追悼 川崎燎「Trinkets & Things」by 尾川雄介

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text by Yusuke Ogawa 尾川雄介

川崎燎の作品をこれほどまとめて聴いたのは初めてだ。訃報に触れ、折しも営業自粛になったことで生まれた曖昧で重苦しい余暇に、手元にあるリーダー作や参加作を引っ張り出してみた。リーダー作だと、最も古いものが1970年リリースの『Guts The Guitar』、最も新しいものが1983年リリースの『Lucky Lady』だった。もちろん、この前にも後にも大いに活躍しているのは承知だが、ぼくにとって彼のイメージはこの13年間に残された作品に集約されている。

猪俣猛のサウンド・リミテッドや稲垣次郎のソウル・メディア、また三保敬太郎のジャズ・イレヴンなどでのジャズ・ロック然とした演奏もギラギラしていてカッコイイが、やはり、それに続くフュージョン期で魅力が満開となっている。ギタリストとしての資質はもちろん、トータルでサウンドをプロデュースする才を改めて感じる。『Juice』(1976年)や『Ryo / Featuring “Concierto De Aranjuez”』(1982年)、そして上述の『Lucky Lady』など、フュージョンの一言で済ませてしまうのが憚られるような、だからこそ超一級のフュージョンとなっているこれらの作品。楽想も音像も多様で多彩。第一人者として携わってきたシンセ・ギターへの歩みも見て取れる。とことん非凡である。

川崎自身が2017年に「もともとぼくは4ビートの奏者じゃないんです。4ビートをどう演奏するかは学んだけれど、ロックやファンク的な音楽のほうが体質的に合っていた。 ~中略~ ジャズ・ロックやフュージョンがぼくのルーツ」(小川隆夫『証言で綴る日本のジャズ』ウェブ版より)と語り、2018年には当時組んでいたグループに言及し「この3人とバンドを組めば80年代初頭に尻切れトンボになってしまっていた僕のフュージョン・ファンク・サウンドを僕のオリジナル曲を通して改めて追求できるのではないかと思い立った」(『Jazz Perspective Vol.16』原田和典によるインタビューより)と答えている。

1983年以降の川崎を知らなかったぼくはこれらの言を目にして、ぼくの抱いている“川崎燎像”はそれほど偏ったものではないことを知り安堵し、同時に、進歩的という印象だった川崎が80年代初頭に固執していることを知り意外に思った。川崎が40年近く経ってなお思いを残すサウンドであることを考えると、やはりあそこはひとつの到達点であり、現在から振り返っても際立って見えるのは当然なのかも知れない。

川崎の熱心なファンという訳ではないが『Mirror Of My Mind』(1979年)には特別な思いがある。レア・グルーヴ世代のぼくにとってこの作品は、先行してシーンが成長したロンドンから逆輸入的に情報がもたらされたもの。「ロンドンではDJやコレクターがカワサキリョウの「Trinkets & Things」という曲を血眼で探しているらしい」という具合だ。1990年代初頭のことである。

カワサキリョウが何者であるかを知るより前に『Mirror Of My Mind』を手に入れ、そこに収録された「Trinkets & Things」に出会った。そして、その音楽を何と呼ぶべきか分からないまま、一聴でノスタルジーを孕んだような爽快感に魅了されたのだ。大きな感動ではなかったが、当たり前のようにすんなりと耳に馴染んだことを覚えている。ぼくの中に収まった、と言ってもいい。だからだろう、『Mirror Of My Mind』に関しては “川崎燎”より“『Mirror Of My Mind』”が、さらには“『Mirror Of My Mind』”より“「Trinkets & Things」”が前景に据えられたままぼくのなかで固定されている。この曲はひとつの雛型にして完成形、個人的なレア・グルーヴ的原風景のひとつになっている。

自宅のパソコンも店のパソコンも携帯も“りょう”と打って変換するとかなり上の方で“燎”と出る。ディスクガイドやライナーノーツやウェブショップのコメントなど、川崎の出現率はとても高い。そしてもちろん、レコードを売買するときやDJをするときもその名は重要だ。改めて、川崎の存在がぼくの音楽生活に深く浸透していることを知る。


尾川雄介  おがわ・ゆうすけ
中古レコード店 UNIVERSOUNDS を主宰する傍ら、再発プロデューサー、ライター、DJなどとして活動。手掛けた再発は200タイトルを超える。共著に『和ジャズ・ディスク・ガイド』(リットーミュージック)や『インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ』(リットーミュージック)など。http://www.universounds.net

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