JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 42,018 回

このディスク2018(国内編)No. 249

#03 『Cubic Zero / Flying Umishida』

text by 定淳志 Atsushi Joe

Cubic Zero / Flying Umishida (Nonoya Records)

吉田野乃子 (sax)
本山禎朗 (keyboard)
佐々木伸彦 (guitar)
大久保太郎 (bass)
渋谷徹 (drums)

  1. Iwai
  2. もぐった先
  3. Block of Noise
  4. 永遠の苺 ~椅子とポルタが~
  5. Moldy Coffee Lighter
  6. Seaslug Interlude #1 ~Trapania Naeva~
  7. Spice 389 (Sabaku)
  8. Walking Head
  9. Seaslug Interlude #2 ~Hypselodoris Festiva~
  10. Flying Umishida
  11. Seaslug Interlude #3 ~Hypselodoris Kanga~
  12. Critical
  13. Setakamui
  14. Seaslug Interlude #4 ~Thecacera Pacifica~
  15. 15 Lunatics

Recorded April 2018

 

自分が名付け親(の一人)になったから、ということもあるし、2018年の1年間に最も多くのライブに接し、最も記憶に残るアルバムである。またメンバー全員が北海道在住ミュージシャンであり、北海道在住コントリビューターとしてはこれを推さないわけにはいかない。もちろん、大変な傑作であることは前提としたうえでだ。

グループ名は、2017年の結成時は「エレクトリック・ヨシダ(仮)」と呼称されていたため、リーダー吉田野乃子の師ジョン・ゾーンの「エレクトリック・マサダ」に範をとったエレクトリックなハードコアジャズでも演奏していくのだとばかり思っていたら、そうではないことがライブを重ねるたびに明らかになっていった。手法としてはインプロもあるし、ジャンクノイズもハンドサインも変(態)拍子もあるが、端的に言えばエレクトリックの衣をまとったジャズグループなのであって、衣をアコースティックに着せ替えれば「トリオ深海ノ窓」になろうし、吉田が独りで演奏すれば『Lotus』になる。本作を含む3作品は「3部作」なのであって、どれも一貫した吉田野乃子のジャズが底流している。

吉田野乃子は、わたしを含む多くの人の前にノイズサックス奏者として現れ、現在もそう自称も他称もされているが、彼女の音は全くノイジーではないし、美しくかっこいい音しかない。本作の「裏解説」によれば、アルバムに収録された彼女のオリジナルは、ジョン・ゾーンや椎名林檎やEW&Fやイーグルスや日野元彦らにインスパイアされているそうであるが、彼女が今まで観た聴いた体験した共演した好きな人たちの音楽を無理なく同居させながら、自らの表現として昇華させている。236号のレビューでも書いたように、彼女はますますその活動を多方面に花開かせようとしており、今後も楽しみは尽きない。また本作は、他のメンバーのテクニシャンぶりにも注目してもらいたい。

定淳志

定 淳志 Atsushi Joe 1973年生。北海道在住。執筆協力に「聴いたら危険!ジャズ入門/田中啓文」(アスキー新書、2012年)。普段はすこぶるどうでもいい会社員。なお苗字は本来訓読みだが、ジャズ界隈では「音読み」になる。ブログ http://outwardbound. hatenablog.com/

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください