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InterviewsNo. 277

Interview #222 ヴォーカリスト 高樹レイ

Interviewed by Kenny Inaoka for Jazz Tokyo via e-mails, April 10, 2021

Part 1:

ステイ・ホーム中のファンに嬉しい贈り物の新CDをリリース

JazzTokyo:新譜のリリースおめでとうございます。コロナ禍でライヴ通いも遠慮しがちななか、ファンには嬉しい贈り物ですね。

高樹レイ:有難うございます!

17年前のライブ記録ドキュメントを皆様にそのまま作品としてお届けできて嬉しいです。

JT:2004年のライヴ録音をリリースしようと決心されたのは?

レイ:こんなコロナ禍を受けて、ライヴもできなくなり配信も始まったのですが、何かもうひとつ納得できなかったんです。

エナジーがステージから伝わってこない。たまたま保管してあったこの記録を自宅オーディオで音量上げて聴き直し、改めて録音の音も良く、ライヴの臨場感満載のその様子が自身でもたまらなくなり、これは世に出したい!となりました。

JT:ワン・ステージを編集なしで収録というのは臨場感が増しますね。

レイ:はい!敢えてそれを出したかった。編集など無しで。MCから私の掛け声からリスナーの様子から、当時のそのままです。アンコールも2曲。 (笑)

JT:バックのトリオを簡単にご紹介ください。

レイ:ピアノに北九州出身の久保田浩、ベースは日本を代表するベーシスト池田芳夫、そしてドラムは宮崎県都城市在住の古地克成です。

久保田さんも古地さんももうキャリアの長い大ベテランです。

JT:ベースの池田さんは東京から帯同で、デュオも1曲収録されていますね。池田さんとの共演は長いのですか?

レイ:はい!とても長いです(^^)。

ベースと歌のみのデュオのノウハウも教わりました。一時良くツアーにも行きました。カメラータ関係の欧州メンバーとの来日コンサートではベースは池田さんにもお願いして、かれこれ20年近くになります。

JT:選曲やシークェンス(曲順)などについては当時を思い出されることがありましたか?

レイ:ありましたね、とても。

井阪さんレーベル、カメラータ insights から4タイトルの作品を出しているのですが、本当に井阪さんにはお世話になりました。

この福岡ブルーノートの 2Daysライブは、私の2枚目の作品、カメラータのトーチソング集『Here’s That Rainy Day』が発売された後で、その中から多数選曲しました。

そして、信頼置けるこのトリオのメンバー達と育ててきたアプローチです。

ライヴ・ステージの曲順はエンターテインメントにとって非常に重要な部分です。自身でステージ全体のイメージを膨らませ決めました。

 

JT:このトリオは初めてではないのですか。

レイ:初めてではないです!

このトリオでこの福岡ブルーノートの前後にも連続2週間ツアーをしました。

とくにこのレコーディングされたライヴの前に都城でホールコンサートを2日間してます。

JT:アレンジはどなたが担当を?

レイ:すべて私です。

助言はベースの池田さん。

アレンジはヘッドアレンジくらいでそんなにはなく...ジャズは即興ですから、その場で即興してるものが多いです。ただ、これはピアニシモだけで音数少なく魅せたい、とか、激しくグルーブ感強く後半は引っ張るから、とかそのアプローチは指示してます。

JT:仕掛けもあるのでしっかりアレンジされているのかと思いましたが。ところで、このアルバムは何作目、何年ぶりになりますか

レイ:9作目となります。

最後の8作目が、フレットレスベース織原良次さんとのデュオなので、2018年から3年振りです!

JT:当面の入手はライヴ会場とレイさんへ直接申し込みということですね。

レイ:はい、そうなんです!様々な流通販売は6/25からとなります!

Part 2:

自粛中は精神的に下がらないように、散策と山登りとか

JT:コロナ禍でどれくらいの期間ライヴを控えているのですか?

レイ:昨年の3月からライヴは非常に少なくなりました。月によって違いますが、平均して月に2本ほどです。夜ではなく、午後のライヴも増えましたね。

JT:その間、どのように喉の調子や体調を維持されていたのですか?

レイ:特別なことはしてません。

あまり歌わないということは喉にはとてもいいんですね。

精神的に下がらないように、普段の生活を楽しんでます。散策とか山登りとか...。

大好きな音楽もかなり聴いてます。好きなことを沢山してます。(笑)

JT:配信やリモートはトライされませんでしたか?

レイ:しました!何度も!

楽しいです。今は音もいいですものね!

ただ、やはりジャズはナマ体感。リスナーと同じ空間にいるからこそ、相乗効果で私達は燃えます!

JT:家庭での “ニュー・ノーマル” は?

レイ:うーん、特別に言えるようなことは無いですが (笑)、お料理や映画や読書。新レパの練習なども!譜面の整理もでしょうか。

JT:新しく始めたことはありますか?

レイ:自宅から何度か簡単配信しました。でも飽きました。 (笑) ともかく今は時間がとてもあるので、世界中のいい音をできるだけ多く聴きたい!

