フルートの開拓者 Chick Corea by flutist 片山士駿

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Text by Shun Katayama 片山士駿

ジャズミュージシャンの中で、いち早くフルートという楽器の可能性を見出し、そしてそれを、当時誰よりも圧倒的な存在感と説得力を持って自らの音楽へ昇華させたのが、Chick Coreaその人ではないだろうか。Chick Coreaが、その長いキャリアの中で共に音楽を生み出していったフルート奏者は、Joe Farrell、Steve KujalaHubert LawsJorge Pardoと錚々たる面々である。またそんな彼の才能を早くから見出し、自らのグループに引き入れ、 またデビュー作となる「Tones For Joan’s Bones」のプロデュースを手掛けたのはHarbie Mannである事からも、ジャズピアノの歴史のみならず、ジャズフルートの歴史を語る上でもChick Coreaの名前を抜きには語る事は出来ない程、彼とフルートとの繋がりは深いものである。


<Spain>をはじめとしたReturn To Foreverでの作品や「Friends」など、Joe Farrellとの録音はあまりにも有名であり、その素晴らしいソロ・プレイからも ”Chick Coreaのフルート奏者=Joe Farrell” という印象は強いと言えよう。無論Joe Farrellは、ジャズ史上でフルートの可能性を広げた、謂わば変革者の一人である。当時のダブリングでフルートを吹く奏者の中でも、特にFarrellはサックス奏者的なアプローチをフルートの音域を幅広く活かしながらトランスポーズしているし、前後して当時頭角を表していたHubert Lawsが、スクエアなリズミックアプローチを多用するのに対し、Farrellはリズムのバラエティに富んだソロを展開する様に感ずる。<Spain>での両者のソロを聴き比べると、其々の個性をより楽しむことが出来るだろう。ちなみに余談ではあるが、Chick Coreaの本人名義のリーダーアルバムで初めてフルートが登場したのは69年の「Is」でのHubert Lawsである。「Tones For Joan’s Bones」のパーソネルにはFarrellの横にフルートの記載があるが、収録曲中ではフルートを演奏していない。(もし、実は別テイクで吹いている等の情報がありましたら、あとでコッソリ教えてください…。)


ジャズのソロイストとしての魅力が光るJoe Farrellに対し、音色の美しさや多彩な奏法を用いた、より耽美的なプレイがSteve Kujalaの持ち味であり、僕が彼に強く惹かれた所以である。まだフルートを初めて間もない時に出会った、Steve Kujalaとの「Voyage」(ECM1282), 「Septet」(ECM1297),「Again And Again」の3作品は、フルートを始めた当時から今日に至るまで、そしてきっとこれからも僕が影響を受け続ける作品であるに違いない。特に「Voyage」と「Septet」の2作品はChick Coreaの即興演奏と作曲のセンス、そしてクラシック音楽からの影響を、緻密なスコアとオーケストレーションから十二分に感じることが出来る。そしてそれは、ジャズミュージシャンとしての音楽的可能性と、表現の幅を大きく広げてくれたものではないかと推察する。フルートを始めたきっかけがジャズであり、ジャズが音楽的バックボーンを占める割合が多い僕にとって、音楽の本質の部分でも、これらのアルバムから受けた影響は計り知れない。「Voyage」のライナーノートによると、グループ加入当初、Kujalaは主にサックスを吹いていたが、間も無くフルートが彼の”first and the most loved instrument”である事を見出し、セクステットのコンサートでフルートとのデュオの時間を設ける様になり、アルバムの制作へと至ったとのChick Corea本人による記述がある。この事からも、フルート奏者としての卓越したテクニックから、Kujalaを80年代前半の作品へと多く起用した経緯が窺える。又Kujalaは、日本の篠笛からヒントを得たとされる、フレットレス・フルートという特殊奏法を考案した第一人者であり、その妙技もChick Coreaに大いにインスピレーションを与えたのではないだろうか。話題に上がる機会が決して多くはないと感ずるKujalaとの共演作だが、1ファンとして是非多くの方々にも聴いて頂けたら…!と願っている次第である。

