#06 デイヴィッド・マレイ+ポール・ニルセン・ラヴ+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン
2019年5月26日(日) ベルギー・オーステンデ KAAP
Text and photos by 齊藤聡 Akira Saito
David Murray (ts, bcl)
Ingebrigt Haker Flaten (b)
Paal Nilssen-Love (ds)
デイヴィッド・マレイは70年代のロフトに登場して以来、ソロからオクテットやビッグバンドまでさまざまな形で、底知れぬパワーによって聴く者を圧倒してきた。しかし、近年ではマッスがやや希薄になり、その結果、マチエールが目立ってきていたことは否めない。
だがこのパフォーマンスを目の当たりにして、マレイは今もマレイなのだと理解した。マレイのオリジナル(<Acoustic Oct Funk>など)の他に、ユセフ・ラティーフの<The Plum Blossom>(『The Eastern Sounds』に収録)や、ブッチ・モリスの曲も演った。ちょっとピッチを外した音、悠然とした大きなヴィブラート、独特のブルージーな節回し、過度のフラジオによる高音を中心に持ってくる豪放さ、ソウル曲での小唄的な余裕。バスクラのフレーズは大きな物語に包まれている。撥音での表現も、ひとしきり吹いてもとの場所に戻ってくるときも快感であり、かつて彼が新宿ピットインに狂乱の渦を巻き起こしたことを思い出してしまう。どこを聴いてもマレイである。
おそらくはノルウェー出身の40代のふたりに突き上げられ、旧・怪物は安穏としていられなくなったのだろう。最近解散した、マッツ・グスタフソンとのトリオ「The Thing」のベースとドラムスである。
ポール・ニルセン・ラヴは、いつもの低めに据えたドラムセットに渾身の力で叩く。それは単なるパワープレイではない。たとえばブラシも先端の柔軟性だけではなく、根っこのしなりがサウンドになっている。この力ゆえの音の広がりが迫ってくる。
インゲブリグト・ホーケル・フラーテンの指のパワーも並外れているのだが、固く張られた弦がその力でたわんだり、引っぱって容赦なく離したりすることの快感がやはりある(うっかり手を出したら切断されそうだ)。そしてまだ残る余裕があり、歌い踊るベースはデイヴ・ホランドを思わせる。
このトリオは10月に再びヨーロッパ・ツアーを行っている。あらあらしいマレイの音を、日本でもふたたび聴きたい。
(文中敬称略)