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このパフォーマンス2018(国内編)No. 249

#07 日吉直行トリオ

text by Ring Okazaki  岡崎 凛

2018年12月2日(日)  100BANホール (兵庫県神戸市中央区江戸町)
主催・企画・制作|瞑奏録音

日吉直行 (piano)
水谷浩章 (contrabass)
芳垣安洋 (drums)

序に代えて:
~水鳥はやがて大きく羽ばたく~
静寂から、ゆっくりと始動するトリオ。静けさを慈しむような3人の演奏が次第に熱を帯びていく。微かな音を奏で続けていたドラマーとベーシストは、やがてスイッチが入ったように大きく動き始める。その2人のまなざしの先で、ピアニスト日吉直行は、彼の心に浮かぶ水辺の水鳥を描き、目に写っては消える美しさに寄り添うように、彼のオリジナル曲を演奏していた。

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のっけから詩人のまね事のような文章、と思われたかもしれないが、このコンサートでの体験したことを思い起こせば、誰もがみな、うまいヘタはともかくとして、少し詩的な表現をしてみたいと思うのではないだろうか。このトリオを聴いた帰り道、水鳥の羽ばたきを思いながら家路についた人も多いのではないだろうか。

100BANホールという音響に恵まれた会場で、日吉の専属音響エンジニアたちがセッティングした楽器と機材の配置によって、トリオ3人の目指すサウンドをオーディエンスが共有し、楽しむことができたのが嬉しい。
日吉は自主レーベル『瞑奏録音』を立ち上げ、このトリオのアルバム『POLYVERSAL』を10月にリリースしている。このコンサートは昔風に言うなら「レコ発ツアー」の神戸公演である。

〈セットリスト〉
1. D-R one 2. Blinking 3. foss 4. 月の映画館 5. Maboroshi
1. 水面鏡 2. はばたき 3. とりは海へ、さかなは空へ 4. Rondo 5. 戦ぐ 6. A PLACE WHERE HE LIVES 7. Polyversal

日吉直行との出会いについては、最後のほうにまとめたが、ほんの数年前のことだった。彼の成長を細かに語れるほどではないが、彼のポテンシャルを最高に引き出してくれるメンバーに出会い、トリオを結成できたことは本当に喜ばしいと思う。

さて、彼の演奏について語りだすと、音楽知識の乏しい自分は、最初に書いたような感想を書き続けることになると思うので、今回はざっくりと、ベーシストとドラマーについて語りながら、このトリオの魅力に触れたい。

水谷浩章の名前はよく知っているが、実際に聴くのは今回のライヴが初めてだった。彼について調べると、変則ストリングス・クインテットなど、興味深い活動がいろいろ出てくる。そして共演者たちの名前を眺めているだけでも楽しくなってくる。自分がぼんやりしているのか、関西での公演が少ないのか、よく分からないが、今後はきちんとチェックしようと反省した。
静かにトリオの底流に漂うコントラバスの響きや、楽曲の盛り上がりへの進路を見据えた音づかいを追いながら、演奏を聴いた。座った席から見えるのは彼の背中で、コントラバスの反響を聴くポジションだったかもしれない。だがベース奏者を斜め後ろから聴くヴィジュアルも面白く、今回のコンサートでは音響のバランスが素晴らしかったので、じつにいいサウンド環境を楽しませてもらった。

水谷浩章は日吉直行トリオでの演奏を心から楽しんでいるような気がした。このトリオのリーダーは日吉直行となっているけれど、全員がリーダーとなるコリーダー・トリオのように思える。誰が突出することもなく、みごとに対等の関係が成立し、3人がそれぞれ楽曲から立ち上る世界を楽しんでいるように思えた。