ところで、広義での”笛”という楽器は、古の時代から世界中の有りとあらゆる場所に存在する。即ち笛そのものが、エスニックな性格を持ち合わせているものと言えよう。先に篠笛の名前を挙げたように、フルートでの表現においてもそれは例外ではない。Jorge Pardoのフルートからは、そうした笛の元来持っている側面を強く感じる事が出来る。クラシック音楽の発展と共に進化してきた現代の楽器を吹いていながらにして、自然と吹き手のアイデンティティが個性として滲み出ると捉えると、これもまた、Chick Coreaが引き出したフルートの魅力の一つではないのだろうか。晩年までChick Coreaのプロジェクトに参加していたJorge Pardoの演奏は、そんな視点を聞き手である我々に与えてくれる。

フルート奏者以外の立場から、生涯のキャリアを通じて自らの音楽表現にフルートを多く用い、そしてその可能性を広げたジャズミュージシャンは、Chick Corea以外にいないのではないだろうか。彼がフルートの魅力をここまで引き出していなければ、ジャズの中でのフルートのフロント楽器としての認知度や、アンサンブルの中での存在感は、決して今日の様な物にはなっていなかったに違いない。彼が切り拓いていった可能性、そして創造していった美しい音楽を、更にこれから次の世代に、フルート奏者の立場から受け継いでいきたいと思う次第である。

チック・コリアさん、素晴らしい音楽を沢山遺して頂き、本当にありがとうございました。心よりご冥福をお祈り致します。

Return to Forever at Molde Jazz Festival 1972, Norway
Chick Corea (keyboards), Joe Farrell (flute, sax), Stanley Clarke (double bass),
Airto Moreira (drums, percussion), Bill Tragesser (vocal, percussion)

Chick Corea & Steve Kujala at Münchner Klaviersommer

※冒頭のMCが”Makoto”(小曽根 真)から始まっているが、「小曽根 真/Now You Know」に Steve Kujara が参加したことにも注目だ。(編集時追記)

Spain
Chick Corea (keyboards), Hubert Laws (flute), Bill Watrous (trombone)
George Benson (guitar), Stanley Clarke (bass), Lenny White (drums)

Spain – The Ultimate Adventure Live in Barcelona, 2007
Chick Corea (piano, keyboards), Jorge Pardo (flute, sax), Carles Benavent (bass)
Rubern Dantas (percussions, calimba), Tom Brechtlein (drums), Hossam Ramzy (Egyptian tabla)
Auxi Fernandez and Tomasito Moreno Romero (Flamenco dancers)

※フルコンサートのDVDが「Chick Corea: The Ultimate Adventure Live in Barcelona」としてリリースされている。(編集時追記)


片山士駿 Shun Katayama – Flutist, Saxophonist & Composer
1995年千葉県出身。国立音楽大学ジャズ専修を首席で卒業、矢田部賞受賞。Manhattan School of Musicにて修士課程を修了。中学時代吹奏楽部で打楽器を担当する傍ら、Jeremy Steigの演奏に衝撃を受け当初独学でフルートを始める。高校進学と同時に千葉大学モダンジャズ研究会に所属し、在学中より演奏活動を開始する。
2015年、第46回山野ビッグバンドジャズコンテストに慶應義塾大学ライトミュージックソサエティの一員として出場、最優秀賞を受賞。個人としても最優秀ソリスト賞を受賞する。フルート奏者の受賞は大会史上初となる。第20回太田市大学ジャズフェスティバルに於いて優勝、個人としてもソリスト賞を受賞。2016年、米国フルート協会 National Flute Association主催 Jazz Artist Competitionに於いて、同部門では日本人初のWinner Playerに選出される。第21回太田市大学ジャズフェスティバルにて、ソリスト賞を受賞。
2018年、Manhattan School of Musicへ入学しニューヨークへと渡る。2020年、新型コロナウイルスの影響により日本へ帰国。現在、都内を中心に自己のカルテット等で活動する他、様々なミュージシャンへのサポートやレコーディングを行っている。これまでに池田篤、大澤明子、斎藤和志、Donny McCaslinの諸氏に師事。YAMAHA Zアーティスト。
公式ウェブサイト

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