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Jazz and Far Beyond

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このディスク2020(国内編)No. 273

#09 『Sabu Toyozumi+Mats Gustafsson / Hokusai』

Text by Akira Saito 齊藤聡

NoBusiness Records NBLP 139

Sabu Toyozumi 豊住芳三郎 (drums)
Mats Gustafsson (baritone saxophone, fluteophone, flute)

Side A
1. SUNFLOWER
2. WOMAN WITH A CAT
Side B
1. FOR EVER – ADVANCING ARTISTRY

All music improvised and composed by Sabu Toyozumi and Mats Gustafsson
Recorded live on 11th and 12th June, 2018 at Jazz Spot Candy, Chiba, Japan by Kunimitsu Tsuburai / 粒来国充
Concert produced by Miyoko Hayashi / 林美葉子Jazz Spot Candy
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Front cover photos by Miyoko Hayashi and Kunimitsu Tsuburai
Design by Oskaras Anosovas
Produced by Takeo Suetomi 末冨健夫and Danas Mikailionis

豊住芳三郎のドラミングを観るとわかることだが、決してひとつの形にとらわれることがなく、何の躊躇もなく次の形へと移行し続ける。即興演奏において、ある瞬間に何か快感を得られるようなリズムやビートが獲得されることもあるだろう。だが、豊住はそれに身をゆだねることをせず、すぐに棄てて次の発見へと向かう。だから、すぐれたジャズプレイヤーがジャズのルールのもとで最大限に遊び、自他でつぼを共有しうる人であるとして、豊住はそれとは本質的に異なっているように思える。

本盤が録音された日のおよそ1週間前に、吉祥寺のGOKサウンドでマッツ・グスタフソンとターンテーブルの大友良英とのデュオを観た(それもまた今年、doubtmusicからCD『Timing』としてリリースされた)。身体の中心を軸のようにしてバランスを取りながらダンスのように左右に揺れ、管を吹く姿にちょっと驚かされた。パワープレイだからといって両脚を踏みしめなければならないわけではない。バスクラもフルートフォン(フルートにマウスピースを付けた自作楽器であり、このときメタル・クラリネットと呼んでいた)も身体機関として動いていた。かれも状況に即応して身体を動かし、それを音と直結させているのである。

すなわち、豊住もグスタフソンも、そのプレイは独自の身体の方法論に基づくものであり、アスリート的なものでも、音楽の職人的なものでもない。本盤を聴くと、ふたりが互いの音に呼応しあうプロセスを追体験することができる。豊住の打音に対してグスタフソンはマウスピースから撥音を放ち増幅させる。グスタフソンが蛇のようでも濁流のようでもある長いグロウルを出すと、豊住はそれに拮抗する形を構築してみせる。それらが大きなうねりを創り出す、じつに刺激的なデュオである。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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