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InterviewsNo. 310

Interview #281 武本和大・インタヴュー

text by Kazune Hayata 早田和音
photo by 勝間田 崇登

昨年11月20日、南青山Baroomで開催された武本和大(p)のコンサートは強烈だった。その日の演目は、佐藤潤一(b)&きたいくにと(ds)を擁する自身のトリオ THE REAL に、吉田篤貴(1st.vln)、西原史織(2nd.vln)、末廣彩風(va)、飯島奏人(vc)という、多方面で活躍する弦楽奏者たちから成るストリング・クァルテットと人気パーカッショニストの岡本健太(perc)を迎えたプロジェクト“Departure”によるもの。これまで、ピアノまたはピアノ・トリオとストリング・クァルテットが共演する作品や演奏は幾度となく聴いてきたが、そこにパーカッションが加わる編成の演奏はほとんど聴いた記憶がない。以前から武本の弾くピアノに惹かれていた僕は矢も楯もたまらずBaroomへと向かったのだが、そこで繰り広げられた演奏は、メインストリーム・ジャズ、コンテンポラリー・ジャズ、クラシック音楽、現代音楽を含むさまざまな要素が溶け合った楽曲に対して、8人の自由闊達なアンサンブルやインタープレイが展開されるスリリングでダイナミックなもの。何より驚いたのは、発せられる音のすべてが必然と思えるほどの高い完成度を有していたことだった。

 

――先日(11月20日)Baroomでの演奏は、ピアノ・トリオ、ストリング・クァルテット、パーカッショニストの合計8人によるものでした。あまり例を見ない編成ですが、どのような経緯で生み出されたのですか?

そもそものきっかけとなると、子どもの頃まで遡ります。僕は6歳の時からエレクトーンを弾き始めていて、大会に参加することが多かったんです。エレクトーンって、本当にいろいろなサウンドを出せるじゃないですか。そうした大会でいろいろな人たちの演奏を聴いていくうちに、ピアノ・トリオとストリング・クァルテットをミックスさせたサウンドの演奏に惹かれるようになり、さらにそこにパーカッションを入れたら、もっと面白くなるんじゃないかと思うようになったんです。

――最初の着想から考えると10年以上を経たプロジェクトというわけですね。

そうですね。そう考えるとちょっと驚きですね(笑)。僕はそれ以来ずっと音楽に関わっているのですが、実際問題として、それだけの演奏者を揃える、しかも自分が納得できる方たちをお迎えするとなると、なかなか難しい。そもそもその方に出会えないと始まらないわけですから。ですが、その編成に対する思いはずっと持ち続けていましたし、大学(国立音楽大学)でのさまざまな勉強や自分の演奏活動を通じて、より意欲が強くなっていきました。

――どのようにしてスタートしたのでしょうか?

基本となるトリオTHE REALの結成は、僕が大学1年生の時に、学内で佐藤潤一さん、きたいくにとさんに出会ったのがきっかけ。その翌年にKKJ Trioという名前でスタートし、それ以来ずっと一緒に演奏し続けています。これは僕にとってのホームのような存在。このトリオでいろいろな方たちと共演させていただいていますし、それをフィードバックさせながらトリオ自体の音楽もどんどん発展していく実感があります。その次に出会ったのは岡本健太さん。今から4年ほど前に、ある音楽イヴェントに参加したのですが、その時に出演していたのが岡本さん。コンガ、ボンゴのような皮モノや、チャイムやベルなどの空間系の音色も素敵だし、一音で演奏全体の色彩を変えてしまうようなインスピレーション豊かな演奏に感動しました。プロジェクトが実現する時には、絶対に彼に入ってもらおうと思ったんです。

――ストリングスの皆さんとはどのように繋がったのですか?

