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InterviewsNo. 275

Interview #220 ギタリスト・コンポーザー 森下周央彌

森下周央彌 Suomi Morishita
Jazz guitarist, Electronics, Composer
大阪府堺市  1985年7月22日生まれ。大阪音楽大学ジャズ科に学ぶ。
NAKED VOICE a.k.a 野良犬他で活動。2021年2月、デビュー・アルバム『Ein』(Tomte’s Records ) をリリース。
https://www.suomi-morishita.com/

Interviewed by Kenny Inaoka 稲岡邦彌  February 18, 2021 @月光茶房、原宿 followed by emails

Part 1:

レコーディングには信頼する福盛進也がアドヴァイザーとして参加

Jazz Tokyo:デビュー・アルバムの完成おめでとうございます。アルバム『Ein』はすべて自主制作ですか? 

Suomi:完全な自主制作です。現在プロダクションやレーベルには所属していません。

JT:『Ein』の意味するところは?

Suomi:アルバムにも収録されている”Ein”という楽曲でドイツ語で数字の1という意味です。第1作目のアルバムでもありますし、思い入れがある曲なのでアルバム・タイトルにしました。

JT:構想はいつ頃から?

Suomi:2010年くらいからです。

JT:2曲を除いてすべてSuomiさんのオリジナル楽曲ですが、書き溜めてこられた?

Suomi:アルバムの楽曲はこの10年くらいの間に書いた曲です。高校ぐらいから作曲に興味があり、最近はコンスタントに書いています。

JT:譜面に書きつけた音楽をデモで確認するやり方ですか?

Suomi:複雑になってしまった場合打ち込んで確認する事もあります。

JT:楽曲の構成(書き譜と即興)はどうなっていますか?

Suomi:基本はJAZZのフォーマットなのでテーマ(書き譜)〜ソロ(即興)の形は崩していませんが、楽曲によって譜面のフレーズ・パターンや音づかいは奏者が自由に選択できるようなシステムも採用しています。

JT:コアはギター、ヴァイオリン(ヴィオラ)、チェロのストリングス・トリオですが、意図するところは?

Suomi:オリジナルを演奏するようになって、自分の楽曲がどういうサウンドを求めているのかに注目するようになりました。ある時、ライブに向けてViolin、Alto-sax、二胡のアレンジをしていた時に擦弦楽器のサウンドが自分のアレンジや楽曲にスッと馴染んでいく感覚になり、ストリングスとギターでやってみたらと考えました。 Violaも入れてカルテットにしようと思ったりもしたのですが、トリオ・フォーマットの詰まりすぎない空間に広がりを見出せたのでトリオとしてサウンドを固めていきました。

JT:曲によりクラリネット、ハープ、コントラバス、パーカッションが参加しますが、仕上がりはいわゆるチェンバー・ミュージック以上のものがありますね

Suomi:Strings Trioとしてのサウンドはもちろんですが、やはり楽曲によって色々な要素が必要だったので、多彩なゲスト陣に参加して貰いました。 同じ空間でそれぞれの楽器の音がブレンドされて空気を震わせて音楽を形成していく過程は非常に高揚感があり、その空気感をパッケージしたかったのです。

JT:Suomiさんはエレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、エレクトロニクスを演奏されていますがとくにフィーチャーではなくアンサンブルの一員としての存在に近いですね。

Suomi:楽曲ありきで音楽をしているので、ギターのサウンドが必要であれば入れるし、とくに要らなければ無理には入れないようにしてます。全体のバランスをみて、曲の流れや構成を崩さないように気を遣って演奏しています。今回は初リーダー・アルバムですが、だからこそ、そこは出過ぎないにようしようと思っていました。

JT:参加したミュージシャンは関西圏で活躍している方々ですか?

Suomi:主にそうですが、皆んな割と全国的に活動してると思います。

JT:録音は紡績工場を転用したアトリエですか?

Suomi:大阪の堺市にある“SPinniNG MiLL”という明治後期の紡績工場です。現在はフォトグラファーの小野晃蔵さんがアトリエ/フリースペースとして活用されています。定期的にコンサートやイベントなども行われている素敵な空間です。
アルバムが弦楽器中心の構成なので、空間に広がりのある場所、そしてその空間も音楽としてパッケージできる場所として選びました。

JT:オーバーダブなどは可能でしたか?

Suomi:ほとんどど1発録りなのですが。曲によって別日でスタジオで A.Guitar、Viola を入れたりもしています。Electronicsは後入れです。

JT:録音はドラマーの福盛進也さんがアドヴァイザーとして参加されたのですか?

Suomi:自分のアルバムを作ろうと思った時に、自身の音楽を客観的に見てくれる人がいる方がより高いクオリティーの物が作れると思っていました。 福盛さんとは数年前に出会って、その美的感覚や音楽性に凄く感銘を受けて、ぜひ今回のプロジェクトに参加して欲しいと思って相談しました。デモを聴いてもらって、構成のアドバイスを貰ったり、2日間の録音にも立ち会ってアドバイスをして貰ったりしていました。

JT:アートワークを含めてパッケージにも手応えがありますね。

Suomi:ありがとうございます! でも録音を先行してやっていてカバーアートを全く考えていなかったんです。なかなか良い案が浮かばなかったのですが、ちょっとした思いつきで自分が今までの人生で影響を受けた建物の壁の写真を撮ってコラージュしようと思いつき、約1ヶ月かけて、産まれた産婆さんの家から小中高大の学校、その時々に住んでいたマンションなど...それをデザイナーの方に丸投げし(笑) 、微調整してプレス業者さんともやりとりしなが何とか形にできました。録音より大変やった気がしますが、こだわりを詰め込みました。

JT:流通はどのように?

