小野健彦の Live after Live #001~#009

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text & photo : Takehiko Ono 小野健彦

Intro:

初お目見えに際して、まずは自らのことなど紹介させていただきたく。
国内では、安田講堂が「落城」し、世界ではアポロ11号が月面に着陸。街には「長崎は今日も雨だった」が流れていた昭和44年 (1969年) にこの世に生を受け、出生直後から、神奈川県川崎市西部のいわゆる都心郊外のベッドタウンで育つ。
1992年、大阪に本社を置く電器メーカーに就職、結婚後、湘南・藤沢に居を構え、湘南⇔大阪の異動を繰り返しながら、2012年に、インドネシア・ジャカルタに海外赴任するも、わずか1年後に、現地にて脳梗塞を発症し命からがら帰国する。
帰国後、複数の病院でのリハビリの成果により、現在は、依然、後遺症による左半身片麻痺の状態ながらも、杖に頼れば、自力で都内のライブスポットまで出向けるまでに回復。本連載は、そんな私のライブ日記と相成ります予定。
微力ながら、本稿が日本のライブ (とりわけジャズ) シーンの裾野を広げる一助になれば幸甚につき、以後何卒よろしくお見知りおきのほどを。
(編集部より:筆者、脳梗塞の後遺症による左半身片麻痺状態での写真スナップであることをご了解ください)

#001 7月26日(木)
神田・鍛冶町 Jazz Spot Step!
http://www.jazzspot-step.com/

稲葉国光トリオ:稲葉国光 (b) 峰厚介 (ts) 岩崎佳子(p)

今宵のライブは初めてのハコ(ライブハウス)。私は、初めてのハコを訪問する時いつもドキドキ ワクワクする。自明のことながら、この現代日本のライブ・シーンを支えるのは他ならぬミュージシャンであるが、彼らにその表現の場を提供し、決して利が多いとは言えないその場を維持してゆこうとしている高い志を持ったハコのご亭主にお会いし、そのお話を伺うのもライブ行脚の楽しみだ。

前口上はこのくらいにして、今夜のハコは神田・鍛冶町にあるjazz spot Step! 御父上から引き継いだ二代目のご亭主にお聞きすると、創業は2001年とのこと。さて、肝心の今宵のライブは,稲葉国光トリオ。テナーサックスの峰厚介氏と、ピアノの岩崎佳子氏を、リーダーでベースの稲葉国光氏がどっしりと支えるという構え。匂い立つ香りと、芳醇なる味わい。三人の演者はこれでもかと、良くうたう。実に滋味深い音場だった。

中でも白眉は、現在、世界中の表現者が彼を偲んで献奏している、J. ジルベルトも唄い奏でたデザフィナードを、峰さんがまろやかにタップリと吹き上げたひとときだった。

#002 8月2日(金)
上野・入谷  jazz & gallery なってるハウス

http://www.knuttelhouse.com/

山崎比呂志 (ds)  藤堂勉 (reeds)  井野信義 (b)  今井和雄 (g)

昨年末に、新宿pit innでドラムの神様と出会った。神様って大袈裟な,と思うなら、彼のドラムセットを見ると良い。彼の左上方に鎮座まします奇怪な形のシンバル。何を隠そう三菱自動車製大型トラックのホイールキャップだという。それも、高速道路を走っている時に偶然見つけたものだと。こんな神器を操るのだから、彼は、やはりきっと神様に違いない訳だ。加えて、彼が現在暮らしているのが茨城県鹿島市だというのも数奇な符合と言わざるを得ない。
前置きが長くなってしまった。
今夜のライブは、その人、ドラマーの山崎比呂志さんと、フリーインプロ界の歴戦の猛者3人(各種リード楽器の藤堂勉氏、ベースの井野信義氏、ギターの今井和雄氏)との共演@入谷なってるハウス。私にとっては、6月を除き6ヶ月連続7回目の山崎さん。しかし、齢79歳のドラム翁は今宵も圧倒的にしなやかで、瑞々しい音場を提供してくれた。山崎さんの予測不能なパルスが各演者の心根と激しく共振して、ある者は緩やかに飛翔を始め、ある者は待ってましたとばかりに強靭なビートを刻み出し、またある者は慈しむようにアブストラクトなコードをかき鳴らしてゆく。1ステージ40~50分の一本勝負は、片時もダレる瞬間がない。マイスター達の自由闊達で、気っ風jの良い音の饗宴に大満足の宵だった。
清々しい音場に触れて、店の外に出てみると、私の頬を撫でたのは、昼間の尋常でない暑さの名残を引きずった熱波ではなく、大川を背にした何とも心地よい下町の涼風だった。

#003 8月3日(土)
上野・入谷  jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

蜂谷真紀 (vo)  原田依幸 (p)

