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このディスク2022(国内編)My Pick 2022No. 297

#02 『藤井郷子/Hyaku, One Hundred Dreams』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

LIBRA 209-071  ¥2300+税(2022年12月9日リリース)

Ingrid Laubrock イングリッド・ラブロック – tenor sax
Sara Schoenbeck サラ・シェーンベック – bassoon
Wadada Leo Smith ワダダ・レオ・スミス – trumpet
Natsuki Tamura 田村夏樹 – trumpet
Ikue Mori モリイクエ – electronics
Satoko Fujii 藤井郷子 – piano
Brandon Lopez ブランドン・ロペス – bass
Tom Rainey トム・レイニー – drums
Chris Corsano クリス・コルサーノ – drums

1.One Hundred Dreams, Part One 15:47
2.One Hundred Dreams, Part Two 10:01
3.One Hundred Dreams, Part Three 10:48
4.One Hundred Dreams, Part Four 11:26
5.One Hundred Dreams, Part Five 10:04

Recorded on Sept. 20, 2022 at DiMenna Center for Classical Music by Joseph Branciforte
Mixed on October 4 by Joseph Branciforte at Greyfade Studio
Mastered on October 16 by Joseph Branciforte at Greyfade Studio

This record is made possible by the support of Robert D. Bielecki Foundation.


「国内ディスク」は藤井郷子の『Hyaku, One Hundred Dreams』がピカイチ。9人編成のうち日本人は3人だが、作・編曲・指揮・ピアノがリーダーの藤井郷子ということでで、「国内ディスク」としても問題なかろう。これは、記念すべき藤井の100作目のアルバム(リーダー+コ・リーダー作)でサイドとして参加したアルバムが30数作あるというから、26年間平均して毎年5作ずつアルバムを制作した勘定になる。この数字を凌駕するのはECMのプロデューサー、マンフレート・アイヒャーだけである。もちろん、制作枚数の多さが問題ではない。僕は、藤井もアイヒャーも最初の1枚からほとんど聴いているが両者とも1作として駄作はない。藤井は本号掲載のインタヴューで師のポール・ブレイから「最初の
10枚は納得できないものになるだろうから早めにそれを作るといい」と助言されたが、ポール・ブレイとの最初の1枚(『Something About Water』)から満足できるものだった、と自ら駄作は1枚もなかったと自負している。
アルバムの詳細については藤井郷子のインタヴュー(と、松尾史朗の達意のレヴュー)を参照願いたいが、共に音楽を共有したいメンバーを集め、一度きりのコンサートで100作目のアルバムを当たり前のように制作する、そして思った通りのアルバムができたと平然と言ってのける、これこそ百数十枚のアルバムを制作してきた経験値のなせる技だろう。資金は、「アメリカのファウンデーションに申請したらしばらくして口座にお金が入っていた」。こともなげに言うが、藤井郷子の才能と努力がアメリカの専門誌のランキングに反映され、NYタイムスにインタヴューが掲載されるという客観的評価の賜物である。ファウンデーションはその事実を評価する。共演のモリイクエも今年「ジニアス・アウォード」と称される高額のスカラシップを獲得した。コンピュータを使った独自の演奏手法を開拓し音楽界の発展に寄与、今後も展開が期待できるという受賞理由である。メンバーはそれぞれが固有の音色とイディオムを有し、ソロで存在感をアピールし、アンサンブルで個性を活かしつつ藤井の夢を紡ぎ出していく。豊かな情景を描き出したミキシングも素晴らしく、しばし藤井の夢を共有する愉悦に浸った。

♫ 藤井郷子インタヴュー
https://jazztokyo.org/interviews/post-82380/
♫ ディスク・レヴュー(松尾史朗)
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-82360/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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