ヨン・クリステンセンを悼む by 神子直之
text by Naoyuki Kamiko 神子直之
当時の学生は真面目(なフリをして?)にラジオを聴きながら受験勉強などしていたものだ。今は無きFM雑誌で23時過ぎからの「クロスオーバーイレブン」という番組の曲目の青い文字(ジャズがそうだった。)を狙ってエアチェック(平たくいえば録音)して繰り返し聴く日常だった。そこでECMの音楽は割とかかっていて、テリエ・リピダルによる虚無感が強く明確なテーマの無いモーダルな曲などを聴いた中に、私とヨン・クリステンセンとの出会いがあった。ベースのウォーキングにシンバルレガートが乗る典型的なジャズのビートでない、8分音符が常に等価である(これには異論があるかもしれない。)、その躍動感に心を躍らせたものだ。
北欧の共演者が多かったが、Keith Jarrettのヨーロピアン・カルテットの一員として、替えの効かない存在感を示した。曲の進行に合わせてしなやかに、それでいて明確に自己主張がありドラムの立場で演奏を引っ張っていく、そのスタンスが素晴らしかった。違和感が無く合焦して行く音楽の中で、彼が作り上げたテイストは唯一無二だった。
ECMにリーダー作が無い(と思われる)彼が、レーベルの顔として:rarum(selected recordings)シリーズの最終20番目のアーチストとして選ばれていたのも素敵な配慮である。そのライナーに彼の言葉があるので紹介しておきたい。
「1.バンド感覚が技巧より大事。
2.少ない方が、多い。
3.どれだけ速く、よりゆっくり演奏できる?
4.ビートは、あなたが考えているものとは限らない。
検討を祈る!
ヨン・クリステンセン」
拙訳の出来が悪いが、素晴らしいメッセージであることは伝わると思う。そんな言葉を残した彼の音源、実は今世紀に入ってからのものを幸か不幸かあまり聴いていない。これからも彼の足跡を追いたいと思う。沢山の録音を、ドライブ感を、ありがとうございました。