この1枚2016(海外編)#03 『Marek Poliks / hull treader』

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text by Narushi Hosoda 細田成嗣

Another Timbre – at95

1. ‘hull not continent’ (2014) 22:14
Distractfold: Rocío Bolaños (bass clarinet & percussion)
Daniel Brew (electric guitar) Linda Jankowska (violin)
Zinajda Kodrič (flutes) Emma Richards (percussion & sine tones)

2. ‘treader always in station’ (2014) 34:21 youtube extract
John Pickford-Richards & Beth Weisser (violas, objects, electronics)

All compositions by Marek Poliks


近年ますます目が離せなくなりつつある英国気鋭のレーベル〈アナザー・ティンブレ〉から今年の春にリリースされた本盤は、レーベル・カタログのなかでも異色の新人(?)による作品だ。アルバムの名義人となっている作曲家のマレク・ポリクスは1989年生まれ、ボストン近郊に居住しながら作曲活動と並行してインスタレーションや彫刻制作、あるいはテクノ・ミュージックのトラック制作なども行っていて、しかもマリリン・マンソンに影響されてエクスペリメンタルな音楽領域に足を踏み入れたというからその実態がなかなか掴めない。だがその音楽は非常に面白いものだった。彼が作曲したふたつの作品をリアライゼーションしているのは、主に現代音楽作品を演奏してきたイギリスのアンサンブル集団Distractfoldと、同じく現代音楽作品に取り組んできたジョン・ピックフォード・リチャーズとベス・ヴァイザーのデュオ。前者による一曲めの<hull not continent>は、電化ギターのノイズと低周波のサイン・ウェイブが違和感なく同居するような器楽アンサンブルの演奏で、響きから楽器の形状を想起するよりもむしろフィールド録音作品のように情景が浮かんでは消えていく映画的な肌触りがある。後者による二曲めの<treader always in station>は、ガタガタと回転する金属的な物音の響きにほとんど管楽器と化したヴィオラ演奏が咆哮しあるいはゆるやかに呼吸する息吹を聴かせてくれる。同レーベルからリリースされたインプロヴィゼーションによる作品や図形楽譜などを用いた不確定的な演奏作品と似たサウンドを思わせる本盤は、しかしながらこれらの楽曲の別の演奏家によるヴァージョンと聴き比べてみればわかるように、緻密なサウンド構築がなされたものなのだ。ここにある「即興演奏家による作曲作品のリアライゼーション」ならぬ「作曲作品による即興演奏のコンポジション」とでもいうべき音楽が、レーベル周辺の作曲家にどのような影響を及ぼすのか、いずれにしろ驚異的な新しい才能が現れたことには間違いがない。

細田成嗣

細田成嗣 Narushi Hosoda 1989年生まれ。ライター/音楽批評。2013年より執筆活動を開始。編著に『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(カンパニー社、2021年)、主な論考に「即興音楽の新しい波──触れてみるための、あるいは考えはじめるためのディスク・ガイド」、「来たるべき「非在の音」に向けて──特殊音楽考、アジアン・ミーティング・フェスティバルでの体験から」など。2018年より「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを企画/開催。

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