Suomi:まだ未確定のことも多いのですが、とりあえず僕のHPで2月末から販売予定です。
https://www.suomi-morishita.com/shop/

Suomi Morishita 1st Album “Ein” Trailer from Suomi Morishita on Vimeo.

Part 2:

Electronics系サウンドをナチュラルに混ぜ込む

JT:プロとしてのデビューは?
Suomi:音楽の仕事を本格的にし始めたのは22, 3の頃だったと思います。

JT:現在までにどのような活動を?

Suomi:関西でジャズ・ミュージシャン (割とコンテンポラリーな) として活動しつつさまざまな民族音楽のミュージシャンとも交流していました。最近はNAKED VOICE a.k.a 野良犬 というグループでの活動が多いです。

JT:地元の大阪だけではなく、東京にも進出されているようですが

Suomi:数年前くらいからちょこちょこ行き来しています。

JT:福盛さんとの出会いは?

Suomi:3年ほど前に、ベーシストの甲斐正樹さんの紹介で初めてご一緒しました。

JT:福盛さんの音楽性については?

Suomi:とても美しい音楽を持っていて、それが共演者や聴衆にそっと寄り添って世界を広げてくれると感じています。 今まで出会ったことのないその美意識にいつも刺激を貰っています。

JT:エレクトロニクスは自作ですか?

Suomi:自作のものもありますが、録音で使ったのは市販のガジェットシンセです。最近 Modular synth に興味があり色々実験しています。アルバムの裏コンセプトでこういったElectronics系のサウンドを如何にナチュラルに混ぜ込めるかやっています。よく聴くと生楽器ではない音が随所に入っています。

JT:CD発売のコンサートの予定は?

Suomi:現在は予定はありません。もう少し世の中が落ち着いたらやろうかと思っています。

JT:海外ディストリビューション、海外での演奏の希望はありますか?

Suomi:そうですね。色々な方々に聴いて頂きたいし、僕自身も接したいと思っています。

PART 3:

何か遠くに見える光の様なものに到達したい

JT:お生まれは?
Suomi:大阪府堺市 1985年7月22日です。

JT:周央彌というお名前はフィンランドのスオミを連想させるのですが?

Suomi:まさにそうです。 父親が写真家をしていまして、フィンランドに取材にいった時にとても気に入ったようで。 この国のような人間になってほしいとつけてくれました。

JT:フィンランドへは?

Suomi:5年ほど前に2週間ほど滞在しました。 向こうのミュージシャンの方が案内してくれて、色んな所に行けました。 ゆっくりとした時の流れが気持ちよく、また行きたいと思っています。

JT:音楽的な環境に恵まれたご家庭でしたか?

Suomi:母親が趣味でギター、ピアノ、歌をやっていて小さい頃から遊びで楽器は触っていました。 ギターを始めた時も最初は母親に教えて貰ってました。

JT:音楽に積極的に興味を示したのは、いつ、どんな音楽ですか?

Suomi:あまり正確に覚えてないんですが、小学校低学年の頃 “みんなの歌” のカセットテープを死ぬほど聴いていたのは覚えています。

JT:ギターを初めて手にしたのは?

Suomi:中学2年くらいの時でした。 不登校だったので家にいることが多く、置いてあった母のギターに興味を持ちました。

JT:音楽の専門教育を受けましたか?

Suomi:中学3年の終わり頃から近くのヤマハ音楽教室に習いに行きました。4年ほど行ってまして、その後大阪音楽大学のジャズ科に進学しました。

JT:どんな音楽、アーチスト、CDを聴いてきましたか?

Suomi:中学の時は井上陽水、Eric Clapton、Santana、高校に入ってSteve Vai を始めHR/HM系。この頃はJoe Pass、Pat Metheny、Keith Jarret Trio なども良く聴いていました。ワールドミュージック系も好きです。 音大に入ってからはジャズばかり聴いていました。20代半ばくらいはJimmy Giuffreを良く聴いていました。他も色々聴いてたと思うんですが殆ど忘れました。。

JT:とくに好きなミュージシャン、アルバムはありますか?

Suomi:Jimmy Giuffre 3 1961 (ECM) が多分一番好きなアルバムです。音楽、空気感に一番影響されてる気がします。僕にとっては解けないパズルみたいなアルバムです。最近はあまり音楽を聴かないのですが、Nik Bärtsch’s Ronin シリーズだけは良く聴いています。

JT:クラシックはどうですか?

Suomi:全く聴いていません。正確には聴き込むほどには至っていません。

JT:映画音楽などいわゆる劇伴の作曲にも興味がありますか?

Suomi:映像と音楽の分野は凄く興味があるので機会があればやってみたいです。

JT:今後の目標は?

Suomi:漠然としてるんですが、自分のプレイが予期せぬ場面で他人にコントロールされるような (逆もありき) アンサンブルを模索しています。そこをトリガーにして演奏者ではない別の発信源でアンサンブルが始まり、相互が影響し合うようなシステムを現在構築中です。それをやりたいです。

JT:最後に夢を語ってください。

Suomi:常に自分が新鮮である事、そう思う事をやり続けたいと思っています。そして何か遠くに見える光の様なものに到達したいと思っています。

https://www.suomi-morishita.com/1st-album-ein-recording-archive/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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