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このディスク2018(国内編)No. 249

#01 『Naoki Kasugai(春日井直樹)/‎ DADA1981』

text by 剛田武  Takeshi Goda

 

LP : Daytrip Records DTR-LP001

https://waters4143.wixsite.com/daytriprecords

春日井直樹  Naoki Kasugai :   Bass Guitar / Spring reverb microphone / Electric shaver / Cardboard / Harmonica / Buddhist altar / Voice / Tin drum

A1 Eguchi Is Small
A2 Money
A3 Die!
A4 You
A5 A Crazy Cafe
A6 Africa
B1 Tick-Tuck
B2 People’s Temple
B3 Paralysis
B4 Dada1981

Recorded 1981 at My Room

 

地下音楽の澱みの中から蘇る創造性の宝石

80年代日本の地下音楽最大の謎と呼ばれるD.D.Records。甲府の大学生が主宰し、80〜85年の間に日本各地の無名のミュージシャンのカセットテープ作品を大量にリリース、海外でも紹介され「世界最高のアンダーグラウンド・エレクトリック・ミュージックを制作する、世界有数のアマチュア・コレクション」と賞賛された。音楽性は電子音楽、エクスペリメンタル、ノイズ、即興演奏、前衛ロックなど様々だが、いずれも商業主義とは無縁のD.I.Y.精神に貫かれた作品だった。しかし80年代半ばにレーベル主宰者が消息不明になって以来、200作近い膨大な作品群は、再発はおろか、現物を確認することすら困難で、レーベルの全貌は謎に包まれていた。ところがここ数年の地下音楽再評価の動きの中で、D.D.Recordsの関係ミュージシャンや作品が徐々に解き明かされつつある。

本作は1980年代初頭から中期にかけてD.D.Recordsから数本のカセット作品をリリースした名古屋在住のミュージシャン春日井直樹が、D.D.Records以前に自宅で録音した秘蔵音源をリマスターし自主リリースしたアナログLPである。ダンボールをドラム代わりに素人ヴォーカリストと制作した楽曲で当時イギリスでヒットしたバンド、フライング・リザーズに影響されて、スプリング・リバーヴ付マイク、ベースギター、電気カミソリ、空き缶、仏壇、ハーモニカ、ダンボールを使用して4トラックMTRでレコーディングした音源である。当時予備校生だった筆者も、まったく同様にフライング・リザーズの影響でラジカセ2台でピンポン録音を始めた。身の回りの楽器や玩具やガラクタを工夫して音を作ることが面白く、受験勉強そっちのけで熱中したが、大学へ進学するとバンド活動に忙しくなり自宅録音は辞めてしまった。

春日井は引き続きホーム・レコーディングを続け、D.D.Recordsからカセット作品をリリース、その後も現在に至るまで個性的な音楽制作を続けている。本作に続いて、Naoki Kasugai / THESE / KM2の名義でリリースしたD.D.Records時代の音源も自らリマスターし『DD. Records works 1983-84』として5枚のLPでリリースした。録音からリリースまで、30数年の時を隔ててすべて制作者自身が手がけた、究極のD.I.Y.精神に感服するしかない。収録された楽曲は、今で言えばローファイ、ノイズ、エレクトロポップ、アンビエント、インプロヴィゼーション等のサブジャンルに分類されるかもしれないが、そんなラベル分けを必要としない真のエナジーとクリエイティヴィティに満ちている。地下音楽の澱みの奥底で人知れず熟成された創造物の情念が、40年近い時を経て満を持して再び世の中に花開く奇跡であり、リベンジと言ってもいいだろう。

来年もD.D.Records関連の音源リリースの噂が聞こえてくる。未だ知られざる異形の表現者との出会いが楽しみでならない。そして、僭越ながら拙著『地下音楽への招待』や筆者のブログ記事がその動きに多少なりとも貢献しているとすれば、地下音楽愛好家として最大の喜びである。(2018年12月14日記 剛田武)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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