芳垣安洋の細やかなドラムスティックの動きから、北欧のドラマーたちを連想したが、よく考えれば、かなり違う「作風」なのかもしれない。
思いだしたのは、ヘルゲ・リエン・トリオでなどで聴いたPer Oddvar Johansen(ペール・オッドヴァール・ヨハンセン)や、つい先日聴いたウォルター・ラング・トリオのE.S.T.の元ドラマー、Magnus Öström(マグナス・オストロム)が作り出す、静謐からじわじわと湧きだすようなサウンドだ。芳垣安洋のドラムワークはこの2人に匹敵するぐらいにヴァリエーションに富み、シンバルやドラムの生む繊細な音から、ポエムやストーリーが見えてくる気がする。
芳垣安洋を聴いたのはたったの3回で、彼の過去作をきちんと聴いたわけではない。なので、まだまだ素人考えではあるけれど、彼の演奏からヨーロッパ勢だけでなく、ミルフォード・グレイヴズのようなパーカッショニストの音も想像してしまう。ただ、このトリオでは、ピアノではパーカッシヴでアフリカン・テイストな演奏はやっていないので、今回はまず北欧ドラマーを想起したのかもしれない。

ピアニスト、日吉直行については、彼を聴くようになった経緯から書いておきたい。
2015年旧グッゲンハイム邸のCholet Kanzig Papaux Trio(ショレ、ケンツィヒ、パポー・トリオ)公演に行ったとき、日吉直行がオープニング・アクトでトリオ演奏し、あまりに印象的だったので、公演後に彼に話しかけた。
そして彼のアルバム『into the Air』と出会い、池長一美(b)、荒玉哲郎(ds)とのトリオなら間違いないはず、と思いながら帰り、CDを聴いて、やはりこれは、絶対に将来が楽しみな新人だと感じずにはいられなかった。
その後、日吉直行はしばらく順調に活動しているようだったが、一番聴きたいのは彼のピアノを十分に楽しめるトリオ作品だと考えていた。
かなり待ったが、今年(2018年)4月に谷川賢作と日吉直行によるピアノデュオライヴを聴きに行った頃に、何と彼が水谷浩明(b)、芳垣安洋(ds)という、彼の作風にぴったり合いそうな2人とトリオを組んだと知る。
これ以上の顔合わせはあるだろうか、と喜んだが、この気持ちを分かってくれそうな人はまだ少ないかもしれない。是非、YouTubeなどの音源に当たって確かめてほしい。
配信のみでのリリースと聴いていた気がするが、コンサート会場にはちゃんとCDが並んでいた。これが最新アルバム『POLYVERSAL』で、ミニアルバムという扱いだが、その内容はコンサートと同様に期待通りだった。(敬称は略させて頂きました)。

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以下、2018年12月15日開催の日吉直行ソロコンサート「冬葉の独奏会」のための〈出演者プロフィール〉を(ほぼ)そのまま掲載します。

日吉直行|音楽家 (ピアニスト・即興演奏家・作曲家)
『皆さん、要注意です。柔和な頼りなさそうなこの顔にだまされないでください。この男、いったん弾かせると「おぬしなかなかの使い手 油断ならぬな」に豹変します。』と語るのは、ピアニスト谷川賢作。
1986年宮崎県延岡市生まれ。現在、神戸市在住。 9歳よりクラシックピアノを学び、ポップスやジャズを経て即興演奏に興味を持つ。大学では現代音楽や即興演奏の研究、音楽哲学などを学び、2012年神戸大学大学院修士課程修了(芸術修士)。在学中よりライブハウス等で演奏活動を始める。
これまでに、2015年Office Ohsawa企画によるヨーロッパ・ジャズの来日アーティスト(Cholet Kanzig Papaux Trioショレ、ケンツィヒ、パポー・トリオ)のオープニングアクトで演奏、
SONG X JAZZ主催のフェスティバル「JAZZTREFFEN2015」に出演、
AIと即興演奏についてのトークイベントへの出演、
詞の朗読や舞踏との共演、合唱との共演など。 .
近年は「渡り鳥」をテーマにしたトリオ[水谷浩章(bass) 芳垣安洋(drums)、] 音楽家 谷川賢作(piano)とのソロ&デュオなど小編成からさまざまな編成のアンサンブル、鹿児島・TOKUDA企画との学校公演・CD制作など、
長野・松本での「周波数24/7」との映像と音楽の共作、
京都・桂川にある写真スタジオUmoreでの音楽企画や結婚式演奏など、活動は多岐にわたる。
CD作品として2012年『The Silent Night』、2013年『into the Air』(TMCD-1003)、2015年『Blinking』(TMCD-1007)を制作し、
最新作は2018年『Polyversal』。同年秋からは自主レーベル「瞑奏録音」を立ち上げ、配信を始める。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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