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InterviewsNo. 304

#265 ヤクブ・クシェショフスキ( JAZZ PO POLSKUレーベル設立者)  

ピアノの詩人と呼ばれるフレデリック・ショパンの母国であり、ジャズ界においてもクシシュトフ・コメダ、トマシュ・スタンコ、アンナ・マリア・ヨペックらのビッグ・アーティストを輩出している音楽大国、ポーランド。そこで2012年に設立されたジャズの新レーベル JAZZ PO POLSKU が話題を呼んでいる。自国の若手アーティストの海外進出や各国との音楽交流を積極的に推進し、注目されている同レーベル。その創設者であるヤクブ・クシェショフスキ氏が、マテウシュ・ガヴェンダ・トリオとともに今年6月に来日。同氏にレーベルの理念や展望などについて話を聞いた。

――今回、マテウシュ・ガヴェンダ・トリオが来日公演を行ないました。これは、あなたが主宰するジャズ・レーベル JAZZ PO POLSKU のプロジェクトの一環だそうですが、最初に JAZZ PO POLSKU について伺います。このレーベル設立のきっかけをお聞かせください。

ヤクブ・クシェショフスキ(以下JK):JAZZ PO POLSKU を設立したのは2012年。その最大の目標は、ポーランドのジャズ・シーンで活躍する才能あふれる若手ミュージシャンたちを海外に向けて紹介し、世界各国にポーランドのジャズ・シーンの豊かさを知っていただくことです。また、ポーランドのミュージシャンを海外に紹介するだけでなく、訪問国のミュージシャンとの交流を図り、さらにその国の有望な方たちをポーランドに招いてコンサートを開催するということも行なっています。これまでにアジア諸国を中心とする15か国で、40組を超えるポーランド人アーティストのコンサートを300回以上開催。その他、教育活動にも力を入れており、訪問先の大学などと連携して学生のためのワークショップも開催しています。今回の来日では準備が間に合いませんでしたが、次回は必ず実現させるつもりです。

――設立した2012年には、すでに音楽業界全体が厳しい状態になり始めていたと思うのですが、設立に踏み切った時のお気持ちをお聞かせいただけますか?

JK:ジャズに対する愛情です。私はJAZZ PO POLSKUを設立する以前も音楽関係の仕事をしていたのですが、その頃の仕事はメタル・バンドのサポート。強い口調を伴ったアグレッシヴな音楽の中に身を置いていました。ですが、その仕事を続けるうちにジャズ・ミュージシャンとも出会うようになり、徐々にジャズの魅力に目覚めていきました。怒りや不満ばかりを訴えるメタル・バンドとは違い、ジャズは悲しみ、愛情、惜別、ユーモアなどさまざまな感情を表現することのできる音楽。次第にジャズ・ミュージシャンたちをサポートしたくなったというのが設立のきっかけです。

――設立当初から、ポーランド国内に留まらず、海外展開を意識なさっていたのですか?

JK:残念なことに、ポーランドではジャズ・ミュージシャンの多くが、豊かな才能を持ちながら、国内の人々になかなか聴いてもらうことができません。そういう状況を見るうちに、国内でチャンスが無いのなら、海外に発信していこうと思ったのです。確かに、最初の頃は苦労の連続でしたが、ポーランド政府や文化事業団体と緊密な協力関係を築き、財政的なバックグラウンドも確立。レーベルのブランド力も増してきました。そのおかげで、初年度の2014年は3回のコンサートしか開けませんでしたが、2年後の2016年には50回、2019年には100回のコンサートを開催するまでに成長しています。

――順調に成果をあげていたようですが、2020年にCOVID-19パンデミックに見舞われました。

JK:その通りです。当初、2020年にはポーランドの5組のバンドとともに100回のコンサートをアジアで開催する予定でしたが、COVID-19パンデミックのためにその計画も頓挫してしまいました。ですが、そのおかげで私たちは新たな事業に乗り出すことができました。

――それはどのようなプロジェクトでしょうか?

JK:360度の視野を持つカメラで撮影したVRコンサートです。COVID-19のロックダウン中でもポーランドでのコンサート開催は可能だったのでその演奏を撮影し、最新のオーディオ・システムで配信しました。

――今回の来日は、JAZZ PO POLSKUの新プロジェクト“Around the World”の一環だと伺っています。このプロジェクトについてお聞かせいただけますか?

JK:スタートしたばかりのプロジェクトです。今回のマテウシュ・ガヴェンダ・トリオの日本ツアーはこのプロジェクトの初ツアーです。現時点では3年間のスパンでの展開を考えており、4大大陸20か国で100回のコンサートを計画しています。アジアからスタートし、今年末には、別のバンドとともにヨーロッパを回る予定。その中にはポーランドの隣国であるウクライナも含まれています。ジャズは自由を伝える音楽であり、文字を伴わない世界共通語。ミュージシャンが出会えば演奏を通じて気持ちや感情を理解し合うことができますし、そこに調和と自由が生まれます。国境も無ければ政治も無く、宗教も関係ありません。あるのは音楽だけ。本当に美しい芸術です。それを東欧諸国にも伝えに行きたいと思っています。

――精力的な海外活動をなさっていますが、音楽マーケットとして日本をどのように考えていますか?

JK:日本はとても人口が多くジャズの浸透度の高い国。とても魅力を感じており、私たちの制作したアルバムの販売ルートを確立させていこうと思っています。私たちはワルシャワでコンサートを数多く開催しており、それらすべてをライヴ・レコーディングしています。既に約50タイトルのアルバムがありますので、それらを徐々に日本でも発表していく予定です。

――活動の一環として、訪問先の国のミュージシャンをポーランドに招くということを最初に話されていましたが、招聘を予定している日本人ミュージシャンがいたら教えてください。

JK:アキラ・イシグロを迎える予定です。彼は横浜出身。現在はニューヨークを拠点に活動している世界的なギタリストです。彼をポーランドに迎えてツアーを開催する予定です。イシグロの後も、日本の若いミュージシャンをどんどんポーランドに紹介していきたいと思っています。

早田和音

2000年から音楽ライターとしての執筆を開始。インタビュー、ライブリポート、ライナーノーツなどの執筆やラジオ出演、海外取材など、多方面で活動。米国ジャズ誌『ダウンビート』国際批評家投票メンバー。世界各国のメジャー・レーベルからインディペンデント・レーベルまで数多くのミュージシャンとの交流を重ね、海外メディアからの信頼も厚い。

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