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このディスク2019(海外編)No. 261

#03 『Lookout Farm / Live At Onkel Pö’s Carnegie Hall, Hamburg 1975』

text by Hiroaki Ichinose  市之瀬浩盟

JAZZLINE  D-78071/King International

Dave Liebman(sax, fl, perc)
Richie Beirach(p)
Frank Tusa(b)
Jeff Williams(ds)
Badal Roy(perc)

1. Naponoch (David “Dave” Liebman) (8.10)
2. The Iguana’s Ritual (David “Dave” Liebman) (14.40)
3. I’m A Fool To Want You (Jack Wolf, Joel Herron, Frank Sinatra) (12.20)
4. Your lady (John William Coltrane) (11.05)
5. Fireflies (Frank Tusa , Dave Liebman) (8.30)
Recorded live at Onkel Pö’s Carnegie Hall, Hamburg 1975.6.6


今秋 (2019年)、”ルックアウト・ファーム”の未発表ライブ音源が突如発売された。

ECMレーベルの黎明期を艶やかに彩った『ルックアウト・ファーム』(’73/ECM1039)、『ドラム・オード』(’74/ECM1046) の2枚のアルバムを残し数年でその活動を全うした伝説のグループ”ルックアウト・ファーム”。これに遅れること10年弱、当時高校生だった私は地元のジャズ喫茶でこの2枚に出会い、とことん打ちのめされた。’75年には来日公演も果たしている。その場に居合わせることが叶わなかったのが残念でならなかった。コルトレーン、ドルフィーはとうに鬼籍に入っていたので諦めはついていたし、電化マイルスは何が何だかわからなかった。それだけにこの音にリアルタイムでそして直に接することができなかったのは残念で仕方がなかった。まさに切歯扼腕ってやつである。しかしこうしてライブ音源に出会えることは誠にありがたいことである。

’75年のハンブルクでのライブ、NDR北ドイツ放送音源である。M3がとりわけ嬉しい。エルヴィン・ジョーンズとの共演盤でその名も誉れ高い『Live at the Lighthouse』(’72/Blue Note BN-LA015)の拡張盤が’90年にvol.1,2 (CDP7 84447,8)として突如CD化され、あっという間に市場から消えたが、このvol.2の原盤未収録曲の中の1曲。11分を超す熱演を豪快に演じ切ったあの曲である。もちろん他の曲もクエストの1stの収録曲M1、ドラム・オード収録のM2,4などと楽しみであった。
早速、頭から聴いてみた。MCも観客の拍手も無くいきなりデイヴのテナー・サックスの無伴奏ソロがぶっ飛んできた。最初の一音でガツンとくる。いや、一瞬くらっときたのか、意識が飛んだか… … …
… … …… いや、大丈夫だ。デイヴの豪快なソロが続く。と、ぃやっ?誰かに腕や脚を掴まれ背中をさすられている…気付いて見るとリッチー、フランク、ジェフ、パダールである。「お前、こんなところで聴いてんじゃねぇよ!」と言われてグイと引っ張られ背中を押された。5人でスピーカーの背後の壁をスッと擦り抜けた。一瞬デイヴのこちらにぶっ飛んでくる音と壁の向う側に向かう波とが真空状態になったような気がする。気付けば今度はライブ会場に座っていた。最前列ど真ん中ではないか!デイヴが身体を大きく揺すり眉間に青筋を立てソロを続けている。周りのお客も目を剥き身体を揺すって聴き入っている。私を会場に誘ったメンバーはもう所定の位置についていた。と、一瞬のきっかけで4人が一斉にデイヴに絡んできた。怒涛の演奏の始まりである。1作目から2作目とその自由度はかなり広がったと感じていたが、ライブとなるともはや余分な垣根は吹っ飛んでいる。テナー、ソプラノ、フルート、打楽器と巧みに操り突き進むデイヴやピアノとエレピを使い分けるリッチー、エレピをこうガンガン叩かれてはたまりません。ジーンのぶっ飛び様もなんだありゃ!M1〜3は途切れなく、あとはもう最後まで一気呵成に突き進んでいく。演奏が終わり、手を真っ赤にしながら拍手をした。… … …後は静寂… … …… … …

おや、メンバーもあれだけ盛り上がった客も1人もいない…いや、ここは自分の部屋ではないか。いやはやすごい演奏というものはこういうことかと思い知らされた。巷のグループは思いつきの回顧調で再結成をしたりすることがあるが、彼らにはそれはあり得ないだろう。なるほど結成から数年で終わるわけだ。あの時代を全速力で駆け抜けたのだから。自分たちの理想的な音楽を突き進め、やるべき事は全てやり尽くした。
このグループの凄さをあらためて魅せ付けさせられた1枚であった。

市之瀬浩盟

長野県松本市生まれ、育ち。市之瀬ミシン商会三代目。松本市老舗ジャズ喫茶「エオンタ」OB。大人のヨーロッパ・ジャズを好む。ECMと福助にこだわるコレクションを続けている。1999年、ポール・ブレイによる松本市でのソロ・コンサートの際、ブレイを愛車BMWで会場からホテルまで送り届けた思い出がある。

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