にいるミュージシャンと演奏することもできたのですが、自分のプロジェクトのミュージシャンとできることなら、とバウアー兄弟に連絡をとったら、ベースのマシアスは来られなかったけど、コニーが駆けつけてくれた、とのことです。

JT:僕が聴いたNoBusinessの『The Gift』はまさにそのダグとバウアー兄弟のトリオ盤でした。最後に、この非常時下でのメルス出演はいかがでしたか?

齊藤:行ってみないと何が起きるかわからない、ハラハラしましたが、沢山のミュージシャンに久しぶりに会って、生の音楽を久しぶりに聴いて、演奏して、不思議でしたが、演奏禁止が解禁され、皆さん嬉しかったのではないかな、と思います。
ギュンター・ハンペルの今年のメルスでの珍しいモービルでの演奏を youtubeで観ることができます。

2nd set with Yuko Oshima

JT:大島さんはフランスのストラスブールからメルスへ駆け付けた、というわけですね。

大島:そうです。私はフランス、ストラスブールの在住で、ちなみに名古屋出身のドラマーです。

JT:大島さんはグループでの出演を予定されていた?

齊藤:サックスのジルケに誘ってもらって今回51パーセント、というプロジェクトで参加することになりました。意味ありげなタイトルですよね。このプロジェクト、もともとはサックスのジルケ、コントラベースのジョエル・レオンドル(Joël LEANDRE from France), 歌のマギー・ニコル(Maggie Nicols from England)がそれぞれ二人ずつ招待し全員で9人で演奏するはずだったのですが、ジョエルは無観客で演奏することに反対(他にも何か理由があったかもしれませんが)、そしてマギーはギリギリになって結局キャンセルで、フェスティバルのレジデンス・アーティストのマリア・ポルトガル(drums from Brazil)を入れて全部で6名の演奏になりました。

JT:51%というのはどういうユニットなのですか?

大島:当初からの目的で全員が女性、ということからも51パーセントの意味ありげな感じがわかっていただけるかと思います。私が住んでいるフランスでももうここ5、6年、ジャズにおいての男女平等意識についての問題定義がなされていて、いろんな論文も発表されています。
ちなみにフランスの国立ジャズ・オーケストラは5年前のディレクターが国から団員を男女50パーセントずつにするように、と警告されてもいました。結局は音楽的理由からそれは叶いませんでしたが、昨年就任した新しいディレクターはほぼ半々で団員を構成しています。

JT:直前に国境が再開されたようですがフランスからの出演状況はどうでしたか?

大島:今回、フランスからの20人規模の大グループOncem  https://onceim.fr/ もキャンセル、ジョエルもキャンセル、でしたが、私、ポワル Poil(日本語で毛という意味です)https://www.facebook.com/POILband/ のザッパロック系トリオ、それに他のグループで演奏しているフランス人ミュージシャンは参加しました。

それぞれの事情が違うので、一概には言えませんが、フランスからは、不安な気持ちを押して、無理をしてまで演奏しには行かない、というような雰囲気が全体的にあったのかもしれません。
ロックダウンもかなり厳しかったのと、長期にわたったので、ドイツより閉塞感に支配されていたのは確かだと思います。

JT:大島さんは参加されて結果的にいかがでしたか?

大島:私も易子さん同様、ハラハラドキドキ(特に国境越えが)でしたが、素晴らしいミュージシャンたちと共演できて、易子さんにも久しぶりに再開できて、そして何より、演奏できる機会を得られたことがとても嬉しかったです。
10年前にこのフェスに幸運にも出られた時もそうだったのですが、このメルスは私にとってはいつも特別なフェスで、今回も「さすが」感がありありでした。
この状況で4月半ば(だったと思いますが)にはフェスを決行する決断をし、そしてそれを実現したディレクター、フェスチームに脱帽です。
なかなかできることではないし、ミュージシャンとして彼らから勇気をもらえました。


TVarte 視聴リンク(180日間有効);
一日目 (2020.5.29)
https://www.arte.tv/de/videos/097995-001-A/moers-festival-live-vom-29-05-2020/

二日目(2020.5.30)
https://www.arte.tv/de/videos/097995-002-A/moers-festival-live-vom-30-05-2020/
7:24:00~大島祐子さん 51%出演。
9:49:00~齊藤易子さんユニット出演。

三日目 (2020.5.31)
https://www.arte.tv/de/videos/097995-003-A/moers-festival-live-vom-31-05-2020/
6:24:00~齊藤易子さん、ジルケ・アバーハルトPotsa Lotsa XLで出演。

四日目 (2020.6.01)
https://www.arte.tv/de/videos/097995-004-A/moers-festival-live-vom-01-06-2020/


齊藤易子 Taiko Saito
札幌出身。ヴィブラフォン、マリンバ奏者。桐朋学園ソリスト・ディプロマ、ベルリン芸術大学ジャズ科修了。クロード・ジオ・ヴィブラフォン国際コンクール優勝。札幌交響楽団、藤井郷子、内橋和久、デヴィッド・フリードマン、Shig02 他と共演。現代音楽作曲家のソフィア・グバイデューリナや舞台芸術監督のヘルベルト・フリッチュと作品に参加する等、ベルリンを中心に活動する。ベルリンのジャズミュージシャンやジャズクラブ経営者の政治活動団体IG Jazz Berlin (2011年に発足) の財務理事。http://taikosaito.net/

大島祐子 Yuko Oshima
名古屋出身ドラマー、現在フランス在住。ヨーロッパ各地で即興、曲演奏を通じてミュージシャン、ダンサー、役者とコラボレーションしながら自身のドラム演奏と音楽に精進。音、リズム、テクニックにおいてドラマー的アプローチとクラシック/現代音楽パーカッション的アプローチのクロスオーバー領域での演奏を志す。アートにおいて、創造性、人間味を重んじる。
2015年、“ドラムとエレクトロニクスのためのドラム音楽”を創るため、アコースモニウム(スピーカーのオーケストラ)奏者/作曲家のエリック・ブロワットマン(Eric BROITMANN , from Motus, Paris)と組んで、グループ「微震鼓動(bishinkodo)」を始動。アコースティックドラムとアコースマティック音楽の真の出会いが生むワイドレンジなMixed Musicを創り上げる。
他にも、フランス人ピアニスト 、エヴ・リセール (Eve Risser)とのデゥオDonkey Monkey, アメリカ人ドラマー ハミッド・ドレイク(Hamid DRAKE)とのドラムデゥオ、イザベル・デゥトワ(Isabelle DUTHOIT) (voice, clarinet) 、ソワジック・ルブラ(Soizic LEBRAT) (cello) との即興トリオ、パク・ヤン・ラウ(Pak Yan Lau) とオードレー・ラウロ(Audrey LAURO) との即興トリオ、2017年フランスのレーベルBam Balam Records より新譜を発表した小埜涼子(sax)と小野浩樹(electronics)とのトリオ、学生実験室などで活躍。2016年からは演出家ジェラルド・ワトキンス(Gérard Watkins)の指揮のもと、’SCÉNES DE VIOLENCES CONJUGALES’ で音楽担当、役者としても出演している。
http://yukooshima.com/


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稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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