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R.I.P. チック・コリアNo. 275

類い稀なイノベーターへのレクイエム by pianist, keyboardist 新澤健一郎

Text by Ken’ichiro Shinzawa 新澤健一郎

Chick Coreaからは計り知れないエネルギーをもらった。突然彼がいなくなってしまって思い知った。自覚していないレベルでもう自分の一部だった。喪失感がすごい。呆然としている。採譜も沢山やった。どうやったらあの音になるのか。

誰にでもすぐに分かるイノベーションから深い内面的なものまでが一直線に繋がった稀有な音楽家。好きになったのは僕がそう感じたから。

Chick Coreaのイノベーションは挙げたらキリがないけれど、見てすぐに分かるのはElektric Bandだろう。FM音源のシンセサイザー(DX7とかのこと)を最も鳴らし切った、弾き尽くしたのもChick Coreaだと思う。初めてレコードで「Rhumble」を聴いたときのあの興奮は今でも忘れない。FM音源のエレピがこんなにエキサイティングにサウンドするものかと。メインのリードシンセよりもVamp的に繰り出されるエレピに感動した自分もどうかと思うけど。

「Matrix」を聴いてあれがブルースのアドリブなのかと驚いた。聴くのが快感だった。ペンタトニックサウンド全開で、かつ、マッコイ・タイナーのそれとは全くテイストが違って。ドレミファソラシドの中からあの旋律と響きを引っ張り出すのは魔法。宇宙の仕組みの紐解き方だよあれは。人を食ったようなテーマも好き。

「Friends」を聴くと何故だか僕は優しい気持ちになれる。折り重なったフルートとRhodesの質感、Steve Gadd本人の言うところの “Samba Like”なリズム、絶妙なサブドミナントマイナー。分析なんてナンセンスかもしれないけれど。


自筆譜見たさに買った『チック・コリアの音楽』(山下邦彦著)。この本から受けた影響も大きい。僕をモードへの取り組みに誘ってくれた。理解して自分で弾けるようになるのはだいぶ後だけれど膨大な自筆譜を見ていれば楽しかった。意外かもしれないが多くの曲が2段譜で左手まで詳細に記されている。「Matrix」の5〜6小節目も書かれたものだった。

NHK「あさイチ」で聴かせてくれたグッチ裕三との「My One And Only Love」。ツアー先のホテルの部屋で見た。セットアップした時の優しい眼差しも、考えられないくらい美しいハーモニーの展開も、それはもう全部彼の世界で100%彼の主張があって、それでも歌が主役になっていて。トニックを出す瞬間のあの優しい波動。あれなんなんだ、、すごい、、、

Chick Coreaを初めて聴いたのはNHK FMで流れていた「Pori Jazz Festival」での「Folk Song」。僕はまだ中学生。ここまで深く影響を受ける音楽家であることは知る由もなかった。

僕はChick Corea Academyの会員だった。二週間に一度のワークショップのゲストにHerbie Hancockや上原ひろみがリモート出演していた。会員から質問を募るのだがコードの弾き方の基本みたいな事にも丁寧に回答していた。サービス精神も素晴らしかった。11月になり更新が止まって…

書き切れないよ。

「Duet」の「La Fiesta」
「Piano Improvisations Vol.1」の「Noon Song」
「Return To Forever Complete Concert」

もちろん”カモメ”の「La Fiesta」も擦り切れるくらい聴いた。頭出しが大変だったよね。

僕からのChick Coreaへのレクイエム。

このテンポで「La Fiesta」のサビの美しさを味わいたくて。このコード進行好きなのかな。「What Game Shall We Play Today」にも現れる。Ⅰ – Ⅲ7 – Ⅳ – #Ⅳdim – Ⅰ/Ⅴ。

Chick Coreaと永遠に繋がりたくて。

「La Fiesta」←→「Life」 イチョウ五重奏団
新澤健一郎(p), 太田朱美(fl), 谷口英治(cl), 帆足 彩(vln), 橋本 歩(cello)

さびしいよ。

そして本当にありがとう。


新澤健一郎 Ken’ichiro Shinzawa – ピアニスト・キーボーディスト・作曲家・編曲家
1968年4月3日東京生まれ。6歳からピアノを学ぶ。東京工業大学大学院建築学専攻修士課程を修了。その後ジャズ、フュージョン、ブラジル音楽、ポップスなど様々な分野を手がける音楽家になった。「PRISM」で「クロスオーバー・ジャパン2004」に出演。NHKピタゴラスイッチ「きょうのスレスレ」のピアノ、NHKドラマ「本棚食堂」の音楽、水樹奈々オーケストラ・コンサート、クリスハートxSMAP、映画「おいしい家族」(音楽:本多俊之)、音楽劇「銀河鉄道の夜2020」(演出:白井晃、音楽;中西俊博)のバンドマスター、NHK東京児童劇団、国際子ども図書館「絵本ギャラリー」など幅広い演奏と作品を手掛ける。共演者は森山威男、増尾好秋、渡辺香津美、本多俊之、櫻井哲夫、カルメン・マキ、早坂紗知、米川英之、本田雅人、今堀恒雄、平松加奈、大槻KALTA英宣、Gene Jackson、Eero Koivistoinen、Jukka Eskola、Timo Lassyなど。これまでに9枚のリーダー作CDを発表。「新澤健一郎ピアノトリオ」「イチョウ五重奏団」「Nervio(ネルビオ)」のリーダー。 昭和音楽大学非常勤講師。
公式ウェブサイト shinzawa.net

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