さて、今夜のライブは昨夜と同じハコ。@入谷なってるハウス。
約2週間に及ぶマケドニアへの旅から帰国したばかりの、声の使者:蜂谷真紀氏とピアノの鬼才:原田依幸氏が相見える宵。聞けば、蜂谷氏はかつて時々、原田氏のグループにゲスト出演したことがあったと言う。今夜は、徒に破綻することなく、完璧な迄に抑制されたダイナミクスの懐に抱かれて、天衣無縫な唄うたいが、森羅万象を存分に表現した充実の邂逅のひととき。煌めく交歓の中から立ちあがってきた、<ブルーモンク>や<カーニバルの朝>の断片はこの上なく美しかった。

蜂谷氏のfacebook情報によれば、このduoの再演が10/26(土)に下北沢lady janeにて行われることが決定した模様。今から秋の楽しみがまた一つ増えた。

#004 8月6日(火)
東中野・Jazz Spot セロニアス
https://thelonious-hp.jimdofree.com/

蜂谷真紀 (vo)  大口純一郎 (p)

私にとって馴染みのこのハコも、本年2月に駅前から移転、新規オープンしてからは、初訪問。オーナーで、自身はジャズボーカリストの大原都志子ママとお転婆愛娘と旧交を温めつつ 開演の時を待つことにした。
今夜のライブは@東中野セロニアス。
約2週間のマケドニアへの旅から戻ったばかりの蜂谷真紀氏が、凱旋興行でピアノマスターに出会う夜の第2弾。私も目撃した、8/3の原田依幸氏に続いて、今宵のお手合わせは、大口純一郎氏。このお二人のduoは、同じセロニアスでの5/8に続いて2度目。…
私は、その時は、生憎と目撃することができなかったので、今回は、万難を排して駆けつけた。 今夜の蜂谷氏は、ジャズ・スタンダードや、亡き師古澤良治郎氏の愛奏曲などを中心に、ボイス・パフォーマーとしての横顔は抑え目に、ジャズ・ボーカリストとしての非凡さを見せつけながら、攻めに攻めた。
この上なく、端正で瀟洒なヴォイシングの森の中を、悪戯好きな1匹の蝶が舞い飛んで行く。 そんな、極めて官能的で絵画的な印象に縁取られた音場が、目の前に開けて行った。

#005 8月9日(金)
茅ヶ崎・Jazz & Booze Storyville
http://www.jazz-storyville.com

石田幹雄 (p)  須川崇志 (b)

職住接近の我が家から、全工程30分程で行かれるこのハコで、多くの素晴らしい表現者達に出逢えるのだから、何とも贅沢な話である。
今夜のライブは湘南・茅ケ崎駅南口からほど近い@Jazz&Booze Storyville。

今宵は20代〜80代の幅広い世代が群雄割拠する当代日本ジャズ・シーンで、その揺るぎなき深遠なる音楽性をもって確固たる地位を確立したほぼ同年代の不惑前の2人の表現者が対峙した夜。ピアノの石田幹雄氏とベースの須川崇志氏のduoチームは、各々のオリジナルに加えて、モンクの<eronel>や.スタンダードの<there will never be another you>などを次々と曲趣豊かに繰り出して行った。疾風怒涛のドライブ感と叙情性が相まったインタープレイから見え隠れする断片は、大層刺激的で、知らず知らずのうちに惹き込まれて行く音場。

#006 8月10日(土)
下北沢・APOLLO

https://ameblo.jp/430416apollo/

菊地雅晃 (b)  津上研太 (as)  藤井信雄 (ds)

今夜のライブは、私自身、念願の初上陸のハコ@下北沢アポロ。

夜の部では、若手から中堅・ベテランまで注目のライブが組まれ、週末の昼にはジャム・セッションが開催され著名ミュージシャンが志のある者達に胸を貸すなど、現代ジャズ・シーンの裾野を広げることに大きな役目を買っている注目のハコである。

.今夜のライブは、ベースの菊地雅晃3 plays standards & AOR, アルトサックスの津上研太氏とドラムスの藤井信雄氏とによるこのトリオは、結成1年半ほどながら、極めて相性が良いと見え、演者同士の安心感が、こちら聴く側にも、心地よく伝わって来る。今宵の白眉は、1ステージ目で ジジ・グライス の <capri>から、<skylark>を経て<memories of you>へと繋いだくだりと、2ステージ目で、<just friends>から、<billies bounce>へとたたみ込んだくだりか。とにかく、steadyにswingする趣味の良い音場に大満足の宵だった。

#007 8月11日(日)
吉祥寺・Piano Hall サムタイム
https://www.sometime.co.jp/sometime/

大野えり (vo)  デイビッド・バークマン (p)  加藤真一 (b)  川嶋哲郎 (ts)