大きく動き出したのは2022年。大塚にあるGRECOというライヴハウスで、オーナーの大竹美好さんたちとお喋りしたのがきっかけです。その時に、僕がいつかピアノ・トリオ+ストリング・クァルテット+パーカッションの編成で演奏したいという話をしたら、後日、西原史織(vln)さん、飯島奏人(vc)さんとのトリオ演奏を企画してくださったんです。そのおふたりとはその時が初共演。お互いの曲を持ち寄っての演奏だったんですが、とても素敵なライヴになったんです。

――残るは、吉田篤貴(vln)さんと末廣彩風(va)さんですね。

それが嬉しいことに、そのライヴに吉田さんと末廣さんのおふたりが聴きに来てくださって! 末廣さんとは以前にも何度か仕事で御一緒したこともあったのですが、吉田さんとは初対面。その時に意気投合して、直ぐにデュオ・ライヴを開催。その後、4人に話をして、一気にプロジェクトがまとまりました。

――とはいえ、これだけの編成の音楽を作曲するのは大変だったのでは?

そうですね。話がまとまって、本格的にスタートしたのが2022年6月頃だったと思います。それ以前から曲の準備は少しずつ進めていたのですが、やると決めてからは熱が入りました。でも、おっしゃるように、作曲するのは本当に大変でしたね。自分の中から聴こえてきた音を掴むためにピアノと向き合う毎日。音を探して、見つけて、でも上手く行かず、またやり直す、そのことの繰り返しで一日が過ぎていく感じ。一日ってこんなに短いのかと思いました。でもありがたかったのは、周りに理解者がいてくれたこと。学生時代からお世話になっている(井上)陽介(b)さんや友人の池本(茂貴 / tb, comp, arr)くんたちがいろいろとアドヴァイスしてくださったおかげで、前向きに取り組むことができ、2023年5月の初ライヴを迎えることができました。

――今お話しいただいたプロセスは、僕が聴いたライヴで演奏された「Departure」という曲に反映されているように思えました。

ありがとうございます。おっしゃる通り、「Departure」はこのプロジェクトを象徴する曲です。実際、プロジェクトが実現するまではさまざまな苦労もありました。その中で僕が感じた希望や喜びだけでなく、そこに辿り着くまでの混沌とした状態や苦しみなどの過程も描かれています。ですから、あのような15分を超す大作になってしまいました(笑)。

――ライヴのMCでも演奏前に、“皆さん、覚悟してください。この曲は15分あります”とおっしゃっていました。でも僕も含めて周りのオーディエンスの皆さんは、吸い込まれるようにしてずっと聴き続け、曲が終わった時、“えっ、もう15分経っちゃったの?”という感覚。周囲からの拍手で曲が終わったことに気付いたほどです。最後にお聞きしたいのが、この“Departure”プロジェクトの作品化についてです。アルバム制作を視野に入れていらっしゃいますか?

いつ頃の発表になるかは分かりませんが、作品化を目指しています。そのために、曲も増やしてライヴも重ねていきたいと思っています。

――次のライヴの御予定は?

3月1日(金)にBaroomで開催されます。新曲も披露しますので、楽しみにしていてください。

 

武本和大 THE REAL “Departure”
日時: 3月1日(金) 開場18:30 開演19:30
会場: BAROOM | バルーム https://baroom.tokyo/ 東京都港区南青山6-10-12 1F
出演: 武本和大(p) 佐藤潤一(b) きたいくにと(ds) 岡本健太(perc) 吉田篤貴(1st vln) 西原史織(2nd vln) 末廣彩風(va) 飯島奏人(vc)
料金:【前売】一般 ¥6,000 | 学割 ¥3,000(限定10名まで) 【当日】一般 ¥6,500 | 学割 ¥3,500
*全席指定 / 1ドリンク別
*学割は学生以下が対象。学生証又は年齢が確認できる身分証明書の提示が必要。

早田和音

2000年から音楽ライターとしての執筆を開始。インタビュー、ライブリポート、ライナーノーツなどの執筆やラジオ出演、海外取材など、多方面で活動。米国ジャズ誌『ダウンビート』国際批評家投票メンバー。世界各国のメジャー・レーベルからインディペンデント・レーベルまで数多くのミュージシャンとの交流を重ね、海外メディアからの信頼も厚い。

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