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このディスク2018(海外編)No. 249

#10 『Barre Phillips / End to End』

text by Akira Saito 齊藤聡

ECM 2575

Barre Phillips (b)

1. Quest Part 1
2. Quest Part 2
3. Quest Part 3
4. Quest Part 4
5. Quest Part 5
6. Inner Door Part 1
7. Inner Door Part 2
8. Inner Door Part 3
9. Inner Door Part 4
10. Outer Window Part 1
11. Outer Window Part 2
12. Outer Window Part 3
13. Outer Window Part 4

Recorded March 2017 @ LaBuissone Pernes-les-Fontaines
Engineer: Gerard de Haro
Produced by Manfred Eicher

バール・フィリップスは病を克服した。そのことと関係あるのかどうか、彼は、「サイクルの最後」に位置付けるものとして、最後のソロベース・アルバムを吹き込んだ。

たとえば、四半世紀以上前のソロアルバム『Camouflage』(Victo、1989年録音)と聴き比べてみると明らかなことだが、彼の音にかつてあった濃厚な芳香が、本盤ではやや薄れている。だが、それは音楽の強度が目減りしたことを意味するものではない。この音楽家について言えば、音は人と同義語だと言ってよい。バール・フィリップスという人の気配が、消しようもなく、本盤全体に充満している。そして優れた録音も相まって、まるで目の前で彼がコントラバスを抱えて呼吸しているように感じられる。

同じコントラバスの齋藤徹によれば、バール・フィリップスは、7台持っていた楽器の6台を処分してひとつだけ残した。本盤は、そのフライト用ベースで演奏されている。また、40数年も住んでいた千年前のサン・フィロメン教会を手放し、小さなアパートに移り住んだのだという。あまりにも潔い「サイクル」の閉じ方なのだが、同時に、それが新たな「サイクル」のはじまりであることを願う。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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