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このディスク2019(国内編)No. 261

#08 『歌女 kajo/遠ざかる、一つになる go far, be one』

text by Kazue Yokoi  横井一江

blow bass-004

歌女 kajo
高岡大佑 (tuba, bass-melodion, recording)
石原雄治 & 藤巻鉄郎 (bass drum, separated drum kit, percussion, object, playground equipment)

1.  araware 18:24
2.  yuugu 7:34
3.  mizu 06:47
4.  minzoku 13:16
5.  kaerimichi 8:15

recorded at Kashiwa Furusato Park (Teganuma, Chiba) 2019/08/29
KORG MR-1000 DSD recorder+MicW N101P,Domon cable,
SONY MDR-EX800ST,
just converted DSD file to 44.1kHz 16bit by AudioGate (KORG)
no effects, no overdub, no edit


2019年に聴いたCDの中で一番の異色作。

歌女(かじょ)は板橋文夫オーケストラなどにも参加しているチューバ奏者、高岡大佑と2人のドラマー/パーカショニスト、石原雄治と藤巻鉄郎 によるユニット。解体したドラムキットを中心に、移動しながらそれらを叩いたり、擦ったり、鳴らしたりして演奏する石原と藤巻、そしてチューバやベース・メロディオン(鍵盤ハーモニカ)を吹く高岡、録音場所は柏ふるさと公園。3者によるインタープレイは「即響」という言葉が似つかわしい。公園のざわめき、蝉や烏の鳴き声等々を取り込み、楽音も遠くから聞こえたり、間近から聞こえたりする。そのような録音ゆえにフィールド・レコーディングやサウンド・インスタレーションといった趣も漂わせ、その境界線に近づいたり、遠ざかったり、だが、あくまでも音楽である。周囲の音と演奏の絶妙なバランスといい、その取り込み方はまさに借景だ。欧州の即興演奏家にはサイト・スペシフィックな演奏をする奏者はいるが、このような発想には出会ったことがない。エフェクトなし、多重録音なし、編集なしだが、録音のクォリティが良いので演奏風景が浮かび上がってきて、まるでその場にいるような心持ちになる。音とは、音楽とは、即興演奏とは、録音物とは、と原初的な問いを投げかけられているように感じるのは私だけだろうか。

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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