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このディスク2018(海外編)No. 249

#03 『Alexander von Schlippenbach & Aki Takase / Live at Café Amores』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

『Alexander von Schlippenbach & Aki Takase / Live at Café Amores』
Alexander von Schlippenbach (piano)
Aki Takase (piano)

LP:NBLP 115
Side A
Jackhammer
The Morlocks
Side B
Mingus-mix: Dukes Choice – Boogie Stop Shuffle
Na na na ist das der Weg

CD: NBCD 106
1. Jackhammer
2. Na na na ist das der Weg
3. You are what you is
4. Mingus-mix: Dukes Choice – Boogie Stop Shuffle
5. Misterioso – Evidence
6. Skippy
7. Lulu’s Back to Town
8. The Morlocks

Recorded live on the 16th August, 1995 at Café Amores, Hofu, Yamaguchi, Japan by Takeo Suetomi / Concert produced by Takeo Suetomi
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Produced by Danas Mikailionis and Takeo Suetomi (Chap Chap Records)
Co-producer – Valerij Anosov

第1回5タイトルの発売 (LP+CD) を以って座礁してしまったユニバーサル・ミュージック販売の「Free Jazz Japan in Zepp ちゃぷちゃぷ」(2015) の跡を継いでくれたのがリトアニアのNoBusiness Records だった。人口350万の小国に存在する唯一のジャズ・レーベル、全員が生業を持ちながら文字通りNo Businessとして運営されている。リアルタイム的にはリトアニアを中心にヨーロッパの音源、貴重なアーカイヴはアメリカの音源を中心にLPとCDでリリースされているが、そのラインナップに山口県防府市のカフェ・アモレス(オーナー:末冨健夫)を中心に90年代に録音されたインプロ系のアーカイヴが加わった。第1期は10タイトルで、すでに8タイトルがリリース済みだがこのアルバムは6弾目となった。
今年、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ(以下、アレックス)は傘寿80歳、高瀬アキ(以下、高瀬)は古稀70歳で『Iron Wedding』(INTAKT, 2009) を誇るふたりにとっては記念すべき年で。それに先立つ昨年12月にはアレックスがドイツ政府からドイツ連邦共和国功労勲章を受章している。結果的に、アルバム・リリースとしては絶好のタイミングとなった。
録音は1995年と23年前に遡るがカフェ・アモレスに2台目のピアノを持ち込むスペースの余裕がなく、1台のピアノをふたりでシェアする連弾となった。この特別な状況が2台のピアノを使ったデュオとはひと味違う成果を生み出した。ソロはいうまでもなく連弾でもふたりのピアニズムの違いがかなり明確に表出される。アレックスはドイツ的なコンテンポラリー性を帯び、高瀬はよりジャジーと言えば良いか。連弾では当然のことながら表現力が飛躍的に増し、ひとりのピアニストが腕が4本あればここまで表現できるという可能性の拡大を夢想しながら聴いてみた。
そして、今年 (2018年)11月の「シュリッペンバッハ・トリオ+高瀬アキの冬の旅:日本編」の実現である。故・副島輝人からつながる実行委員会3度目のアレックス+高瀬の招聘。1996年の「ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ」、2005年の「年は漂うー東京・ベルリン 2005」。正直なところ今回がいちばん困難を伴った。ゲーテ協会以外ことごとく助成、支援を断られ一度は断念しかかったが杉並区の協力を得て息を吹き返した。それにしても嘆かわしいのは日本の官民のジャズに対する理解の無さである。特に即興性の強いシリアス・ジャズに対しては皆無に近い。その点、目の行き届くゲーテ協会の存在は即興演奏家にとってどれほど心強いことだろう。
コンサートの詳細は他のコントリビュータのレポートを参照願いたい。アレックスもエヴァン・パーカーも相応に年齢を重ねている。個人的には、パウル・ローフェンスに代わるポール・リットンのドラミングに生で接することができたのが嬉しい収穫だった。トリオは誰が突出することなく実にバランスの取れた演奏を披露した。座・高円寺でのホール・コンサートに比べ、新宿ピットインでのライヴがよりジャジーだったのは興味のある比較だった。とくに、アレックスの演奏にそのことが顕著に現れていたと思う。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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