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R.I.P. ライル・メイズNo. 263

ライルはいつも僕のそばにいる by 鈴木禎久

text by Yoshihisa Suzuki 鈴木禎久

僕はギタリストであり、重度なパット・メセニー・フリークだが、無類のライル・メイズ・ファンでもある。俗化されたコード進行からの脱却、変拍子ながらも歌うメロディー、組曲的構成の妙技。その素晴らしさに気づかせてくれたのは彼らだった。僕の音楽性の半分は、この2人によって創られたのかもしれない。

ライル・メイズの音楽に出会ったのは1985年、僕が九州在住で高校生だった頃。ラジオでパットメセニーグループの日本公演を聴いた時だった。当時の僕は鍵盤奏者だったということもあって、放送1曲目の<ファーストサークル>で楽曲の凄さ、バンドサウンド、そしてライルのピアノソロ&シンセオーケストレーションに完全にノックアウト。それまで聴いていたポップス、ジャズフュージョンとは違う「新しい心地良さ」みたいなものを体感した瞬間だった。

パットとライルを追い続けて30数年、僕はずっとこの「心地良さ」に支配され続けてきた。ライルはいつも僕のそばにいた。その音楽に触れることは、僕自身の人生を再体験することでもある。

ソロアルバム『心象風景』を手にしたのは十代の頃。そのラストに収められた<Close to Home>を聴くと、まだ自分の進むべき道も見えなかった当時の自分を思い出す。90年代初頭、上京して数年後だったか、ライブ映像に出会い「動くライル」に驚嘆。ビデオテープが擦り切れるほど何度も繰り返して観た。レコードでは味わえない熱い部分に触れて感動した。その頃からグループの来日の際には欠かさず足を運んできた。

ライルは何台ものシンセを並べて演奏するが、自分のソロパートはほぼアコースティックピアノでプレイする。シンセは彼のトレードマークである笛系シンセリードでメロディーをとるほか、重厚なシンセパッドでバンドの色彩感を演出する。主役のパットを引き立てつつも、キラリと光る個性。その絶妙なバランスがたまらなく好きだった。

近年、彼がパットのプロジェクトに参加しなくなったことを残念に思っていたが、いつかまた共演するだろうと信じていた。ライルを失ったいま、二度と2人のコラボレーションを観ることはできない。

もうこの世で彼と対面することはないけれど、いまの僕はむしろより近くに彼の魂を感じている。僕の胸の中に、僕の音の中に彼は生きている。あの「心地良さ」と共に。

ライルは本当の意味で、僕の音楽の神となった。


鈴木禎久  Yoshihisa Suzuki
1967年 大分県生まれ。作編曲家・ギタリスト。作曲家としてゲーム「パラッパラッパー」シリーズ、「たまごっちのおみせっち」シリーズほか、日本製作のディズニーアニメ「スティッチ!」などを手がける。ジャズギタリストとして本多俊之、マンデー満ちる等と共演するほか、中路英明オバタラセグンドなどに参加。2017年にはマンデー満ちるとのデュオアルバム『Naked Breath 2』をアメリカNYで録音、日米混合のマンデーバンドでライブ公演。Music Innovationをテーマとしたポリパフォーマンスと、4人編成のバンドTail windによるコンテンポラリージャズのライブを中心にした活動。2019年9月に同バンドのアルバム『IN PRAISE OF SHADOWS』をリリース。ポリパフォーマンスはギターと足鍵盤、ボイスパーカッションの同時演奏という、鈴木が考案したかつてない斬新な演奏スタイル。

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