#02 2020年 不失者コンサート

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text by 剛田武 Takeshi Goda
photos by 船木和倖 Kazuyuki Funaki

10月2日(金)東京 高円寺ShowBoat
2020年 不失者コンサート

不失者 -Fushitsusha-
灰野敬二(vo,g,etc)
ナスノミツル(b)
Ryosuke Kiyasu(ds)

ゲスト:
坂田明(sax, cl)
梅津和時(sax, cl)
ドラびでお(LaserModular)
美川俊治(electronics)
森重靖宗(cello)
池田陽子(violin, viola)

灰野敬二公式サイト

溢れ出る音楽は自粛できない。

灰野敬二が1978年に結成したバンド「不失者」は、メンバーチェンジを繰り返しながら進化を続け、40余年を経た現在も彼の美学の核となるバンドとして活動を続けている。今回の公演は2020年5月3日灰野の68歳の誕生日に開催される予定だったがコロナ禍の緊急事態宣言のため延期になったもの。90年代半ばから毎年5月3日に開催されている恒例の灰野敬二生誕記念公演はここ数年、不失者ワンマン公演となっている。2019年は会場を例年の高円寺ShowBoatからキャパが倍以上の渋谷WWWに移しての大規模なコンサートとなった。それをひと区切りとして、今年は複数のゲスト・ミュージシャンを迎えての特別なイベントが企画された。筆者の知る限りでは、1996年4月に法政大学学生会館で開催された不失者とペーター・ブロッツマンの共演コンサート以来、不失者のライヴにゲストが参加したことはない。ましてや一度に6人ものミュージシャンとコラボレーションすることは不失者の歴史の中で初の試みである。

選ばれたのは、いずれもこれまで灰野と共演経験のあるミュージシャン。当日のライヴは3部構成で、第1部と第3部が不失者だけのステージ、第2部にゲストが参加する形で進行した。ゲストは二人一組で各2曲ずつ不失者とコラボした。最初に森重+池田の弦楽チーム、次に美川+ドラびでおのエレクトロニクス・チーム、最後が坂田+梅津の管楽器チーム。リハーサル時に簡単な音合わせをしただけで「あとは本番で楽しみましょう」という感じだったという。ベースのナスノとドラムのKiyasuがあらかじめ作曲された不定型なリズムのアンサンブルを提示し、その上にゲスト二人が自由に音を重ね合わせる。灰野はギターを持たずヴォーカルに専念し、複雑なサウンドのレイヤーを横断するように歌いあげる。その言葉は詩的でありながら、コロナ禍の暗澹たる状況への挑戦心に満ちている。すべての音がバラバラのカオス(混沌)のようでいて、彗星のように長い周期で交差し合うコスモス(調和)を生み出す。根底に感じたのは、弦楽=室内楽、エレクトロニクス=おもちゃの音遊び、管楽器=ニューオリンズ・ジャズといった音楽アンサンブルの原点にあるスピリットだった。

灰野の音楽が轟音だけだと思ったら大間違い。耳を圧する大音量の直後に、呼吸の音よりも小さい静寂が訪れる、そのダイナミズムこそ灰野の音楽の本質であり魔法である。譜面には書き起こせないが、間違いなく精神に記譜されたメソッドが存在する。一見単純明快なので近づけばある程度共有することができるかもしれないが、常に精神をオープンにしておかないと、次のレベルへ行く前に置き去りにされる。かつてハードロックの突然変異と呼ばれた不失者は、決して特殊な異端者ではなく、音楽表現の在り方としては正統派に他ならない。それはコロナ禍が完全に収束しない中、演奏するのが待ちきれないとばかりに出演を快諾したゲスト・ミュージシャンの満足そうな笑顔を見れば明らかだ。溢れ出る音楽は自粛できない、という当たり前の事実を証明したコンサートであった。(2020年12月25日記)

 

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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