JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 35,297 回

R.I.P. ライル・メイズNo. 263

計り知れない魅力を湛えた音楽に感謝 by 布施音人

text by Otohito Fuse 布施 音人

Pat Metheny Group のアルバムを初めて意識的に聴いたときから、私の耳の半分は Lyle Mays のピアノに向いていた。そして、この美しいピアノを奏でている人物は誰だろうかと調べ、Lyle Mays という名前を知り、彼名義のアルバムが(当時)4枚しか世に出ていないことに驚愕し、すぐにその4枚を浴びるように聴き込んだ。また、Pat Metheny Group のマイナーなライブ音源や動画を探し回り、Lyle Mays のピアノソロが入っているテイクを聴き漁った。音楽活動を実質的に休止していることを知り、なぜもっと早くに知ることができなかったのだろう、と悔やんだりもした。

なぜここまで彼の音楽に心を奪われているのか、自分でもよく分からない。ピアノという楽器の鳴らし方を熟知しているであろう音色の豊かさ、調性音楽の伝統を踏まえつつ新たなアイデアにもあふれた叙情的なフレージング、オーケストラ作品のような多層的な音楽のピアノによる表現や、それを発展させたシンセサイザーでのオーケストレーションなど、彼の音楽の特徴は様々挙げることができる。しかし、このように端的に言い表された特徴は、彼だけに備わっているものではないし、そもそも、言語化し、時間の流れに杭を打って固定しようとしたそばからスルスルと抜け落ちて行くような流麗さこそが、彼をはじめとする優れた音楽家の特徴なのかもしれない。とにかく、彼の音楽はとてつもない魅力を以て私を虜にしている。

私は Lyle Mays の最後の来日よりもあとにジャズを聴き始めたような青二才だが、それでも訃報に触れた時のショックは大きかった。長年のファンでいらっしゃる方々の受けた衝撃はいかほどかと思う。また、訃報に触れる前と後で、Lyle Mays の音楽を聴いている時の自分の心理状態がわずかながら本質的な変化を被ったように感じられ、そのような自分に嫌気がさしたこともある。しかし、Lyle Mays の音楽に出会い、心を大いに動かされた、このことの運命的な喜びは変わることがない。今後も彼が遺してくれた作品に触れ続け、その音楽の魅力の本質を少しずつ感得して行きたいと思う。

素晴らしい音楽をありがとうございます。ご冥福をお祈りいたします。


布施 音人 Otohito Fuse
東京生まれ。東京大学大学院 数理科学研究科 数理科学専攻 修士課程在学中。高校時代に Bill Evans に触れ、ジャズの演奏に興味を持つ。大学入学と同時に東京大学ジャズ研究会に入部。2017年度、慶應義塾大学ライトミュージックソサエティに所属し、山野ビッグバンドジャズコンテストにてバンドで最優秀賞、個人で優秀ソリスト賞を受賞。現在、都内のライブハウス、セッションハウスを中心に活動中。

 

 


【動画配信】
Seiko presents 慶應義塾大学アート・センター 油井正一アーカイヴ
「拡張するジャズ」研究会 「パット・メセニーの新作を聴く」
講師: 中川ヨウ  撮影・編集: 粂川麻里生
ピアノ試奏:布施音人  ファン代表コメント:井奥成彦、久保智之
(試奏曲: America Undefined, From This Place, September Fifteenth, Better Days Ahead)

前半

後半

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください