#04 藤井郷子デュオ&トリオ

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦
portrait by Kazue Yokoi 横井一江


藤井郷子 (p)
齊藤易子 (vib)
2019年6月29日 公園通りクラシックス「二つの鍵盤 五つの演奏会」

© Kenny Inaoka


藤井郷子 (p)
ラモン・ロペス(erc)
田村夏樹 (tp)
2019年9月12日 せんがわ劇場「JazzArt せんがわ 2019)

© Kazue Yokoi

田村夏樹tp・藤井郷子pご夫妻とは、彼らが1997年秋にNYから帰国、東京に拠点を移したときからの付き合いで、以来、折りに触れライヴやCDに耳を傾けている。1年の過半は欧米で活動、ときにはオーストラリアにまで足をのばしている。ソロからオーケストラまで多くのプロジェクトを抱え、CDを制作しながらの世界行脚というスキームが確立され、経済も成り立っているようだからひとつの成功例とみなしても良いのだろう。
その藤井郷子が昨年、還暦を機に毎月1作ずつCDをリリースすると宣言したときはさすがに驚いたが、みごとそれをやり遂げた。今年も5枚のCDをリリースしたという。CDを作るということはミュージシャンにとってその時々の記録を残すことだから、できる限り機会を見つけてCDを制作しなさい、というのが師ポール・ブレイの教えで、彼らはそれを忠実に実行しているのだ。ひとが日記をつけることで成長するように、彼らもCDを制作することで着実に成長しているようだ。いちど立ち止まり、その時点で最高の成果を残すように努力するからだろう。

その成果が見事に現れたのが、6月の齊藤易子vibとのデュオと「JazzArt せんがわ 2019」に出演したラモン・ロペスdsとのトリオだった。齊藤はベルリン在住で、来日を果たしたユニット「kokotob」のCDは試聴していた。今回は単独の帰国で藤井との公演が5回、クラシックスはその最終公演だった。タイトルにある通りふたつの鍵盤がときにメロディ楽器に、あるいはときに打楽器に姿を変えサウンドスペースを千変万化させていく。藤井がテグスを使ってピアノ弦で発音させたり(かつてジョン・ケージが指示したように)、齊藤が弓でキーのエッジをこすって発音させたり表現域の拡大に余念がなかったが、それらが見事に然るべきところに然るべき音がはまるという構築力の確かさを見せた。もちろん音の展開には予断を許さない飛躍が随所に聴かれ即興のスリルと醍醐味を満喫することができた。
この夜の演奏はそのままCD化できるようなレベルの高さと構成力の見事さがあったが、いつの日かこのデュオの素晴らしさをCDを通じて多くのリスナーに届けてもらいたいものだ。

『コンフルエンス』(LIBRA) で共演した藤井とラモンに田村が参加したトリオ。共演機会の多い藤井と田村にラモンが加わることによりさらに緊張感が生まれ、サウンドスペースが大きく広がった。この日、藤井も田村もピアノやトランペットを打楽器的に使用することでヴォキャブラリーを飛躍的に増やし、ラモンのタブラも加わってあたかも3人のパーカッショニストによる協演と聴き紛う瞬間もあった。どの曲も作られたテーマに基づいていたが即興パートでも3者の構築力には目を見張らされるものがあり、1時間に満たない演奏だったが終演後ずしりとした充実感が満たされたのだった。

なお、藤井郷子は米Downbeat誌の2019年度(第67回)国際批評家投票で、下記5部門で上位選出されているが邦人では他に比肩する者は存在しない。

Big Band  8位
Arranger 10位
Composer 15位
Piano 9位

稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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