それらにインスパイヤされたいです。

Part3:

井阪プロデューサーの下、NYとウィーンでアルバム制作

JT:お生まれはどちらですか?

レイ:千葉県柏市、です。

JT:音楽的な環境に恵まれた家庭でしたか?

レイ:いいえ、まったく普通の地味な家庭で育ちました。父は小学校の教員です。

ですが、私はどういうわけか音楽が物心ついてから好きで好きで、良く歌い踊ってたようです。 (笑)

JT:初めて音楽に興味を持ったのは何歳ごろでどんな音楽でしたか?

レイ:小学校高学年ですね。

兄や従兄弟たちのBeatlesに影響され、洋楽ポップスばかり聴いてました。FENとかも聴いてて...BeeGeesとかも大好きでした。

JT:ジャズに目覚めたのは?

レイ:高3の予備校時代、タレンタインのCTIレーベルにやられました。それからラムゼイ・ルイス等に入っていき...当時はフュージョン時代。ハンコックもボブ・ジェイムスも...。モダンに耳が行くようになったのはその後ですね。 (^^)

JT:今月号でカメラマンの菅原光博さんが73年のCTIオールスターズの特集やってますよ。スタンリー・タレンタイン、ジョージ・ベンソン、ヒューバート・ローズ...。ところで、デビューはいつ、どんな形でしたか?

レイ: 今から28年ほど前です。

たまたま英語の歌が得意で、ジャズ・スタンダードも知ってた私は、あるライブハウスで突然、飛び入りをしました。譜面もないのに。 (笑) 歌ったのは確か、The Man I Love。それがナマのトリオとのコラボが気持ちよくて気持ちよくて...プロ・シンガーになりたいと強く!

それからお店にライヴ音源を送り、出演依頼が来て頻繁にライヴ活動がスタートしました。

JT:アメリカへ遊学されましたね?

レイ:ええ、スイングジャーナルを辞めてから少しの間です。NYではなく、LAです。これはジャズの勉強には関係なく、英語力を極めたく、です。

プロのジャズ・シンガーになったのは、そのずーっと後ですから。(^^)

大学を出てスイングジャーナルに3年弱、正社員として勤めてました。

JT:大学は音楽の専門学校ですか?

レイ:いいえ、普通の大学、文学部英文科卒業です。

JT:デビュー作はNY録音だったのですね。

レイ:そうです!

マンハッタンで録音しました。

JT:ウィーンでの録音も経験されていますね。ジャズ・アルバムの録音をウィーンで?

レイ:そうです!

井阪さんの要望でウィーンに飛びました。ウィーン在住のトリオとレコーディングし作品を作りたいとの事でした。

1枚目から4枚目までが、カメラータの井阪プロデューサー作品です。2枚めはバラード集ですが、ウィーンのヤマハホールで録音。3枚めは、ウィーンのジャズ・クラブの老舗、JAZZLAND で、ライヴ録音です。これは私にとって貴重なキャリアとなりました。

JT:ヨーロッパのトリオとはその後もライヴやツアーも。

レイ:はい、何度も。

ウィーンではホイリゲでも歌い、そのライヴ録音したウィーンのジャズ・クラブには何度か定期的に出てました。

JT:ウィーンでジャズ録音というのは井阪さんらしい発想ですね。

レイ:はい、そう思います。

井阪さんはクラシックの室内楽をよくウィーンでレコーディングされていたため、ウィーンに常時いらしてて、私も呼ばれました。

彼等が来日して日本を全国ツアーしたこともよくありました。今回の福岡ブルーノートは、欧州のメンバーとも、この後の時代に公演してます。

JT:井阪さんのカメラータは音源制作だけではなく、ツアーのブッキング・セクションもあるのですよね。制作した音源のマーケティング機能も装備されている。

レイ:はい!

欧州でも私の作品は売られてました。レコード店にも沢山。そして国内では、つくばの方で井阪さんプロデュースでコンサートも欧州のメンバー達と共に開催されました。

JT:特集アルバムを出すほどトーチソングをお好き、というのは?

レイ:これは井阪プロデューサーの案なんです!

当時、岩浪洋三さんや青木啓さんもお元気で、それから、TBSラジオの石原康行さんもお元気で、私は明るいキャラなので、失恋バラードが合う!と皆様に言われて...。

井阪さんがすべて選曲もしてます!レコーディング前1ヶ月ですべて覚えました。

あまり歌いこまないで、と井阪さんにアドバイスを受けて、テキストに沿って歌ってほしい、と。これも素晴らしい経験となりましたね。

JT:ジャズ評論家の応援団がいたのですね。その後、DUOシリーズもありましたね。

レイ:はい!

皆様、井阪さん繋がりです。良くしていただきました。

時期が来て、私の音楽が変わっていきました。進化が早い時代で。 (笑)

器楽的な世界も歌いたく、デュオという難しいフォーマットで作品を4枚残しました。

管楽器と声だけの世界から始まって、曲もエバンスやショーター等も取り上げて。ボーカリーズも良く歌うようになりました。変拍子も実は大好きです。

JT:とくにお気に入りの歌手やアルバムはありますか?