しかし、暑い!
私の場合、昼間に野外を歩いていると、185cmの身長故に、人よりやや早めに太陽の光を浴びるし、それに加えて、脳梗塞の後遺症から、人の約半分ほどの速度でしか歩けないのだから、そのインパクトは尚更である。しかし、そこに気になるライブがある限り、私の精神と肉体は、それを求めて彷徨い続けるのである。

そんな訳で、今夜のライブは、@吉祥寺サムタイム。今宵は、ボーカルの大野えりさんのセットだ。脇を固めるのは、ピアノのデイビッド・バークマン氏と、ベースの加藤真一氏に加えて、テナーサックスの川嶋哲郎氏。このドラムレス編成でのギグの告知を見た時、えりさんの心意気みたいなものを感じて、即座に予約を入れた。もちろん、その時はこんな酷暑になるとは、予想だにしていなかったが。

別にリズムはドラムだけの専売特許ではないが、ここにドラムが入れば、リズム面での層も増して俄然しっくり来ることは、間違いない。しかし、えりさんは、卓越したリズム感をベースに、その音場をグルーブさせる役割を中心的に引き受け、ドライブ感溢れるステージングで、バンド全体をグングンと引っ張って行く。高校球児のエース・ピッチャーを想わせる溌溂さを以って、緩急自在に、ひとりひとりの聴衆目掛けて、1曲1曲をストレートに、かつ丁寧に投げ込んで行った。

本編最後には、NY流に、と前置きして、本日会場に遊びに来ていたミュージシャンをコールする。ベースの河原秀夫さんを紹介した後、楽器持参のアルトサックス、ユッコ・ミラーさんを舞台に呼び込んだ後、<love you madly> を賑々しく演奏したところで大円団となった。一夜のライブ全体を一つの素敵なショーに仕立て上げて、えりさんは全く素晴らしいエンターテイナーだ。

#008 8月12日 (月)
西荻窪・clop clop
http://www.clopclop.jp

秋山一将 (g)  細井徳太郎 (g)  吉野弘志 (b)  林頼我 (ds)

今夜のライブは、当代随一の鯔背なギタリスト 秋山一将氏が、新旧の気になる表現者を、ホームグラウンド、西荻窪 clopcclopに招いた夜。

脇を固めるのは、ギターの細井徳太郎氏、ベースの吉野弘志氏に加えドラムの林頼我氏だ。緩やかに浮遊し、ハードにスイングし、容赦なく解体して行く音場。20代の細井、林の両名は、果敢に攻め、挑み、それを懐深く受け止める60代の秋山、吉野の両巨匠とのコントラストが素晴らしく鮮やかだった。とても、今夜が2度目の顔合わせとは思えない、バンドとしての流石のまとまり様。嬉しかったのは、<will you still love me tomorrow?>を演奏してくれたこと。本家キャロル・キングや、ジェームズ・テイラー、ウィリー・ネルソンではなく、秋山さんが.奏で唄うこの唄が私は大好きだ。

そう、この国の湿度を纏った秋山さんのこの唄が。
嗚呼、今夜も至極ご機嫌なひとときだった。
因みにこのバンドは9/16(祝)に入谷なってるハウスに登場予定。ご興味のある方は是非目撃を。

#009 8月14日(水)
池袋・absolute blue
http://absol.blue/

永田利樹 (b)  rio (bs)  早坂紗知 (as)  伊藤志宏 (p)

池袋西口の東京芸術劇場は、東京都交響楽団、読売日本交響楽団等の演奏会で、これまで散々訪れてきたにもかかわらず、その西口公園の真ん前にジャズのハコがあるなどとは、今日の今日まで知らなかった。もっとも、雑居ビルの地下2階だから、通りすがりに見つけるというのは、かなり困難ではあるが...。
ということで、今夜のライブは、@池袋 absolute blue、NY帰りのママが4年半前に開いたハコだという。
当夜の演者は、ベースの永田利樹さん、バリトンサックスのRIOさん、ソプラノとアルトサックスの早坂紗知さんの「TReS」にピアノの伊藤志宏さんが入るという布陣。
構成は、全て「TReS」 の各メンバーのオリジナル曲で占められたが、これが、どれも佳曲揃い。

リズムが伸び縮みし、溢れるメロディが飛び跳ねる。演者各人の静かな熱量が絶妙にブレンドされ、それがいつしか強固な音塊に変容を遂げる。全曲の中でも私の印象に残ったのは、特に、RIO氏作の<カタツムリ・パレード>と、先の九州ツアーで立ち寄った五島列島の地からその想を得たという、永田氏の、<悠久の青> 。この2曲は、曲の出自こそ違えど、この時期こそ故にか、切なるレクイエムの響きを含んだ感があり、この時ばかりは、場内が深遠なる静寂に包まれた。
今、私なりに、74年のとしつきに想いを馳せる。

小野 健彦

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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