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R.I.P. チック・コリアNo. 275

自由な音楽の世界へようこそ! by pianist 柳原由佳

Text by Yuka Yanagihara 柳原由佳

「チックから受けた影響はあまりに大きかった、、」
ミュージシャンの仲間達が皆口を揃えて言っていますが、私もその一人です。

幼少の頃、週末の昼に親が家でよく流しているコンピレーションアルバムの中に、チックの<Spain>が収録されているのをたまたま聴いた時、他の曲にはない躍動感とチックの独特のフレージング、自由に動き回るプレイに強烈に耳を奪われたのを覚えています。チックという名前も知らなかったのですが、今まで聴いたことのない音楽の世界でした。

それからOLをするつもりで商業高校へ入学したのに、ひょんなことで音楽の専門学校に入学し、それからは今まで知らなかった音楽の歴史や情報が大波となって日々私を飲み込んでいったまさに18〜20歳の青春時代、チックの独特なフレージングやバッキングをよく真似していました。音楽仲間たちとチックの曲を演奏したりあのアルバムがいいだとか、これを聴けだの話し合っていましたが、特に参考にしたのがアンサンブル内におけるピアノの立ち位置やアプローチ方法でした。

今でもライブ前に聴いて参考にしているのが『Like Minds』(Concord)。1997年12月にゲイリー・バートン、チック・コリア、パット・メセニー、デイヴ・ホランド、ロイ・ヘインズが、ニューヨークのアヴァター・スタジオで録音したアルバムです。ピアノトリオ以外にフロント楽器や同じコード楽器のヴィブラフォンやギターが居る編成でのピアノのバッキングやリフの入れ方、ソロの展開方法や曲の捉え方まで、このアルバムからは沢山学びました。案外ギターと一緒にバッキングしてもこうして音が混ざって聞こえてかっこいいのか、など。特に「恐れずに自分が良いと思った音を弾く!」というアルバムを通じて伝わってくるメッセージに何度励まされた事か(笑)。きっと私だけじゃないはず。

チックは生前よくクリニックを行っていて、私も参加した身で、その時に彼が終始「周りに遠慮せず、自分が良いと思う音だけを弾こう。おかしいと思った音があったら、そこに立ち戻って良いと思う音が見つかるまで探ろう」と言っていて、非常にシンプルでありながらも音楽の根本の部分に立ち返る、大切な事を教えてもらいました。

初めてのアメリカ滞在で、ドキドキしながらブルーノートNYのチケットを初めて買ったのもチックのライブでした。それまでずっと音源で聴き続けてきた魔法使いの様な神様の様な存在の人が目の前で仲間達と音を奏で楽しむ姿を見て「自由な音楽の世界へようこそ!」と言ってくれている様に感じました。彼のライブは同じ空間を共有出来ている喜びを感じると共に音楽の世界の広さと深さ、レベルの高さ、厳しさも全てひっくるめて伝わってきた気がします。

彼が演奏を通じて、またクリニックで伝えてくれたメッセージを胸に、これからも音楽と共に生きて行きたいと思います。

チック、ありがとう。
心からご冥福をお祈りいたします。


柳原由佳 Yuka Yanagihara (Piano, 作・編曲)
幼少期からJazz、Bossa Nova、Pops 等さまざまな音楽に触れる。甲陽音楽学院を経て、Berklee College of Music, Jazz Composition Major を卒業。Boston, New York, Pennsylvaniaにてライブやレコーディングを行う。帰国後は自ら率いるピアノトリオの他、ジャンルを問わず様々なバンドやレコーディングに参加。リーダーアルバムとしては、山田吉輝(b)、則武 諒(ds)との柳原由佳トリオで『Remember My Places』『Inner Views』、ピアノソロ『Piano Solo 1』、筒井裕之(g)とのデュオアルバム『GUITAR x PIANO』をリリースしている。現在は関西と関東の2つ拠点を中心に活動中。演奏だけでなく作編曲の提供も行っている。
公式ウェブサイト yukayanagihara.com

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