レイ:そうですね...。

いっぱいあって挙げきれませんが、クリス・コナーの Village Gate は好きでした。それから、カーメンの American Great Songbook、サミーとアルメイダのデュオ...ああ、有り過ぎて...。(笑)

JT:今後のライヴ活動のご予定は?

レイ:4/27 都立大学ジャミンでのピアノとのデュオを終えると、5/08 横浜上町63、5/24 六本木キーストン・クラブ、それとレコ発として、6/19 六本木キーストン・クラブ、6/22  荻窪ルースター、を予定してます。

他にも八ヶ岳や那須塩原でのライブも!

JT:最後に、夢をお聞かせください。

レイ:そうですね、夢は沢山あるのですが...7月には、武満徹曲集のレコーディングを控えてます。歌とギターとブルースパーブのユニットです。(^^)

日本語だけの世界です。これも大成功させたく!

あとは、現役の間に、ストリングスを入れた作品を作りたいです!シナトラやサミーのような大きな作品を!

Part 4: After Hours

JT:それでは、思い出のアルバムについて簡単に触れていただきましょうか?

レイ:最初の4作はカメラータの井阪さんプロデュースでした。

#1
『Now Hear This!!』1999年作品

マンハッタンのスタジオにて、嶋津健一ピアノ、そして米国のベース&ドラムと共にレコーディング。その音源をプロデューサー井阪さんが気に入って下さってカメラータから発売することとなりました。後日、井阪さんの希望もあり、青山ビクターのスタジオに入って数曲録り直した曲も!

マルチトラックだったのでこの作品だけ録り直しは可能でした。

 

#2
『Here’s That Rainy Day』2001年作品

真冬のウィーンにてホール・レコーディングするからと呼ばれ渡りました。この作品は欧州メンバーも選曲もすべて井阪さんが決めました。ピアノはフリードリッヒ・グルダの愛弟子Roland Batik、ベースにHeinrich Werkl、ビブラフォンにWoody Schabata、全曲、失恋トーチソングのバラード集です。

 

 

#3
『ライブ in ウィーン』2005年作品

井阪さんより、ウィーンNo1の老舗ジャズ・クラブからオファーが来てるので出演するようにと連絡が来て、そしてそのJAZZLANDにてライヴ・レコーディングもしてしまうことに。

プロデュースはすべて井阪さんです。選曲は私。米国よりGary Foster氏が参加して、豪華なカルテットとの音録りとなりました。

GaryFoster(as)Roland Batik(pf)Heinrich Werkl(b)Anton Muhlhofer(ds)

#4
『After Hours』2009年作品

北海道ツアーの後に、そのまま井阪さんと合流し、六本木ワーナーパイオニアのスタジオにてレコーディング。

メンバーは、若井優也(pf)、Heinrich Werkl(b)。

私のアレンジ曲も多く、エバンス曲やマンシーニ曲等をレコーディング。今までとは音楽的方向性の違う作品となりました。

 

JT:このあと、デュオ作が4枚続くのですね。がらっと趣向が変わりますね。

レイ:そうですね。デュオはいろいろ自由がききますから。

#5
『Two Voices』(Whisper )2013年作品

レイ:これは、私と竹内直とでデュオ・ユニットを組んで、二人で暖めた楽曲たちをレコーディングしました。テナーと声、バスクラと声、フルートと声、のみです。ウィスパー・レーベルという新しいレーベルの1枚目です。アレンジは私と直さんと二人で。フリー的な世界、変拍子の世界、エバンス、ショーター、ボーカリーズを二人だけでやってます。

 

JT:すごく挑戦的ですね。ウィスパーというのはご自身のレーベルですか?

レイ:いえ、マイルスを撮ってた内山繁カメラマンが立ち上げたレーベルで、内山さんは私のジャーナル時代の先輩で、(笑)レーベルを立ち上げるから出さないか、と言われて、(笑) 友情で出したという経緯です。

JT:三軒茶屋にジャズ・クラブ「ウィスパー」を出店された内山繁さんですね。

レイ:はい、そうです。

このアルバムは珍しいくらい中古でも出回ってなくて...。一切もう手に入らないという感じで驚いてます。どなたも手放さない、のかな、って...有難いです!
次の3作は Uplift Jazz Recordで制作したデュオ・シリーズです。

#6
『Duo 1(Uplift Jazz Record)2015年作品

これは、ギター中牟礼貞則さんとのデュオです!

スタンダードバラード集です。

 

 

 

#7
『Duo 2』(Uplift Jazz Record)2016年作品

この作品は、ピアノ伊藤志宏さんとのデュオです。

変拍子や即興を多く入れてます。デュオだからこそ自由にサイズも関係なく情景が見えてくるようにその場で描いた作品です。

 

 

#8
『Duo 3』(Uplift Jazz  Record)2018年作品

こちらはフレットレスベース織原良次さんとのデュオです。

このフレットレスとのデュオもとても面白いです!ハンコックやショーターも歌ってます。それとカタロニア民謡、カザルスで有名な<鳥の歌>も。景色も強く奏でてもらいました。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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